第2節 仙台遠征

 朝6時、東京駅のJRの在来線から新幹線乗換口で美帆待っていた。しばらくすると、美帆の姿を見つけた。白と黒の横縞のニット帽、グレーのロングコートで下には、緑のセーターを身につけており、ズボンは紺のジーパンを着こなしていた。


 俺は美帆へ大きく手を挙げると、向こうもこちらへ気が付き、笑みを向けながらこちらへ向かってきた。


「ごめんね、待った?」

「いや、全然。」

「行こうか。」

「おう。」


 会話も早めに切り上げて、東北新幹線のホームへ向かう、ホームには既に始発の新幹線が到着しており、ドアが開くのをお客さんが待っている状態だった。

 1、2分待っていると、新幹線のドアが開き、車内へ乗車していった。

 俺たちも新幹線へ乗り込み、指定の座席に座った。


「はぁ…」


 思わず席に座り一息ついて感嘆のため息が出てしまう。


「やっと座れた。」

「意外と東京駅までの電車が混んでて全然座れなかったよね。」

「俺も。」


 そんなことを話していると新幹線のドアが閉まり、電車が出発した。


「仙台まで2時間だっけ?」

「そうだよ。」

「ふあぁ~」


 美帆が大きく欠伸をした。どうやら朝早く起きたため、まだ眠気が完全には覚めていないようだった。


「眠い?」

「うん。」


 美帆は、眠そうに目をこすっていた。


「寝てていいよ、仙台の近くになったら起こしてあげるから。」

「ありがと。」


 美帆は俺の肩に頭をもたれかけて、眠る体制に入る。俺は反対の手で美帆の頭を撫でながら仙台までの新幹線を過ごしたのであった。



 ◇



 2時間後、新幹線は定刻通りに仙台駅に到着した。

 アウェイの中で、仙台はトップ3に入る旅行先だと思う。震災などがあったものの、その影響を全く感じさせないくらい町も発展しており、30分ほど電車や車で行けば、緑豊かな郊外へも行くことが出来て、人も首都圏よりも多すぎず少なすぎず、ほどよい人がいる感じがちょうどよかった。もし、引っ越すのであれば仙台には住みたいと思うくらいだ。


 仙台駅から地下鉄に乗り換えて20分、地下鉄の終点のターミナル駅に到着した。

 駅から徒歩5分ほど歩いてスタジアムの前についた。


 アウェイのゲートの入り口に向かって、列の最後尾にシートを張って順番待ちの列を確保して、再び最寄りの駅に着いた。


 時刻は朝の9時、開門時間まで2時間ほど時間があったので、スマホで検索して駅の近くにあったスーパー銭湯へ向かうことにした。

 風呂には入らずに近くのコミュニティールームで時間を潰すことにした。美帆はまだ眠気があったようでソファーで1時間ほどまた眠っていた。



 ◇



 開門時間が近づいて、待機列へ戻る。待機列には先ほどまでシートしか見えなかった場所に、多くのファンが集まって列をなしていた。

 俺たちは先ほど貼っておいたシートのところへ戻り、列へ並んだ。


 開門時間になり、列が段々と動き出して、スタジアムのゲートへ入場した。


 スタジアムへ入ると青空が綺麗に屋根の上から見えた。仙台のスタジアムは2万人程度の比較的コンパクトなスタジアムで、とてもサッカーが見やすいのが特徴だ。


 美帆は席に着くと、手がかじかむのか息を拭いて手を温めようとしていた。


「カイロ使う?」

「あるの?」

「うん。俺が使ってたやつでいいなら。」


 俺はコートのポケットから使い捨てカイロを取りだして美帆に渡した。


「わぁ、暖かい!」


 手にカイロを持ち、頬に当てながら体を温めていた。やはり3月の仙台は昼間とはいえど、まだ冷え込みが激しく、万全の寒さ対策をしないと厳しい寒さだった。

 美帆がカイロでぬくぬくしている間に、お昼ご飯を買ってきた。

 仙台といえばやはり牛タン!ということで牛タン弁当を買ってきた。


「はい、牛タン弁当。」

「ありがとう。」


 美帆は弁当を受け取り、中身を開けた。

 ご飯が見えないくらいの牛タンが詰め込まれており、アツアツでとてもおいしそうだった。


「いただきまーす。」


 パクっと大きな口を上げて牛タン弁当を頬張った。


「ん~///おしひい。」


 満足そうな表情でうっとりとしている。

 

 俺も一口牛タン弁当を口に入れた。

 噛みごたえのある肉と噛むほどにあるれてくる肉汁にしっかりとした塩味がとてもご飯を進める味だった。


 牛タン弁当を二人で堪能し、ユニホームに着替えて応援の準備を始める。準備を終えたところでちょうどゴールキーパーのウォーミングアップが始まる時間になりピッチに姿を表した。


 アウェイの中、多くのサポーターが仙台駆けつけて声援を送っていた。

 フィールドプレイヤーがピッチに登場して、本格的に選手アップが始まり、応援の声も大きくなっていった。

 美帆は時折、手に息を吹き掛けながらも懸命に声を出して応援していた。

 選手アップが終わった頃には、既に体はポカポカになっていた。美帆も寒さを気にする仕草はなくなり、キックオフは今か今かとワクワクしながら待ちわびていた。


「よーし、今日も勝つぞー!」


 美帆が両手で拳を握って気合いを入れていた。

 そんな美帆の姿を見て、俺は微笑みながら、


「あぁ、今日も勝とうな!」


 と返したのだった。



 ◇



 試合が始まった。仙台側は守備ブロックを固めて試合に入った、こちら側が優勢に試合を進める中、前半中盤にPKを獲得して先制に成功した。その後、先制点の勢いのままに追加点を奪い、前半を2-0で終了する。


 後半も高い位置からプレスに来た相手チームをワンタッチパスで見事にいなしていき攻撃を仕掛けていく、相手のロングボールも何度も跳ね返して相手を寄せ付けない。後半終了間際に、PKを与えてしまい1点差に詰め寄られたものの、試合はそのまま2-1で終了。開幕から2連勝を達成した。



 ◇



 勝利の余韻にも浸って、選手がピッチから去り、俺と美帆はハイタッチを交わした。


「イェーイ!2連勝!」

「やったぁ!」


 ハイタッチを交わして、スタジアムをバックに記念撮影を取った。


「よし、急ごう!」

「うん。」


 記念撮影を終えて、すぐさま帰り支度を済ませ。スタジアムを後にして最寄り駅へ向かった。駅はとても混雑していたが何とか電車に乗ることが出来た。


 仙台駅へ向かうまでの電車内は、非常に混雑していたが、なんとか二人分のスペースを確保した。美帆は先ほど撮った写真をSMSアプリにアップしていた。

 

 美帆が微笑みながらスマホの写真を見せてきた。スマホの画面には、勝利した時の選手が喜んでいる写真と、先ほど撮影した俺との2ショット写真がアップされていた。


「うん、いいんじゃない?」


 俺は一言そう言うと、美帆は満足したようで、再びスマホへ目線を戻して操作し始めた。



 ◇


 

 しばらくして仙台駅に到着して、新幹線乗り場へ向かった。

 新幹線に乗る前に、ご当地グルメのずんだのスイーツを購入した。美帆はスプーンで一口分すくって、口に入れた。


「ん…///」


 とても幸せそうな表情をしながら食べている彼女を見てつい俺も頬が緩んだ。



 お土産も購入して新幹線乗り場へ向かい、新幹線に乗り込んだ。

 車内は、同じサッカー観戦を終えた人で溢れかえっていた。

 俺と美帆は席に座って一息ついた。


「ふう~お疲れ様。」

「足がパンパンだよ…」

 美帆は足を手でほぐしながらも全く疲れた様子を見せずにニコニコとしていた。

 新幹線のドアが閉まり、出発する。徐々に夕焼けが沈んでいき明かりが灯り始めた仙台の都市を、窓から眺めていると、美帆にツンツンと肩をたたかれた。


「ねぇ。」

「ん?」

「また、仙台来ようね!」

 

 彼女は、にっこりと可愛らしく微笑みながら言ってきた。

 俺は、微笑み返して、


「あぁ、来年もまたこうやって一緒にこような。」


 と言ったのだった。


 トンネル内に入り景色が見えなくなった。朝早くから起きたため、疲れがどっと押し寄せてきた。

 俺は、大きな欠伸をする。


「眠い?」

 

 美帆に聞かれて、俺はコクリと頷いた。


「いいよ、寝てて。東京駅近くなったら起こしてあげるから。」

「すまん、ありがとう。」

 

 俺は美帆に一言礼を言って、寝る体制に入ろうとした。すると、美帆に手招きされた。


「おいで~」

 

 彼女が可愛らしく手招きをしたので、何事かと思ったが、どうやら肩を貸してくれるらしい。

 俺はそんな姿にキョトンとしていたが、口角を上げ、


「ありがとう。」


 と再び言って彼女の肩にもたれかかった。

 そして彼女は、朝俺がしたように頭をポンポンと撫でてくれた。

 彼女の手がとても心地よくて、次第に睡魔が俺を襲ってきた。

 視界が段々と暗くなっていき、思考が停止していく。

 温かいぬくもりに包まれながら俺は眠りについたのであった。


 こうして彼女との仙台遠征は、来年も行く約束をして、最高の形で終えたのであった。

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