第5話 商品

 玖美ちゃんをどうにか帰した後、私は自分の部屋に戻り、タペストリー用の織り機に腰かけた。店の売り物はすべて私とエミリアで手作りしている。タペストリーやコースターは私が、アクセサリー類はエミリアの担当だ。

 魔女の作品には魔力が宿る。

 彼女はそれを『幸運』と表現し、魔女の問屋は『魔法』と言った。

 どのように表現しようと、私たちが作る作品がラッキーアイテムであることには変わりはない。ならば丹精込めて見栄え良く作るに越したことはない。

 シャッ……ガタン……

 横糸を縦糸にくぐらせ、足下のペダルを踏んで編み込む。今作っているのは雨上がりの虹を表現したタペストリーだ。見栄えをよくするのは難しいが、難しいものであればあるほど客の目を引く。

 これが、私のような不幸にあった人の元に届くのだろうか。

 シャッ……ガタン……

 糸を織り込むことにはもう慣れた。

 元々はエミリアが使っていたが、今では私専用になっている。

『いいかい? 出来上がった図を想像しながら織るんだ』

 彼女が私に織り機を触らせてくれたのは、まだ私が魔女ではなかったとき。今にして思えば、人間相手に相当気を許してくれていたのだろう。

「エミリア……」

 魔女になる前も、そしてなった今でも、気を許してくれているのが嬉しい。

 私の前で涙した、彼女の傷が何なのか未だに教えられていないのだけれど。

 彼女が私の救いであるように、私も彼女の救いでありたいと願っている。

 雨上がりの虹のように、彼女の心に虹をかける存在でありたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る