第3話 問い

『私とともに、生きる覚悟はあるかい?』

 神妙な顔で私に問いかけてきた彼女の表情を、今でも覚えている。今と変わらない顔でいつもしない大人しい表情をするのだから、今思い出したら笑ってしまう。

 当時の私は決断を迷わなかった。

 不安そうな顔をした彼女の黒髪を指で梳き、お茶でも淹れてくれと頼まれたときと同じ調子で答えを告げた。それが今だ。

 あの選択に後悔はない。

 だって彼女は私の恩人なのだから。


 離れから戻ってくると、案の定ボウルは空っぽになっていた。ただ予想とは違ったのは、ボウルの前に手持無沙汰に視線を彷徨わせた玖美ちゃんがいたことだ。

「この時間は講義でしょう?」

 大学生である玖美ちゃんは、授業の空いたコマにここを訪れる。だが今の曜日と時間には講義が入っているはずだ。休講でも入ったのだろうか。

 玖美ちゃんは私のほうを向き、口を開いた。もちろんクリームなんてついてなかった。

「まだ、質問の答えをもらってません」

 玖美ちゃんの目の前にあったボウルを流しへ下げる。

「自主休講なら辞めたほうがいいわよ。出席率重視の講義だって、この前言ってたじゃない」

「あなたが私の質問に答えてくれたら行きますよ」

そして、すぅと息を吸い込み言葉を紡いだ。

「あなたはなぜ、歳をとらないのですか?」

 そんなの決まってる。彼女とともに生きるためだ。

 なんて、玖美ちゃんに言っても伝わらないか。

 明るい日差しが玖美ちゃんを照らす。流しにいた私には当たらない。

「これが私の救いだから」

 私の顔はちゃんと微笑んでいただろうか。玖美ちゃんの微妙な表情からはうかがい知ることができない。

「答えになってません」

「そう……」

 参ったなぁ。

 今日はやけにしつこい。いつもなら笑い飛ばせば引き下がるのに。

「あの人と、関係があるんですか?」

 玖美ちゃんは玖美ちゃんでエミリアを名前で呼ばない。会ったことはあるはずだけど、友好な関係にはなっていないようだ。

「さぁ、どうかしらね」

 答えは秘密にしておきたい。

 私が悠久の時を生きる魔女なのだということは。

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