テイメイの小言
傍井木綿
隔て
要は湿度の問題なのだ。部屋を出た所であまり暑さは苦にならず、ずっと点けたままにしているエアコンは無駄だったかと反省は無いが考えた。つい数日の内に鳴き始めたばかりの蝉は、近所ではまだあまりいない様で、外階段を下りる己の耳に届く音は単体。ゴミ袋を手に提げ踊り場を回ったところで、夏に融けて消えたいと思った。
ゴミ集積場までのアスファルトの道のり。最高気温は三十度台半ばを記録していながら日差しもその照り返しも、さして伝えてくるものは無い。どれもこれもが遠い。可燃物のポリ袋を大型のタンクに投げ込み、ビニールの手提げ袋にごちゃ混ぜにしてきた缶とペットボトルをそれぞれのボックスに分けて放り込んだ。ポリ袋の柔い滑らかさ。パッケージ塗装された缶の滑らかさ。中身を洗ったペットボトルに残る水滴。ビニール袋の皺と音。遠い。
自室のある階上へと引き返しがけにポストを覗きこんだら、娯楽施設の安っぽいチラシが一枚とメール便が一つ届いていた。
娯楽施設は相変わらず人材不足らしく、チラシの裏でスタッフ募集を叫んでいた。部屋に引き返して靴を脱ぎながらメール便の端を破る。
中からは切符が一枚。
「お守りだよ」
そういえばそんなことを言っていた奴もいたか。
いざとなったら帰って来られるように?
さも、そこは安全地帯だとでも言うように、帰路分の片道切符を差し出した男。何の根拠があってそんなことを思うのか。現実と過去の現実が反発しあって、実際はそちらにいる方が危ないのに。小さな紙片を手にしたまま、身の内の、肺よりも深いどこかから息を吐き出す。随分と遠くなった。
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