カップ戦 第5節 勝負の試合

 今日はカップ戦第5節ホームに北海道のチームを迎えての試合となっている。

 現在応援しているチームの順位は暫定2位、下2チームとの勝ち点差は同着と2差。

 そして、今日対戦する北海道は暫定1位となっており、残り2試合正念場を迎えた中で行われる試合となっていた。

 しかし、残念ながら俺はGWのツケが回ってきて、残業をしなくてはならないため、試合には行けそうになかった。


 今日は昼間から雲一つないポカポカとした陽気のため、夜も絶好のサッカー日和であることは身に染みるほど分かっていた。


 クソ…10連休なんてやっぱりするもんじゃなかった…連休の前後が忙しすぎるんだよ…畜生め…

 俺はそんな愚痴を零しながら、カタカタとパソコンのキーボードを打ちながら、仕事を進めていた。


 試合会場には、美帆が一人で観戦に行っているので、俺は残業をしつつ、何か動きがあり次第、美帆に連絡をしてもらうことになっていた。

 デスクの机の上にスマホを置きっぱなしにして、バイブレーションが振動する設定にしておいた。



 ◇



 しばらくして、パソコンの下に表示されている時計を見ると、19時を回っていた。

 そろそろ試合が始まる頃だろうと思いながら、仕事を続けるのだった。


 20分ほど経過した頃、机に置いてあったスマホがブーブーと振動した。

 俺はそれを合図に、スマホを手に取って画面を開いた。


『先制したよ!』


 美帆から嬉しそうなスタンプと共に、そう返事が来ていた。


『お、いいね!』


 俺はそう一言送り返して、再び仕事に戻った。


 それから1時間ほど経った頃、ふと時計を見ると、20時を過ぎていた。

 そろそろ後半も半ばくらいまで試合が進んでいるが、美帆からの返事はなかった。

 試合がどうやら1-0のまま続いているのかなと思っていた矢先。再びブーブーっとスマホが振動した。

 俺はスマホの画面を開いて、メッセージを確認した。


『ヤバイ!4-0なんだけど!!』


 美帆からはそのようにメッセージが届いていた。


「は!?」


 俺は思わず声を出して驚いてしまう。

 信じられずに、スマホでWEBページを開いて試合速報を確認する。

 すると、確かに表示は4-0と画面に映し出されていた。


「す…すげぇ…」


 にしても…俺が仕事で行けない試合に限って、こんな快勝しなくてもいいんじゃないですかね…

 逆に虚しくなってしまった。


『凄いね!最後まで応援頑張って!』


 俺はそう美帆に返事を返して、再び仕事に取り掛かったのであった。


 時刻は21時を回った。

 美帆からの返信はなかったが、試合結果を確認したところ4-0で勝利したようだった。

 これで、首位の北海道のチームを得失点差でも上回り、首位に浮上した。


 ◇



 試合も終わり、俺もようやく仕事が一通り切りが付いた。


「やっと終わったぁ~」


 凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをしていると、机に置いてあったスマホが再び振動した。

 今度は振動が鳴り止まなかったので、俺はスマホを手に取って、画面を開いた。


 中を確認すると、美帆から通話が来ていた。

 丁度仕事もきりがいいところだったので、俺は通話ボタンを押して、スマホを耳に近づけた。


「もしもし?」

「あ、達也??お仕事お疲れ~」

「お疲れ様、どうした?急に電話なんかしてきて」

「いやっ・・・っと…って」

「え?何?」


 美帆はまだ試合会場にいるらしく、周りの人の声がガヤガヤと五月蠅いため、声が聞き取れなかった。


「達也は今から、帰るのかなと思って連絡した!」


 今度は俺に聞こえるように声を張り上げて美帆が話しかけてきた。


「あぁ…ごめん。もうちょっと仕事が時間かかるから、まだ家は帰れなさそう!」

「そんなに忙しいの!?大変だねぇ~」

「まあな、GWのツケが回ってきてる感じ」

「あはは…そっか、そっか」


 美帆はご愁傷様と言った感じで苦笑いをしていた。


「それじゃあ、私は今日は家に帰ろっかなぁ~」

「そうしてくれ」

「うん、分かった」

「勝利おめでとう」

「うん、ありがと!めっちゃ楽しかったよ!達也来れなくて残念だったね~」

「あぁ…軽くショックだよ」

「あはは~、まあ、週末のリーグ戦でも爆発してもらおう!それじゃあね」

「おう、じゃあな」


 そうして、試合会場にいる美帆との通話を切った。

 俺は再び現実に戻されたが、チームが快勝してくれたのと、美帆元気そうな声を聞いたおかげで、気持ちが少し晴れやかな気持ちになり、もうひと頑張りしようと息を吐いて、姿勢を正して机に向き直るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る