第20節 夏休み初日の神戸戦
今日から子供たちは夏休みという人も多い中、初日からどこかお出かけでも連れていこうと考える親御さんも多いと思う。
そんな中で、サッカー観戦を選択する人は、ごく一部に過ぎないかもしれない。
しかしながら、スタジアムには多くの子供連れのサポーター達が駆けつけており、いつもの倍以上は人の大群がスタジアムの外周を埋めつくしていた。
今日の対戦相手は神戸のチーム。つまり、世界的スター選手が見られる絶好の機会なのだ。
普段から地元のチームを応援しているサポーターでさえ、世界的スター選手の圧巻プレーを人目見ようと、いつもよりワクワクドキドキしながら試合を待ちわびている人もいるであろう。その中で、地元のチームが勝つことができたら最高の結果になるであろう。
そう望んでいる人がここにも約2名。
俺と美帆は、何処かいつもよりも浮かれ気分で席に座りながらスタジアムで購入した夕食を食べながら、試合が始まるのを待っていた。
「いやぁー子供連れの家族多いねぇー。やっぱり夏休み初日というとこもあって、凄いね」
「そうだね〜どのくらい来てるんだろう?」
スタジアムを見渡す限り、まだチラホラと到着していない人達の空席は見られたが、今日はチケットが完売だと発表されているので、試合が始まる頃には大勢のお客さんでスタジアムが埋め尽くされるのであろう。
それを想像するだけでも、胸がウキウキする。
そんなことも相まってか、選手たちがウォーミングアップでピッチに現れた時、ザワザワと観客席からざわめきが巻き起こった。
無理はない、なぜならば世界的スター選手が、地元の応援しているクラブチームの反対コートにいるのだから。
◇
あっという間に夢のような時間は過ぎてゆき、選手入場。ここまで来たら、ファンの気持ちはただ一つ、勝利を願うのみ。
サポーター達の応援の熱もようやくボルテージが上がり、試合モードへと突入する。
「がんばれー!」
円陣を組んだ選手たちに、美帆が拍手しながら叫び、選手たちを鼓舞する。
審判が時計を確認して、相手チームボールで試合が開始された。
◇
前半は、相手が高い位置からプレスを掛けてきたことで、ミスが散見し、何度か危ない場面を作られるものの、相手がシュートの精度を欠き、何とか難を逃れる。
そんな中で迎えた、前半終盤。
FWの選手が相手GKからボールを奪うと、カウンター!
少しもたつきながらも、走り込んだ選手にパスを送る。
戻った相手DF3人を引き付けながら、先程ボールを奪ったFWの選手にラストパス。
再びゴールに戻ったキーパーと1対1を冷静に決めて、先制点を奪い前半を1-0で折り返す。
だが、後半序盤、チャンスに飛び込んだ先制点を決めたFWの選手が負傷。交代を余儀なくされてしまった。
さらに後半15分、こちらのパスが相手に渡り、決定的なピンチを迎える。
これをDFの選手が後ろから足を出して倒してしまう。
これでなんと決定機阻止と見なされて1発レッドカード退場となり、10人での戦いを余儀なくされてしまった。
この時、蘇るのは試合終盤で逆転を喫した試合のこと。
しかし、この日のチームは落ち着いていた。
守備を始める位置を少し下げながらも、ディフェンスラインを高く保ち続けて、よりコンパクトに陣形を固めて、相手チームにチャンスを与えないようにする。
そんな中迎えた後半33分、フリーキックからちょこんと前に浮き玉のパスを送る。
これに反応した選手が一気にゴール前へ、キーパーをかわしたところで倒されてペナルティーキックを獲得した。これを冷静に流し込んで2-0とリードを広げる。
このあと、相手の猛攻にあい、何人かの選手は足がつり、厳しい条件の中何とか無失点で長い長いアディショナルタイムも耐え抜いて、試合終了。見事完封勝利で今シーズン2度目の3連勝を飾ったのであった。
◇
帰り道、スタジアムが満員ともなれば、流石のJRでも臨時列車を出す。
しかし、それでも人の波は収まる気配を知らず、ついには駅の入場規制まで行われてしまう。
「全然電車に乗れない…」
「そうだね。隣の駅まで歩く?」
「えー?!ここまで来たのに?!嫌だーもう歩きたくない〜」
美帆は、子供のように駄々をこねる。周りの視線がちょっと痛かった。
「とにかく、電車に乗るには待つしかないからもうちょっと辛抱してな?」
「はーい」
渋々と言った感じで、美帆がコクリと頷いた。
まるで子供をあやしているかのように美帆を宥めていると、もし美帆と結婚して、子供が生まれた時に、その子と美帆両方が駄々をこねている姿を想像してしまい。少し気苦労を感じてしまうのであった。
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