カップ戦 第4節 借りを返す時
「お疲れ様でした~」
定時よりも30分ほど過ぎてしまったが、なんとか仕事を終わらせて会社を後にした。
俺はすぐさま会社の最寄り駅から電車に乗り、巨大ターミナル駅に到着する。
巨大ターミナル駅からいつもとは違う電車に乗り、目的地へと向かう。
今日は水曜日、同じ地区同時のダービーマッチのカップ戦が行われるのだ。
前回対戦した時はホームで0-2。
今回はアウェイの地に乗りこんでのリベンジマッチとなる。
電車に乗られること約1時間ほど、ようやくスタジアムの最寄り駅に到着した。
そこからスタジアムまでは、バスか徒歩で行くのだが、俺は徒歩を選択した。
バスの方が断然早いはずなのだが、この地域特有の夕方渋滞がバスを襲い、結局は歩いたほうがスタジアムへの到着が早いという謎のメカニズムが生まれてしまうのだ。
俺はスタジアムまでの徒歩30分までの道をひたすらに歩いた。途中で熱くなってしまったので、スーツを脱いで手に掛けた。
しばらく一本道をひたすら歩くと、ようやくスタジアムがある公園に到着した。
公園内に入り、さらに7、8分ほど進んでやっとスタジアムに到着した。
既に試合は始まっており、サポーターの声援が聞こえる。
俺は正面入り口からさらにグルっと周り、アウェイゲートへと向かってチケットを係員に見せて、端を切ってもらい入場した。
スタジアムの観客席に到着すると、丁度前半10分を経過して、大型掲示板を見て、0ー0と表示されていた。
俺は美帆から事前に写真を送ってもらっていた場所へと人を掻き分けながら進んでいく。すると、ピッチを見ながら応援をしている美帆の後姿を発見する。
美帆は夢中になって試合を観戦していた。
「席ありがと~」
「おう、お疲れ様!」
俺が一言挨拶を交わして、すぐにバックの中からユニフォームを取りだしてYシャツの上から着替えて、試合の応援をする。
◇
試合は、ハイプレス合戦のような展開が続いて、ミスをしてはピンチが訪れ、相手がミスをすれば、チャンスが訪れるという展開になっていた。
そんな中迎えた前半40分。
相手選手がペナルティーエリア内でこちらの選手を倒してPKを獲得する。
このPKを7番の選手が左に蹴りこんだが、なんとキーパーに弾かれてしまう。
しかし、運が良くキーパーが弾いたボールが7番の選手の目の前に転がってきて落ち着いて7番の選手が再び流し込み先制に成功した。
その後は、落ち着いてボールを回して前半1ー0で終了する。
◇
ハーフタイムに俺は事前に買っておいた菓子パンを急いで頬張った。
「そんなに急いで食べたら喉つまらせるよ」
そんなことを美帆に言われるが、お構いなしにモグモグと口に流し込む。
「あぅ…」
すると、案の定菓子パンをのどに詰まらせて胸をたたく。
「ほら、言ったこっちゃない…はい、お茶」
美帆があきれた表情を浮かべながらペットボトルのお茶を手渡してくる。
「あふい、あひかと」
美帆からお茶を受け取り、ゴクッ、ゴクッっと飲みこんで喉に詰まった菓子パンを胃に流し込んだ。
「…ふぅ~助かった~悪い、ありがとう」
「全く…」
ヘラヘラとしていると、美帆はじとっとした視線を向けてきた。
「ホントそれで死なれたらたまったもんじゃないんだからね…」
「す…すいません…」
本気できつめに心配された。確かに詰まらせて死亡とかダサすぎてしょうもない。
こうしてドタバタのハーフタイムを終えて、後半に向けて選手たちがピッチに入ってきた。
◇
後半、雨が降ってきたピッチ内で、相手は前半のハードワークが響いたのか、ミスを連発し始め何度もチャンスを迎える。
しかし、ゴール前へ侵入するが決定的なシュートを放つことが出来ない。
そんな中、迎えた後半35分ごろ、一瞬こぼれ球の反応が遅れてしまう。
その隙を見逃さなかった相手選手はFWの選手にスルーパスを供給する。
オフサイドギリギリで抜けた相手選手はセンターバックを振り切って突破しにかかる。それを思わずCBの選手は手で引っ張って倒してしまう。
一度審判にすぐさまイエローカードを提示されるが、相手チームの抗議と審判の話し合いの結果。イエローカードから一発レッドカード退場処分になってしまう。
残り10分を一人少ない10人で戦うことになり、守備的戦術を取らなくてはならなくなったものの、相手の猛攻を何とか耐えしのいで、試合は1-0で終了。カップ戦初勝利を手にして、グループ暫定2位に躍り出た。
◇
試合終了後、俺と美帆は徒歩でスタジアムの最寄り駅まで傘を差しながらトコトコと歩いていた。
「いやぁ~なんとか勝ったね」
「ほんとね、でも無失点で押さえられたのはデカかった」
「そうだね」
試合の総評を話していると、あっという間に駅の改札に到着した。
「今日はどうする?」
「う~ん・・・」
美帆は唇に手を当てながら上を向いて考えていたが、クルっと俺の方を向いて微笑んだ。
「今日はいいや!GWにたくさん会うしね!」
「そっか。」
「うん」
確認を終えて、俺たちは電車に乗るため改札口を入り、手をつないでホームへと向かって行ったのであった。
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