第6話:人生談義

 秋がめぐり、冬がやってきた。

 私は相変わらず、学校での人との関わりを避けるように生活している。


 そして、あの色の無い男の子と会うため、今日も公園へ向かう。




 彼は私に、何度も告げた。

 ――独りでいたって、いいことなんか無いよ。


 そんな彼に、私はいつもこう返す。

 ――独りでいれば、傷つかなくて済むんだよ。



 彼には、私が他人の感情を視る・・ことができるということ、そして私が今までの経験から他人を避けているのだということを告げてある。

 なぜか、彼には言っても良いと思ったから。



 午後五時を過ぎて、人がまばらになってくる。

 彼は、決まってこのくらいの時刻にやってくる。


「今日も、一人でいるんだね」


 だって、仕方がないじゃないか。

 私はこの力のせいで、人の顔を見るのも怖いんだ。


「でもさ、このままじゃいけないと思うよ」


 ――どうして。


「きっと、我慢して、本音と建前ってやつを使い分けながら生きていくのが大人ってやつなんだ」


 ――でも、それでは誰かが傷つくじゃない。


「傷ついていいんだ。いっぱい傷ついて、そのぶんたくさん笑って。そうやって生きていくんだよ」


 ――それが大人?


「そうだよ。だからキミのその力は、いわば贈り物ギフトなんだ。世間をうまく渡るためのね」


 そして、彼は続ける。


 ――さあ、顔をあげてごらん。

 ――セカイは、キミが望むほど優しくはないかもしれないけれど。

 ――それでもきっと、キミが思う以上には楽しいものだから――。


「うん、わかった」


 私はそう一言だけ答えて、ベンチを立ち上がろうとした。

 そこに――


「おねーちゃん、誰と話してるの?」

「――!」


 目の前では、いつかブランコで見かけた男の子が、不思議そうな顔を浮かべている。


 横にいたはずの色の無い男の子は、いつの間にかいなくなっていた・・・・・・・・・・・・・・

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