第7話常念岳2

常念岳2



「ちょっと長話をしすぎましたね。」





そう言ってこの先もう少しで常念乗越という場所に着くことを教えてくれてその人は立ち去って行った。いろいろと思うところはあるけれど影一はベンチを立ち上がりデイバックを背負いなおしてまた歩き始めた。











少し歩くと視界が開けてきて常念乗越が近いことが分かる。





「もう少しで槍ヶ岳が見えるはず。」





そう思うとテンションが上がってきた。


おもわず駆け足になり走るように山を駆けていく。


そしてついにその時が来た。





槍ヶ岳がどーん。穂高連邦がどーん。


視界一面に写真で見た景色が広がった。





「あぁ。」





おもわず声を漏らした。





影一はよくわかっていないが日本を代表する山々の連なりである。





この景色が見たかった。





心からそう思った。





実際の時間は5分ほど体感時間1日そこにいたような錯覚に陥るほどの密度の濃い時間が流れた。


放心状態から回復した影一は常念小屋にもよらずに山頂に足を向けた。





「あれが山頂か。」





進行方向左手に見えていた巨大な山体がおそらく常念岳だろう。


実際には偽ピークなのだが。





もっと高いところからあの景色が見たいそんな衝動に駆られて影一はハイペースで常念岳を目指した。


樹林帯の登山道とは変わり森林限界上の稜線である。


道は岩が多くなり時々浮石もある。


だが景色は最高。





時々槍ヶ岳の方面をちらちら見ながら山頂までコースタイム1時間の道を35分で駆け抜けた。





そして常念山脈の最高点にして今回の目的地、常念岳山頂にたどり着いた。


山頂は多くの人でにぎわっていたが山頂の祠の前まで行き祠をそっとさわり空いている岩場に腰かけた。





「たどり着けた。」





山頂まで来ることができた達成感で影一の心は満たされていた。


そして360度遮る物のない山頂の景色を堪能する。


常念乗越からは見れなかったが北アルプスは北へ向けてどこまでも連なっている。


そして目を閉じその稜線を駆け抜ける自分を想像する。


やはり居ても立っても居られない気分になる。





30分ほどそうして景色を眺めていると東側から雲が上がってきた。





「そろそろ下山しようか。」





そう思ってガスで視界がなくならないうちに下山することとした。











帰りは常念小屋によってみることにした。


ちょうど用意していた500mlのジュースが底を尽きかけていたので新たにジュースを買おうと思ったが値段があまりに高かった。


途中に水場があったことを思い出しそこで補給することにした。


だが小屋で売っている常念岳をモチーフにしたバッチに目が留まった。


こちらも安くはなかったが記念に買って帰ることにした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る