【第3回】第1章 異世界激闘編 1.空手vsミノタウロス①

1.空手vsミノタウロス


 おれが異世界に行って、最初に戦った相手の話をしようと思う。

 うでだめしにいどんだ4tトラックとの立ち合いの中、意識を失ったおれは、その意識の狭間はざまで何者かと話をしていた。

「私は女神、とうぐうのグレン。世界の運命をつかさど導くものプロモーター。神の意思に従い、あなたをこれから中の郷のミドル・第三次元サードへと導きます」

 それは、やわらかくなめらかな響きの声だった。女神を名乗る声は言葉を続ける。

「そこはあなたの世界とはなにもかもちがう『異世界』です。そこは科学ではなく魔法が支配する世界であり……」

 その声を何気なく聞きながら、おれは考えていた。トラックが突っ込んできたあの一瞬、あの一撃をかわし、エンジンに打撃を加えることができれば、勝機はあったのではないか。いや、まずはタイヤをかいするべきか──

「……あのね、ここは精神の世界なので、あなたの心の中、だだれてますからね。ちゃんと話聞いて欲しいなー」

 言われておれはようやく、目の前にいる女の姿に気がつき──そして、がくぜんとした。この間合いに入るまで気がつかないとは、武道家としてなんたる不覚か!

「まぁ精神体なのでそんなもんですよ。説明続けてもいい?」

 長いぎんぱつに豊満な胸。にもかかわらず、しっかりとくびれたその腰のラインは、体幹がしっかりときたえられていることを想像させる。

「そうそう、これでもジムには通ってるからね、最近はビートボクシングってやつにハマってて……ってちがーう! だから話を聞けっての!」

 そしておれはふと、先ほどこの女神が言ったことを思い出した。この女は今、『異世界』とか言ったか?

「あ、一応聞いててくれたのね。そうそう、あなたは異世界に行くの」

 異世界──すなわち、現代の地球とは別の世界、ということだろうか。

「そうそう、いわゆるけんと魔法のファンタジー世界ってやつね」

 ということは──もしかして、モンスターとかもいる?

「そりゃもう。よりどりみどりですよ」

【画像】

 それを聞き、おれは決意した。

 じんを超えたじゆうとの戦い──これこそ、空手を究める道ではないだろうか。平和な現代、スポーツとしての空手がりゆうせいほこる中、「じやどう」と言われる実戦空手を追求してきたおれである。相手を求めて世界中を旅したり、牛やくまと戦う無茶もしてきた。そんなおれにとって、これぞ──異世界こそまさに、神から与えられた試練のたい

「神なら今目の前にいるんだけどね……あと、あなたみたいな転移者には、ステータスとか、チートスキルとかそーいうのがあるんだけど……」

 チートスキル? それはどんな武術だろうか。

「あ、やっと聞く態勢になった。えっと、異世界転移者はいわゆる熱力学の第一法則を無視して、別の次元からエネルギーを引き出せるの。私たちはそれをチートスキルって呼んでるんだけど……例えばすごいりよくの必殺技とか魔法とか、あるいは人間の限界を超えた力とか魔力とか、そういう物理法則無視のヤバい技が使えるってわけ! どう? テンション上がるでしょ?」

 ──要らん。

「え?」

 おれの望みは、くまで空手の可能性。ちようじん追求は自分の力でやらねば意味がない。

「えっと、でもモンスターとかヤバいよ? 火とか吹くよ? チートスキルあっても死ぬやついるし、他の転移者とかも……」

 たとえここで死んでも……超人の夢と四つに組んでくだけるのなら本望! ここで倒れるなら、おれの空手はそこまでだったということだ。

「いや、こっちにも都合があるから、勝手に倒れられても困るわけで……だれだよこんなやつしたのは」

 おれは来たる強敵との戦いに、しやぶるいがした。この世界の先に待ちうけるのはまさに、戦いのせんぷう巻き起こる血染めの戦場!

「……あー、もういいや。まぁとりあえず行ってきて。あたしも一応後から行くから」

 女神がそういうと、おれの意識は、その場から再び遠ざかっていった。

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