天皇杯 3回戦 横浜ダービー
大型台風が西日本に近づき、大気の状態が不安定となり、東日本でも雨が降ったりやんだりと安定しない気候が続く中。
世間はお盆休み真っただ中。帰省している人も多く、首都圏は少し人の込み具合もいつもよりは落ち着いているような気がした。
だとしても、気温は30度をはるかに超え、日向に長時間いるだけで、熱中症になってしまいそうなほど大量の汗がしたたり落ちる危険な気温だ。
そんな暑い熱を帯びたスタジアムが、今日はさらに熱を帯びて白熱するのだ。
何故なら、今日は横浜ダービーだからだ!
横浜市内をホームタウンに置いている両チーム同士の負けられない戦い。天皇杯3回戦が行われる。
何とこの組み合わせは去年も同じで、同じく天皇杯3回戦でこのスタジアムで試合が行われた。
結果は2--1で何とかダービーマッチを制して、勝利を収めた。
カテゴリーは違えども、絶対に負けられない戦いがダービーマッチ。
チケットは天皇杯3回戦にもかかわらず、全座席完売。注目度の高さがうかがえる。
それもそのはず、相手チームはカテゴリーが下のチームとはいえ、あのサッカーのレジェンド『カズ』を要するチームなのだから。それに加えて、今年はなんと『世界のナカムラ』まで加入してしまい、ここ最近になって再び人気が急上昇のチームなのだ。
スタジアムに足を踏み入れ、座席を確保した後は、手持ち無沙汰となり、ピッチに人が埋め尽くされていく様子を美帆をぼぉっと眺めていた。
「こうしてみてると、やっぱり人って集まると凄いなって思うよね。」
「そうだね、確かに・・・」
そんなことをボケェっと話しながら、あっという間に時間は過ぎていき、選手たちのウォーミングアップが始まった。
やはり因縁のダービーマッチということもあり、サポーターたちの熱の入り方も一味違う。
何というか、応援する熱量というか声量が違う。
どこかピリピリと空気感が張り詰めているようにさえ感じられた。
選手たちもそのサポーターたちの空気を感じ取ったのかは分からないが、どんどんウォーミングアップのテンポが次第に速くなっていっているような気がした。
そんな前座のような熱いウォーミングアップが終わり、選手入場の時。
今日は天皇杯のため、引き分けの場合は延長戦に突入する。
次の土曜日には試合が控えているため、選手たちは疲労を残さないためにも90分で決着をつけたいところだ。
自陣で円陣を組んで、各ポジションへと散らばっていく。
審判が時計を確認して、ピィっと笛を鳴らすと、ワァァァ!!っと大きな大歓声が起こりながら、白熱必須のダービーマッチの火ぶたが切られた。
◇
前半からボールを支配して、相手を攻め立てていく。
相手はディフェンスラインの裏を取ろうと、ロングボールをセンターフォワードの選手に放り投げてくるが、危なげなくDFの選手がブロックする。
すると、前半20分。クロスを相手にはじかれたこぼれ球を拾った選手がすかさずもう一度クロスを上げる。
一瞬空いたスペースに走り込んだ19番の選手がわずかにさわってコースをずらした。これがゴールネットに突き刺さり先制に成功。
そこからも攻め立てると、前半アディショナルタイム。
相手のクリアを回収した選手が、そのまま一人かわす。すると、相手選手が捨て身のアイディングタックル!
これで倒された位置がペナルティーエリアの中だったため、PKを獲得した。
これを危なげなく決めて2-0として前半を折り返した。
後半、相手は中々ロングボールが前に収まらず、ひたすらこちらがペースを握り続けるものの、中々3点目を奪えずにぐずぐずしていると、一瞬のスキを突かれてカウンター攻撃。
このチャンスを見逃さなかった相手選手に決められて、2-1と一点差まで追い詰められた。
そこから、GKの負傷退場や、MF選手の負傷退場と主力級の選手にもアクシデントが多発し、厳しい状態の中。何とか1点差を守り切ってタイムアップ。
見事3回戦を突破して、ベスト16に名乗りを上げたのであった。
帰り道、美帆は安堵の表情を浮かべていた。
「勝ててよかったぁ・・・」
「本当にそうだね」
「いやぁ・・・1点差に追いつかれて、次々に選手たちが負傷退場してって、どうなるかと・・・」
「ハラハラドキドキだったよね」
「うん!特に最後の10分は本当に心臓に悪かった・・・」
こんなにも固唾を飲んで見守って試合を見たのはいつブリだろうというくらいの緊張感がのこり10分くらいはあった。
それは、俺にも美帆にもこのスタジアムにいたサポーター全員に言えることなのではないだろうか?
「にしても、明日から仕事とかいやだぁ~」
「お疲れ様」
「いいなぁ~達也は休みで・・・明日の仕事代わりにやってこい!」
「んな横暴な・・・」
「えへへ。ま、頑張りますかね~」
「なんか、おばさん臭いぞ」
「何を!?」
「痛い痛い!つねるの禁止」
「えへへ!私をおばさん扱いした罰だ!」
そうして、じゃれ合いながら夜の明かりがともる街中を駅へ向かって二人で仲良く歩いていくのであった。
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