第5話:色の無い男の子

 私が吹奏楽部を退部してから何ヵ月か過ぎたころ。

 放課後、何もすることがなくなった私は公園に来ていた。


 目的?

 そんなものはない。

 ただ独りで、オモテもウラも無い子供たちをぼんやりと眺めているだけだ。


 ブランコに揺られていると、低学年くらいの男の子が向かってきた。

 表情は――赤い。


「おねーちゃんそこどいて。さっきからずーっとそこにいるじゃん」


 ああ、みんなもこうやって非難を真正面からぶつけてくれたら、いっそ清々しいのに。


 ――そんなことを思いながら、場所を譲った。



 陽があたって熱くなっているベンチに仕方なく腰掛ける。


 数刻と過ぎたころ、視界にさっきとはまた別の男の子が映った。

 私と、そう歳の変わらなさそうな子だ。


 彼は、私のいるベンチの脇までやってきた。


「ねえキミ、なんで独りでいるの?」


「私?」

「そう、キミだよ」

「それは貴方も一緒じゃない」


 そう返して、彼のほうを見る。


 ――彼には、色がなかった。


「……なんで?」


 こんなことは初めてだった。

 彼は、私の心を読んだかのように、


「ボクはちょっと特別なんだ。それより……キミはどうして独りでいるの?」



 周りを見てみるが、他の人には色がついている。

 笑顔の子には黄色、怒っている子には赤、といったように。


 ――色の無い男の子。

 それは、私が初めて見た、”色の見えない人間”だった。

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