よいまわる

 話をするなら酒を抜いてからにしろと君は言った。それは無理だと私は言った。

 回らない頭と会話したって仕方がないのだという。それなら地球儀とでも話していればいい。くるくるとそれはよく回ってくれるだろう。なんだったら油をさしてやったっていい。

 考えたくないから酒を飲むのだ。酔いで頭が回らなければ、首が回らない現実を見ずに済む。

 週末の夜は休日を控えて虚ろに明るい。疲れきった顔の明るく点るのが、けして明るくない現実をその時その辺りだけ照らしてくれる。

 四角い画面の向こう、遠くの誰かが飲む酒に、自分の杯を重ねて笑う笑う。何だかとても愉快なのだ。何一つ解決しない物事が肩にのしかかったまま、酒と一緒に潰れてしまう。そのまま起きあがれなければそれで良い。それが良い。

 その方が良いのにどうしてか、どうしても覚めてしまう目は昼過ぎの部屋、散らかった自分の頭を見る。

 遠くの誰かは自分の現実に帰り、私は散らかったままの自分に帰される。望んだものは来ない。行くべき場所もわからない。

 君はきっと遠くに行くよ。私の知らないところに行くよ。私もきっとどこかに行くよ。誰だってどこかには行く。ただ、どこへも行ける気がしなくて、出掛ける前に日が暮れてしまいそうなだけ。

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