第14節 ダービーマッチ
今日はフライデーナイトJリーグ、通称金Jだ。
ホームに迎え撃つのは、同じ県にホームタウンを置くチームだ。
カップ戦で既に2回ほど対戦しているのだが対戦成績は1勝1敗。
そして、今日勝利すれば今シーズン初のリーグ戦3連勝となる戦いだった。
俺は仕事をなんとか定時で終えてそそくさと会社を後にした。
会社を出たところで、美帆に連絡を入れておく。
『試合開始までには到着できるよ』
電車に乗り込み、向かっているときに美帆からの返信が来ていた。
『わかったー待ってるよ!』
俺は『達也、行きます!』というスタンプを送ってスマートフォンを閉じた。
◇
スタジアムの最寄り駅に到着して、道中のコンビニでおにぎりや飲み物を調達する。
コンビニは、いつもの試合よりも混んではいなかったものの、レジには多くの人が並んでいたため、買い物を済ませるのに10分ほどかかってしまった。
俺は左手首に巻きつけてある腕時計をチラッと確認する。
時刻は18時30分を指していた。
なんとか試合開始までには間に合いそうだったので、俺は気持ち早歩きでスタジアムへの道を急いだ。
◇
スタジアムに到着して、IDカード式のチケットをかざして入場ゲートを潜る。
コンコースを歩いて、いつもの観客席への入り口の番号が書いてあるゲートを潜った。
観客席に入ると、中では丁度選手紹介が行われていた。夜のゲームなので、スタジアムの照明が消えて、専用のサイリウムで赤、青、白の3色にスタジアムが彩られ、幻想的な景色を作っていた。
そんな彩られた観客席の中を腰を屈めて進んでいき、美帆から送られてきた座席番号のある階段を下りていく。
目的の場所へ到着すると、選手紹介のBGMに合わせて、手拍子をしながらテンションアゲアゲの美帆の姿を発見する。
ガヤガヤとした周りの中で、俺はトントンと美帆の肩を叩いた。
肩を叩かれ、くるっと驚いたような表情でこちらを向いた美帆は、その人物が俺だと分かると、ニコッと笑みを浮かべて破顔した。
「やっほー、なんとか間に合ってよかったね!」
俺に聞こえるように大きな声で話しかけてきた。
「うん!なんとかね!」
俺も同じように美帆に聞こえるように大きめの声で返事を返すと、美帆が俺の席を指差して通路を開けてくれた。
俺はありがとうと手を合わせて、美帆の前を通り、取っておいてくれた座席へと荷物をおいて、試合観戦の準備を始める。
スーツを脱いで、鞄の中からユニフォームを取り出して、Yシャツの上から着る。
そして、手に提げていたコンビニのビニール袋からお茶のペットボトルを取り出して、座席の前に取り付けられているペットボトルホルダーへお茶を入れる。
準備を終えると、選手紹介が終わり、選手入場の時間となった。
コールリーダーから試合開始前の応援歌が聞こえてきた。
サポーター逹は、首にかけていたタオルマフラーを両手で体の前に掲げながら応援歌を歌い始めた。
俺も慌てて鞄からタオルマフラーを取り出して他のサポーター逹と同じように体の前に掲げた。
直後に選手がピッチに入場してきた。
一礼した後に、相手選手と審判団に握手を交わして、写真撮影を行う。
写真撮影を終えて、キャプテン以外の選手がピッチに散らばった。
キャプテンは審判の元へと向かい、コイントスをしに行く。
すると、コイントスで陣地を選んだ相手チームがコートを逆にした。
前半はこちらのチームがファンの方に攻めてくることになる。
向こう側のコートへと向かった選手逹は、陣地となったコートの中央付近で円陣を組んで気合いをいれた。
FWの選手がセンターサークルへと向かい、ボールの前にスタンバイした。
審判が時計を確認して、ピぃー!っと笛をならして、試合がスタートした。
◇
試合は予想通り、相手が高い位置からプレッシングを掛けてきて、こちらのパスサッカーを封じようと試みてきた。
しかし、試合はこちらのパスサッカーが上回り、相手の右サイドの背後を取った選手が一気にペナルティーエリア深いところまで侵入してクロスを供給する。
これをピンポイントで合わせたFWの選手が落ち着いてワンタッチシュートを放ちゴールネットを揺らして先制に成功した。
だが、前半20分過ぎ、相手選手と接触したキャプテンの選手が、担架でピッチの外に運ばれ、試合続行不可能となってしまう。
急遽交代を強いられることになったが、美帆のお気に入りの10番の選手が交代でピッチに入ってくると、「頑張れー!」っと美帆が黄色い声援を声を張り上げて送っていた。
この後は、徐々に相手ペースとなっていったが、なんとかこのまま前半を乗りきるかと思った44分。
相手のコーナーキックのこぼれ球を拾われると、拾った選手が一気にゴール前に進入して素早いクロスを上げる。
これに反応した選手にゴールを決められて、前半は1ー1で終える。
後半、相手は前半同様プレッシャーを掛けてきて、中々ボールを前に出せないシーンが多々起こった。
そんな中、高い位置でボールを奪われて、一気に逆サイドに展開される。
逆サイドに走り込んでいた選手は、ダイレクトでボールをゴール前へ放り込む。
これに反応したFWの選手がヘディングシュートを放つが、これを守護神のGKがファインセーブ!
なんとか勝ち越しのピンチを防いで難を逃れた。
そして、ピンチの後にチャンスあり、針のようにパスを通すと、左サイドをドリブルで駆け上がる、ペナルティーエリア深くまで侵入すると、クロスを上げると見せかけて、クイっと切り替えす。
相手はスライディングを試みるも、華麗に交わしてゴール前へラストパス。これをFWの選手がシュート!
一度はディフェンダーの足に当たり阻まれるが、宙高くに浮いたボールを着地点で待っていた選手がボレーシュート!
これがネットを揺らして2ー1、勝ち越しに成功する。
試合はその後、耐え凌ぐ時間が続いたが、ディフェンダーの選手が幾度となく跳ね返して、そのまま試合終了。
2ー1で競り勝ち、見事に今シーズン初のリーグ戦3連勝を達成した。
◇
「いぇーい3連勝!!」
「いぇーい!」
俺と美帆は、スタジアムを出た直後ににこやかな笑みを浮かべてハイタッチを交わした。
「暫定だけど2位だよ2位!首位が見えてきたね!」
「そうだな…」
「ん?どうかした?」
「ん?あ、いや何でもないよ!」
どうやら俺が悩んでいるような表情をしていたようなので、美帆が心配してくれたようだ。
「まあ…悩んではいたんだけどね…」
「ん?何か言った?」
「えっ!?あ、いや、今日は家来る??」
「あ…うん、いこっかな」
少し恥じらいながら頬を染めて言ってくる美帆を見て、俺はドキっとさせられてしまう。
「よ、よし、行くか」
「うん…」
俺たちの間に甘酸っぱい雰囲気が流れつつ、俺の家に向かって歩きだした。
まだまだ、リーグ戦は中盤戦が始まったばかり、もう少し、秋を過ぎて冬になった頃、もし優勝争いをしていたら…その時に今悩んでいたことはもう一度考えよう。
そう頭の中で自己完結して、美帆の手を掴んだ。
美帆は一瞬驚いたように俺の方を見たが、恥ずかしくなったのか、すぐに俯いてしまった。
だが、嫌がる様子はなかったので、そのまま手をギュっとつなぎながら帰路を歩いていったのだった。
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