第3節 ダービーマッチ
日曜日、今日もスタジアムの最寄りの駅で美帆を待っていた。
しかし、周りの雰囲気はどこか違うような感じがした。何故かというと、敵チームののサポーターが半数以上在来線のホームから降りてきているからだった。
それもそのはず、なぜならば、今日はダービーマッチで隣町のスタジアムの最寄り駅に来ているからである。
隣の市にある昨シーズンJリーグディフェンディングチャンピョンであるチームとのライバルチーム同士の対決。
今日はわざわざ相手チームのホームタウンへ乗りこんできているのだ。心なしか、駅の周りにいる両チームのサポーターもお互いのユニフォームの人に睨みつけるような視線を送り、負けられないというようなバチバチとした緊張感が見るだけでも伝わってきていた。
そんな周りの人たちを眺めているとトントンと肩を叩かれた。
正面に向き直ると、俺の頬に指が当たった。その指の先に目をやると、美帆がニコニコとしながらしてやったりと言ったような笑顔を見せていた。
「おはよ!」
「…おはよ。」
「どうしたの?元気ない?」
「いや、そんなことねーよ。」
俺は体を美帆から背けてとっとと歩き出す。
「え、ちょっと待ってよ!」
不意打ちとはいえ、あの笑顔で、あのお茶目さは反則だった。
朝からいきなり一本とられてしまい。美帆に顔を見られたくなかったので、その場から逃げ出すようにスタジアムへ歩き出したなんて言えるわけがなかったのであった。
*
スタジアムに到着すると、いつもよりも多くの人で活気にあふれていた。さすがダービーマッチ、おのずと人が集まってくる。
俺たちは待機列の番号へ向かい。入場待ちの列へ並んだ。
並んでいる間に、今日の選手アップまでの待ち時間の暇つぶしのルートを考える。
今日は相手チームの名物である出店を回りながら食べ歩きをして時間を潰すことにした。
そして、開門時間が近づいて、列が動き出す。
いつもはのんびりしている列の人たちも、今日はいち早く席を確保したいという欲みたいなのが出ていた。列も間隔が詰まり気味で、人と人との間が窮屈だった。
無事に入場ゲートを通り、スタジアムの中に入った。既にゴール裏は半数以上が埋まっているように思えた。
俺たちは2人だったので、なんとか席を確保することに成功した。
このスタジアムのゴール裏は、石段のような段々状の形になっており、席の印などが特にないため、レジャーシートを敷いて二人分のスペースを確保しなくてはならない。
無事にレジャーシートを敷いて、風で飛ばされないようにリュックを置いた。
貴重品だけは盗まれないように身につけて一旦スタジアムの外へと出る。入場ゲートでスタンプを押してもらうと、再入場が可能になる。
いつも応援しているスタジアムでも再入場は可能だが、一部のスタジアムでは再入場不可のところや、相手チームの席がある方へ行けずに、隔離されているスタジアムもあるので、時間を潰すのに悩んでしまうところもある。
このスタジアムは外にイベントスペースや出店があるため、再入場ができるようになっているので、とても気が楽だった。
俺と美帆はチケットにスタンプを押してもらい、再入場ゲートからスタジアムの外へ出た。
スタジアムの正面ゲートへ向かうと、多くの出店が立ち並んでいた。
「すごい人だね。」
「そうだね。どこから回ろっか。」
「うーん。まあ歩いてみて気になった店に寄ってみればいいんじゃないかな?」
「そうしよっか」
ひとまず端から端まで歩くことにした。
途中で気になったのは、ちゃんこのお店だった。いい香りを漂わせえおり、肌寒い曇り空ではとても暖かそうに感じられた。
俺たちは2つ購入して一緒に食べ歩きをしながら楽しんだ。
出店を一通り周り、スタジアムへ向かい自分達の席に戻った。
*
しばらくすると、選手アップが始まり、応援が始まった。
ダービーということもあり、応援も両チームとも全開と言う感じであった。
「今日は勝ちたいね。」
「本当にね!」
二人で気合いを入れ直して、お互いに頷いた。
選手アップが終わり、両チームのスターティングメンバーの発表が始まる。
サポーターのボルテージも最高潮になってきた。
そして、ついに選手入場。俺と美帆は応援かを歌いながら、固唾を飲んで見ていた。
選手がピッチで円陣を組んで各ポジションに散らばった。審判が時計を確認してピーっと言う笛を吹いてダービーマッチが始まった。
*
試合は開始早々に失点しいきなりリードを許してしまう展開。しかし、前半中盤にクロスを見事にボレーで合わせ、同点に追い付いて前半を終了する。
後半は、相手チームのパス回しに翻弄され、耐える時間が続く、そんな中で後半に失点してしまう。
時間は後半アディショナルタイムに入る。
「頑張れー!」
美帆が必死に声をあげていた。
そんな中、コーナーキックを獲得した。
おそらくこれがラストプレーになるであろう。
美帆は手を合わせて祈りながら戦況を見つめていた。
俺もピッチに目をやり、戦況を見守った。
10番の選手がコーナーキックを蹴り、ゴール前へ入れた。
ボールは、緩いカーブを描きながらゴール前に向かっていった。
ゴール前の選手がボールの軌道を読み、相手選手よりも高くジャンプをする。
頭で見事にボールを当て、ボールはゴールの端に吸い込まれていった。
スタジアムが一斉に沸いた!
俺は美帆と抱き合いながら喜びを爆発させた。
「いぇーい!」
「キャー!やったぁぁ!」
後ろにいた知らない人ともハイタッチを交わしゴール裏は勝利したかのようなお祭り騒ぎであった。
結局このゴールがラストプレーとなり2ー2の引き分けで試合終了。最後になんとか勝ち点1をもぎ取った試合となった。
引き分けではあるが、気持ち的には勝利したような感覚であった。ゴール裏に挨拶に来た選手を拍手で称えた。
「よくやったぞ!」
「お疲れ様!」
「ありがとう!」
周りのサポーターからも激励の言葉が選手に向けられていた。
こうして、白熱したダービーマッチは、幕を閉じたのであった。
*
帰り道、今日の試合について語りながらスタジアムの最寄り駅までの道を歩いていた。
「いやぁーいい試合だった。」
「そだね。でも、やっぱり強かったね。」
「うん、ディフェンディングチャンピョンは強いわ。」
「ボール回されちゃってたもんね。」
試合の感動を話していると、あっという間に駅に到着した。
駅の改札口に到着してふと足がお互いに止まった。
「今日はどうする?」
俺はそれとなく美帆に聞く。
美帆はうーんと少し顎に手をやりながら悩んでいた。
「今日はやめとく。明日朝早いから。」
美帆は少し残念そうな表情を浮かべた。
「そっか…」
俺はただそう一言呟いて、ニコッと微笑んだ。
俺たちはゆっくりと改札へ向かいICカードをピッとかざして駅構内へ入った。
「じゃあ、私はこっちだから。」
「おう、また。」
美帆は手をヒラヒラと振りながら反対側のホームへと降りていった。
俺は美保の姿が見えなくなるまで、その場で手を肩のところまで上げて、手を振っていたのであった。
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