第22節 クラシック
今日は、ホームに茨城のチームを迎えての一戦。
3位と4位の上位対決。首位を追走するためには、どちらも負けられない試合だ。
どちらも、一度も降格したことないチーム同士の対決として、いつからか『クラシック』と名付けられたこの一戦。
コンコースには、今までの対戦の記録として、懐かしい選手たちの対戦写真が飾られていた。
俺と美帆も、時間つぶしにその歴史を辿るように過去の写真を眺めていた。
「懐かしいな・・・」
「へぇ~こんな時もあったんだね~」
俺は子供の頃からの記憶をたどり、写真の試合を観戦した記憶がよみがえり、美帆はまだファンになっていない頃の画像のため、「へぇ~」っといった感じで感心していた。
「やっぱりこう見ると、ホームでここ最近は全然勝ててないんだね」
ふと美帆が痛いところに気が付いた。
「そうなんだよね・・・多分美帆が観戦するようになってから、ホームで一度も勝ててないんじゃないかな?」
そう、このホームでの対戦はなんと6連敗中。つまり6年間勝てていない。さらには、5試合連続無得点という何とも不甲斐ない記録までついてしまっているのだ。
「とにかくだ・・・俺たちファンはこの負の連鎖を断ち切るべく、今日もしっかりと応援して勝利を願うのみだ」
「ぶっ、なんか、教授みたいだよ達也」
美帆に鼻で笑われたが、そんなことは気にしない。
「まあ、上位対決だし、何が言いたいかと言うと絶対に勝利しなければならないということです」
「ふふっ・・・そうだね!今日も勝とう!」
美帆は鼻で笑いながらも、笑顔で気合を入れるようにそう答えてくれた。
◇
選手たちがウォーミングアップのため、ピッチに姿を現した。この一戦の重要性を選手たちも分かっているようで、ウォーミングアップから真剣そのもの。ファンの応援にも熱が入る。
相手サポーターも多くの人がスタジアムに駆け付けていた。
下手したらこちらと同じくらいの人数がいるのではないかと思うくらい沢山来ていた。
「負けないように応援しないとね!」
美帆が一人で握りこぶしを作りながらそんなことを呟いていた。
◇
選手紹介も終わり、選手入場。
応援歌を歌いながら会場のボルテージも上がり、選手たちが円陣を組んで各ポジションについて、審判がピィっと笛を鳴らして、こちらボールから試合が始まった。
そして、センターサークルからDFの選手にパスが回り、DFの選手がGKまでバックパスをした。そのボールを相手選手が必死に追いかけてくる。
GKの選手は相手選手を交わしてからサイドバックの選手にパスを送る。
そして、パスを受け取ったサイドバックの選手が再びGKにパスを戻そうとした時だった。
もう一人相手選手がプレッシャーに来ていたのに気がつなかったのか、ペナルティーエリアないでボールをかっさられてしまう。
そして、ボールを奪った選手はそのまま左足一閃!
これが何とゴールにすいこまれ、なんと開始20秒でいきなり失点した。
これにはさすがのサポーターも唖然。
嵐のような失点劇に言葉を失ったが、すぐに「切り替えるぞ!」などど選手たちを鼓舞する声が上がり、なんとか息を吹き返した。
それから、選手たちも失点を忘れたように自分たちのサッカーを貫いた。
今日は、決定的なラストパスからシュートまでの形は何度も作ったが、最後のシュートするところで、相手選手にマークされ、思い通りのシュートが放つことが出来ないまま前半が終了。
ハーフタイム、美帆はこんなことを言い出した。
「このまま0-1で試合終了したら、ちょっとファンとしてもやってられないよね・・・」
「まあ・・・そうだな・・・」
だって、開始20秒ですもの・・・それから90分何してたの?となってしまう。
「まあ、後半は何かあるんじゃないかな?」
多分・・・
そう心の中で呟いて、後半を見ることにしよう。
後半、やはり一つギアを上げた選手たちは、何度も相手ゴールに迫る。
そんな中、相手のコーナーキック。こぼれ球を押し込まれ追加点・・・かと思いきや、まさかのノーゴール判定。
これには、相手サポーターからダイブーイング。
しかし、これが流れを変えるきっかけとなる。
サイドを突破した選手がクロスを上げる。
飛び込んだ選手がベディングシュートを放つが、相手選手がブロック。
高々と浮いたボールに反応したのはさきほどクロスを上げた選手。
ベディングシュートを放つと、そのままボールはゴールへ・・・!
実に6年ぶりとなるゴールが決まり、1-1の同点に追いついた。
だが、ゴール前にいた選手がオフサイドじゃないかと相手選手が猛抗議。しかし、今回は判定が覆らずゴールが認められる形となった。
だが、そんなのもつかの間だった。
不用意なファールを犯したMFの選手が、今日2枚目のイエローカードとなりレッドカード退場。一人少ない数的不利な状況となる。
それから防戦一方。
なんとか耐えていたが、後半43分。ゴール前にボールを供給されると、一瞬マークのずれが生じ、相手選手にわたる。これをベディングで逸らして、奥から走り込んできた選手がダイビングボレー。
これがネットを突き刺して、再び勝ち越し。
結局これが決勝点となり、1--2。
今シーズン初めてのリーグ戦連敗を喫し、順位も4位に転落。首位のチームが勝利したため、優勝争いから一歩後退となってしまう残念な試合となってしまったのであった。
◇
帰り道、俺と美帆はお通夜みたいに肩を落として、何もしゃべる気力すら残っていなかった。
にしても、ここ最近で3回もレッドカードが出る異常事態。
不用意なファールやプレーが多く、それだけで勝ち点を6も失っている状況では優勝するのは難しい。
「なんだかなぁ・・・」
「ね」
「自分たちのサッカー以前に気持ちの問題の気がするんだよな・・・」
「それは私も思った」
ここ2試合は、先制点を先に奪われる展開。やっているサッカーが攻撃的のため失点は多少仕方ない部分があるが、失点しても仕方ないといったような空気感が試合中にも感じられているのがあまりよくないと感じてしまう。
「・・・ねぇ、達也・・・」
「ん?どうした?」
「もし、このままずるずるいっちゃったらどうしよう・・・」
美帆は俯いて前を見ながら、どこか悲壮感漂う感じでそう言った。まるで、これから最悪の事態が起こるのではないかと想像して・・・
「そんなことないよ!これから、絶対に選手たちは頑張ってくれる。それに・・・俺たちは応援しか出来ないから・・・」
そう、俺たちがどうあがいても最後にやるのはプロの選手たちだ。
俺達にはどうすることも出来ないやるせない気持ちをお互いに残しながら、岐路へ着くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。