第6節 2週連続の金曜日
「お疲れ様です。」
定時より少し過ぎた時間に今日は素早く岐路に着いた。
何故ならば、今日は2週連続金曜日開催のJリーグが開催されるためである。
どうしてこんなにも金曜日の試合が多いのであろうか?
土日がサッカー観戦で潰れずに他の時間に回せるのはうれしいことなのだが、どうしても休日とは違い、急ぎ足でスタジアムに向かわなくてはならないし、自由席のみにとっては言い席の確保は難しい状況なのでとても困る。
電車に揺られながら試合開始20分ほど前に何とかスタジアムの前に到着した。
入場ゲートをくぐり、スタジアムへと入口を潜ると、丁度選手がアップを終えて一旦ピッチからロッカールームへ下がって行くところで会った。
先に美帆が到着して席を確保してくれたとのことなのでトークアプリで送られてきた座席番号の写真を元に美帆を探していると、丁度スーツを脱いで、シャツの上からユニフォームを着ようとしていた美帆を発見した。
美帆は俺の姿に歯気が付いておらず、手を挙げてユニフォームを着ようとしていた。
途中で胸の辺りで一回引っかかってモゾモゾとしていたが、すぐに引っ張って無理やり着こなした。
ふぅっと言った表情で顔を出すと、ぼけーっとその姿を見つめていた俺と目が合った。
ニコっと笑みを浮かべてヒラヒラと手を振ってきていた。
俺は手を振り返すと、階段を登って美帆のいる場所へ向かう。
「席ありがとう~」
「いえいえ~、何とか間に合ってよかったね。」
「仕事猛スピードで終わらせて急ぎ足で来たからね」
俺は荷物の中からユニフォームを取りだしながら美帆とそんな話をしていた。
スーツを脱いでYシャツ姿になった俺は、美帆と同じようにシャツの上からユニフォームを着こなした。
4月とはいえ、やはり夜になると、風が吹き、肌寒く感じる。
俺は夜ご飯にと買っておいたコンビニのパンを食べながらピッチの中を眺める。
丁度、選手紹介が始まりスタジアムが暗転する。
スマートフォンのライトで照らされた光がスタジアムを綺麗に彩っていた。
手拍子をしながら選手紹介を楽しみ、選手入場前の応援歌をみんなで歌う。
俺はその間に、なんとか手に持っていたパンを食べ終え、ペットのボトルのお茶をゴクゴク飲んで口の中にあった物を流し込んだ。
そして、なんとか選手入場までには間に合い、選手入場の音楽が流れ始めた。
選手がピッチに入場してきた。
「平日の割には結構お客さん入ってるね」
「そうだな!」
どうやら先週とは違い、今日は美帆もお仕事モードは完全にオフにして観戦をただ楽しんでいるようであった。
そのまま選手たちが円陣を組んで各ポジションに散った。
審判が時計を確認して、ピっという笛を鳴らして、試合が始まった。
◇
試合は前半6分に先制する幸先よい展開。
後半もボールを支配し続けて魅力的な攻撃を展開する。
結局何本ものチャンスを作り、終わってみれば3ー0の快勝。
4試合ぶりの勝利を手にしたのであった。
◇
午後11時、いつもよりも遅い帰宅で美帆と共にマンションに到着した。
「ただいま~」
「ふぅ~疲れた…」
美帆はそのまま荷物を投げだしてソファーへ倒れ込んだ。
「先にお風呂入っちゃいな、それと、スーツのままだと、しわになるよ。」
「はーい、もう・・・面倒なんだから…」
最後に余計な一言が聞こえた気がしたが、我慢して何も言わないことにする。
自分の部屋に向かい、スーツを脱いでネクタイを取り、Yシャツ1枚にズボンのジャージを履いて再びリビングに戻ると、応援歌を口ずさみながらソファーに座りながら黒のパンストを脱いでいる美帆の姿があった。
スルスルと脱いでいくストッキングから現れる白くて滑らかなスラっとした足に思わず俺はじぃっと見つめてしまう。
美帆はパンストを脱ぎ終わり、クルクルっと輪っかにして遊んでいると、俺の視線に気が付いて、ニヤァっと含みある表情を浮かべていた。
「どうしたの?」
「え…あ、いや、なんでもない」
俺は咄嗟に目線を逸らしてキッチンの冷蔵庫を開ける。
「じゃ、先にお風呂入るね!」
「お、おう」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取りだしてコップに注いでから一気に飲み干す。
「達也・・・」
「ブフゥ!」
すると、美帆が忍び足で俺の背後に迫って耳元で声を掛けてきたのに気付かず、思わず飲んでいたお茶を拭き零しそうになった。
「ブオェ…っと危ねぇ…」
美帆の方を向くと、上目づかいで俺のことをからかうように見つめ、俺を手招いていた。どうやら耳を貸せということらしい。
俺は飲んでいたコップをキッチンに置いてから美帆の口元へ耳を近づけた。
「先週の、マッサージ気持ちよかったから、お風呂上がった後にまたやってほしいな」
俺は美帆の耳元から顔を離すと、ついつい美帆の綺麗な白い生足へ視線を向けてしまう。
はっ!となった時には、美帆は含みのある笑みを浮かべて上目づかいでこちらを見つめていた。
俺は美帆から顔を逸らしながらコクリと首を縦に振った。
「もう、仕方ないんだから…でも、ありがとっ」
美帆は俺の頬にチュっとキスをしてそのままお風呂へと向かって行った。
俺はキスをされた頬を手で押さえながら美帆の姿が見えなくなるまで目で追っていた。
ったく・・・なんてあざといんだ全く・・・
こうして今日も美帆にからかわれつつ、一日が終わろうとしているのであった。
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