第18節 再び這い上がるために
俺は西に傾く太陽の光を浴びながら、代わり映えのない一本道の高速道路をひたすら走っていた。
チラリと隣の助手席を確認すると、スヤスヤと寝息を立てながら美帆が眠っていた。
今、俺たちは北海道にいた。というのも、共通の知り合いが北海道で現在仕事をしており、会いに来ていたのだ。
久しぶりに会った友人は、現在北海道の田舎町で役場職員として働いていた。元々彼女の地元がこっちの方だったため、彼女にとってはUターンして就職して戻ってきたということになる。
彼女とおしゃべりしながら昼食を取り、俺たちは札幌市内のホテルに帰るため16時頃に街を出たのだが…
「はぁ…」
思わずため息が漏れてしまう。
正直北海道をなめていた。こんなにも北海道が大きかったなんて…
まあ、札幌なら一日で帰ってこれるだろうと思って、ホテルを予約したのだが、札幌から高速道路をひたすら走って片道3時間半の道のりを往復するのは地獄だった。
走っている間も、見えてくるのは海と山、そして時々トンネルの連続。
美帆は眠ってしまって話す相手もいないため、車の走行音とエンジン音だけが辺りには響いていた。
俺がカーナビに表示されている時計を確認すると、時刻は19時を過ぎていた。
今日はJリーグの試合が大分で行われている。
美帆にとっては残念な一週間だったであろう、昨夜、好きな10番の選手がヨーロッパへの移籍が報道された。元々ネット記事などでは噂が出回っていたが、ついに公式でも発表があった。そのニュースが発表されたとき、美帆と一緒にホテルにいたのだが、じぃっとスマホの画面を見て、ショックを隠せずに悲しい表情で固まっていたのが印象に残っている。
それからしばらく気を落としてしまい、ずっと朝から元気がなかった。
そして、今はようやく落ち着いたのか眠りについて一息ついているということだ。
今はサッカーの話題を出さない方がいいと思い、俺はひたすらにホテルへの道を走り続けるのだった。
21時すぎに、ようやくホテルに到着した。
チェックインを済ませて部屋へと向かい、ようやくベットに腰かけることが出来た。3時間以上車を運転していたせいか、腰が痛い。
そういえば、試合はどうなったかなとスマホを開こうとした時だった。
美帆が持っているタブレットの方から音声が聞こえてきた。
美帆は真剣に何かを見ながら俺の方へと近づいてきて、隣に座った。
画面を見ると、試合の中継映像が映し出されており、そこには美帆の好きな10番の選手が試合終了後のピッチで、最後の挨拶を行っていた。
こんな形で最後のお別れを美帆も思ってはいなかっただろう。同情する気持ちを抑えながら、俺もタブレットへと目を移した。
「絶対に海外で成功するまで帰ってこないという気持ちでやってきます!」
そう意気込んで10番の選手は、サポーターたちに感謝の意を述べて締めくくった。
映像が再び実況席へと戻り、試合のハイライトが始まった。
試合は、決定機をお互いに決めきれずに1点を争うゲーム展開であったようだ。
そんな中で後半終盤。ゴール前まっでテンポよくパスを回すと、最後はFWの選手がシュートを放つ。一度は、相手ディフェンダーにブロックされるが、その跳ね返りが再びFWの選手の前に転がってくる。これを、迷いなくもう一度右足で振りぬくと、再び相手ディフェンダーに当たるが、ボールの勢いが勝り、今度はゴールー方向へと進む。
ディフェンダーに当たったおかげで、コースが変わり、相手GKは対応しきれず、そのままゴールネットを揺らす形となった。
結局これが決勝ゴールとなり、1-0の完封勝利を収める形になったのであった。
◇
ハイライトを見終えて、美帆がタブレットの電源を切った。
すると、力が抜けたようにそのまま体を俺の肩に預けてきた。
その美帆の体を俺は受け止める。
頭を手で押さえてヨシヨシと撫でてあげる。
しばらく、美帆の鼻をすする音だけが部屋の中に響き渡ったが、俺は何も言うことなく美帆が落ち着くまで隣に寄り添っていてあげたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。