カップ戦 第3節 たまには雨の日に家でゆっくりと
オーオーオーオオ・オオ・オオーオオーオオー、な・が・さ・き!
テレビの中から長崎のサポーターの大きな声援が聞こえる。
今日はアウェイの長崎戦。雨の中での試合だった。
俺は自宅でテレビの前の机に缶ビールとおつまみを用意して、ゆっくりとソファーに腰かけながら観戦を楽しむ準備を整えた。
テレビの解説者が説明している内容を聞きつつ、缶ビールを仰ぐ。
こちらも窓から雨の音がザァザァと聞こえていた。今日は全国的に雨足が強いみたいだ。
そんなことを考えている間にも、選手たちが円陣を組み終えてピッチの各ポジションへと移動していた、審判が時計を確認して、ピーっと笛を鳴らして試合が始まった。
◇
試合は応援しているチームのペースで進む。
チャンスを何本か作るものの行かすことが出来ない。
そんな中迎えた前半20分、ドリブルを仕掛けると、相手選手がたまらずファールを犯す。
ペナルティーエリアから少しゴール左寄りでのフリーキック、相手の意表を突いて壁の外側を巻いてゴール右側にゴロでシュートを放った。
ボールはゴームキーパーの手をかすめ、ゴールへと向かっていったが、惜しくもポストに弾かれる。
そのこぼれ球が運よくゴール前にこぼれたところをすかさず押し込み、先制に成功する。
しかし、前半終盤、守備陣の集中力が切れ、浮き足だったプレーが散見される。それを見逃さなかった相手選手が二人のディフェンスをドリブルで交わすと、マイナス気味のクロスを上げる。これをゴール前に走り込んできた選手がワンタッチで落ち着いて流し込み、同点に追い付かれてしまう。
それでも、前半アディショナルタイムに左サイドをドリブルで攻めこみクロスを上げると、これが相手選手の足に当たり、ボールはゴールへと向かう。
キーパーの頭上を越えたボールはまたもやポストに直撃するが、この跳ね返りを待ち構えていた選手が落ち着いてヘディングで流し込み2ー1と勝ち越しに成功して前半を終了した。
◇
ハーフタイムになり、一旦トイレに行こうとソファーから立ち上がった時だった。
ピンポーンとインターフォンが鳴った。俺は受話器の前まで行き、カメラの映像を写した。
すると、そこにいたのはスーツ姿の美帆であった。
『やっほー!開けて!』
「突然来たな…」
『え~だって結局今サッカー見てるんでしょ?一緒に見ようぜ!』
そう言いながら美帆はコンビニの袋をカメラに掲げて見せてきた。どうやら追加のお酒とおつまみを買ってきているようだ。
「はいれよ」
俺がエントランスホールのドア施錠解除のボタンを押した。
『ありがと~』
手をヒラヒラと振りながら美帆はエレベーターホールへと向かって消えていった。
ガチャっと受話器を切り、美帆が来る前に急いで尿を足しにいった。
トイレから出た直後、再びピンポーンと家のインターフォンが鳴った。
今度は直接玄関まで行き、扉を開ける。
「やっほ~達也。」
「おう。」
「おじゃましまーす」
履いていたヒールを片足で器用に脱いでリビングへと入って来た。
「お、やっぱり一人でサッカー見てたんじゃん。今何対何?」
「2ー1で今ハーフタイム」
「お、いいねぇー」
そういいながら美帆はそのままソファーへと座り込みコンビニで買ったビニール袋を机に置いて、商品を袋から取り出して晩餐の準備を始めていた。
「コップいる?」
「いや、大丈夫、お皿頂戴。」
「はいよ」
言われた通りに食器棚からプラスチックのお皿を取って美帆の元へ持っていく。
「はい」
「ありがと」
お礼を言うと美帆はひょいっと体を移動させて俺が座るスペースを空けてくれた。
「一緒に飲も!」
ニコニコとしながら缶ビールを持ちながら言ってきた美帆を見て、思わず破顔する。
「はいよ」
俺も机の上に置いてある飲みかけのビールを手に取り、美帆と乾杯を交わしたのであった。
テレビでは前半のハイライトが流れており、丁度得点シーンが映し出されていた。
「お、ラッキーゴールだね。」
「そうなんだよ、いいところにいたよね。」
前半のハイライトを見ながら美帆に当時の状況を話しながら説明した。
「2点目もラッキーゴールじゃんww」
「そうなんだよね~」
「何それww」
「まあ、ラッキーゴールでも得点は得点だから…」
俺が苦笑いを浮かべていると、テレビのえいぞうがLIVEに変わり、選手たちがピッチへと戻って来た。
「後半始まるね。私まだゴール見てないから沢山決めてほしいな~」
「まあ、前半の調子で行けば入るんじゃないか??」
「お願いします、沢山私にゴールを見せてください。」
テレビに向かって手を合わせ、美帆が懇願していた。
選手たちが円陣を組み、各ポジションへと散った。
そして、審判が時計を確認して手を大きく上に上げながらピィーっと笛を鳴らして後半がスタートした。
◇
後半もこちらのチームのペースで進む、決定的なシーンを何度も作るが、シュートがポストに当たったり、わずかに枠を外れたりと中々決めきることが出来ない。
そんな中時間が進んでいき、後半アディショナルタイム、悲劇は起きた。
一人選手が治療のためピッチの外に出たため、10人のチームはボールを取られないように丁寧にボールを回していた。
そして、治療を終えた選手がピッチに戻り、攻撃のスイッチを入れようとしたその時だった。
不用意にも横パスを選択した選手のパスを相手がカットすると一気に斜め前へとパスを出す。
オフサイドギリギリで飛び出した相手選手はノーマークでゴール前に侵入してボールを受け取った。
慌ててキーパーが1対1を止めようとするが、無情にも相手選手はキーパーとは逆のコースへとシュートを放ち、同点に追いついた。
全員の集中力が切れ、一瞬の隙を突かれての失点劇だった。
結局試合はこのまま2-2の同点で終えた。3戦合計2分1負の勝ち点2とグループリーグ突破が厳しくなる一戦となってしまった。
◇
「あ~もう後味悪すぎ!」
「ホントだね…」
俺たちはうなだれるようにソファーに寄りかかって脱力した。
「はぁ~なんかカップ戦は全然勝てないね。」
「なんかね、最後のところでうまくいってない感が満載だよね。」
二人でこの3試合のカップ戦を振り返り、そんな感想を口にする。
「あ~もう!スッキリしないからお風呂入ろ!」
「え?一緒に入るの??」
「達也もまだでしょ??今日は一緒にこのままサッカーについて語りあいたい気分なの!明日お互い仕事で朝早いし効率いいでしょ!」
そう言い終えて、美帆は立ち上がり、俺の寝室の方へ自分の寝間着を取りに行ってしまった。
俺はそんな美帆の姿を見送り、ため息をついた。
一緒にお風呂入るって…結構俺にとっては緊張するもんなんだぞ…
心の中でそんなことを思いながら俺は机の上にあったテレビのリモコンを手に取り、テレビを消してから渋々立ち上がり、美帆の後を追うのであった。
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