第13節 アウェイ2連戦

 朝、新横浜駅で待ち合わせをして、新幹線に乗りこみ俺たちが向かったのは、静岡県浜松駅だ。そこから、在来線に乗り変えて数駅、最寄りの駅に到着した。さらにその駅から臨時のシャトルバスに乗って15分ほど、ようやく目的地に到着した。


「や、やっと着いたぁ…」

「結構時間かかったな…」


 家から出て約4時間。隣の県とはいえども、やはり遠いものは遠いのだ。

 美帆は行の電車だけでもう既に疲れの色が見えていた。


 さらに追い打ちをかけるような真夏のような日差し、まだ5月だよな?と疑ってしまうほど俺たちを照りつける太陽が俺たちの体力を消耗させていく。


 ようやくスタジアムのアウェイサポーターシート自由席の待機列に到着して、列に並んだ。

 既に多くのアウェイサポーターが荷物を置きっぱなしにして、木の木陰や建物の下に避難していた。


「俺たちも日陰で待ってようか?」

「うん、そうする」


 荷物を列におき、貴重品だけ身につけ、木陰を求めて辺りを散策した。

 すると、丁度よい細い通路のような木陰を見つけて腰かけた。


 体の力を抜いて座りこむと、一気に足に疲れが溜まっていることに気づかされた。



 しばらくお互いに足を伸ばして木陰に座って休憩をして、入場時間30分前に列へと戻った。

 日差しは容赦なく振り注いでおり、再び体が沸騰するかのように温められる。


「あっつい・・・達也…氷頂戴」


 俺は事前に用意しておいた保冷剤をバックから取りだして、美帆に手渡した。

 タオルに保冷剤を巻き付けて、首にかけると、「あぁ~冷たい~」っと美帆が顔を緩めて微笑んでいた。


 そんなやり取りをしているうちに、開門が始まったようで、列が徐々に動き出した。俺たちも、列から離れないように荷物を持ってゆっくりとついていく。


 10分ほど進んでようやく入場ゲートに到着する。スタッフにチケットを切ってもらい、今日の試合のパンフレットなどを受け取って席の確保しにいく。

 なんとか席を確保し終えて、次に昼飯の調達へと向かった。


 しかし、気温30度越えの猛暑日に近い暑さでは、中々食欲もわかないのが無理はない。

 結局、一度再入場ゲートから外へ出て、近くにあったスーパーでお惣菜などを買ってきて、スタジアムに戻り、二人でつまんで食べた。



 ◇



 食事を終えて、ユニフォームにそれぞれ着替え終わり、選手たちのフォーミングアップが始まった。


 今日も太陽の光が突き刺さる中、大きな声でサポーター達は選手へ声援を送る。


 いつものようにアップ時の応援を終えて、選手たちが一度ロッカールームへと戻ったところで、両チームの選手紹介が行われた。選手紹介が終わると、ついに選手入場で試合が始まる。


 選手入場時にいつも歌う応援歌を歌いながら、選手たちがピッチに現れるのを眺めている。


 そして、今日は日差しの関係だろうか、相手チームが陣地をチェンジした。

 よって、こちらのチームは前半サポーターの方に攻めてくることになる。


 向こう側のコートで円陣を組んで、各ポジションに散った。

 そして、センターサークルへFWの選手が入り、ボールの前に立ったところで、審判が時計を確認して、ピィ!っと笛を鳴らして試合が始まった。




 試合はこちらのチームが優勢に試合を進めるが、中々チャンスを決めきることが出来ない。

 しかし、前半30分過ぎ、ペナルティーエリア少し外でボールを拾った選手が、相手選手を一人かわして、左足一閃!見事ゴールネットに突き刺さり先制に成功した。


 そして、お馴染みとなったファンから応募したゴールパフォーマンス。

 今日は、某漫画のヒュージョンを何人かの選手で連携してやって見せた。


 サポーターのボルテージも最高潮に登りつつ、前半は1-0で終えた。


 後半、序盤は相手チームが優勢に試合を進めてきた。

 何度もゴール前にクロスを入れられるが、ディフェンス陣が何とか跳ね返し続けてた。


 そんな中迎えた、後半15分、相手のシュートをブロックすると、そのボールを拾った選手が一気に前線にドリブルを開始。


 30メートル以上ドリブルで中央突破をして、右サイドを駆け上がっていた選手にパスを出した。

 受け取った選手は、待ち構えていた相手選手を一人かわして左足一閃!GKが届かないサイドネットに突き刺して追加点を奪った。


 さらに後半20分、左サイドから上げたクロスが、相手のハンドを誘い、ペナルティーキックを獲得する。これで得たPKを確実に決めて3-0とする。


 チームにも勢いが付いてくる中、攻撃の手を緩める気はない、その10分後、絶驚なパスでディフェンスラインの裏に飛び出した選手がペナルティエリアに侵入。

 中をしっかりと確認してからマイナス方向へパスを送ると、ゴール前で待っていた選手にドンピシャリ、最後は相手GKも全く反応が出来ない完璧な崩しからのゴールで4-0とした。


 その後も猛暑の中、集中力を切らさずに最後まで走り切って、試合終了。4-0とスコアだけ見れば、今年一番の快勝ともいえる試合となったのだった。



 ◇



 試合が終わり、勝利の余韻に浸りつつ、時刻は現在夜の18時。スタジアムから1時間30分近くかけて、ようやく浜松駅に戻ってきていた。


「やっと着いたぁ~」

「バスの立ちっぱなしマジでつらかったな」

「本当にね、あの渋滞どうにかしてくれないかな」


 試合終了後、シャトルバスに乗りこむまではよかったのだが、そこからが地獄だった。

 普通ならバスで15分ほどで最寄りの駅まで到着するのだが、試合終了後のサッカー渋滞に巻き込まれ、なんと1時間近くも駅に到着するまでかかってしまったのだ。

 しかもバスの中ではつり革につかまって、立ったまま乗車していたので、とても足がパンパンに疲れてしまっていた。



「とりあえず、新幹線の時間までまだあるし、どこかで休憩でもしてる?」

「あ~いやぁ~お土産みたいんだよね」

「そっか、じゃあ手早く買ってホームの休憩所で待つか」

「うん」



 この後の行動を即座に決めて、まずは美帆が買いたいというお土産と購入するため、駅併設のお土産屋へと向かった。

 だが、美帆は何を買うのか決めていなかったようで、お店の商品を見て、どれにしようかと悩みまくっていた。

 結局お土産だけで30分近くも時間を費やしてしまったので、新幹線の時間ギリギリになってしまった。


 俺たちは駆け足でホームへの階段を登り、なんとか新幹線へと乗りこんだ。


「ふぅ~何とか間に合った・・・」


 俺たちが乗りこんだ瞬間、ドアが閉まり、新幹線が出発した。


「大体、なんでお土産選ぶのにそんなに時間かかかってるんだよ、買うもの決まってんのかと思ってたぞ」

「いやぁ、ごめんごめん!美味しそうなものが多くて、つい目移りしちゃってさ」


 悪気のない笑みでそんなことを言ってくる美帆に対して、俺は皮肉交じりのため息をついて言った。


「ったくよ、今度からは気を付けろよ」

「はーい」


 反省の色が見えない美帆を横目に見つつ、肩の力をふぅ・・・っと抜いて、自分たちの座る席へと移動する。



 無事に座る席を見つけ荷物を上の棚に上げて、ようやく着席した。


「いやぁ~お疲れ様」

「ほんとだよ」


 疲れの原因の何割かはお前だけどな…とは流石に言えなかった。

 そして、座席に座って気を空いた瞬間。一気にどっと疲れが押し寄せてきた。


 俺は体が重くなってしまい、瞼が開かなくなって来た。


 何度も眠りそうになり、頭がぐわんぐわん揺れ始めた時だった。

 急に誰かに頭を抑えられたかと思うと、そのまま体を左へと持っていかれて、ポンっと何かに頭が乗っかった。


 目を開けると、美帆がよしよしと頭を撫でながら、肩を貸してくれていた。


「お疲れさま、ありがとうね達也」

「おう…」


 もう返事すらもまともにできる状態ではなかったので、このまま美帆に体を預けるようにして、俺は眠りへといざなわれていったのであった。


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