第12話 脱出

「ナナ!無事か!?」

そう言ってセキュリティルームにイーサン以下数名がなだれ込んでくる。私は振り返り

「大丈夫」

そう短く答えると、イーサンは安心したように胸をなでおろすと突然脇腹を押さえ顔を苦痛にゆがめる。

「やっぱり上で待ってた方がよかったんじゃないのか?」

サムソンが半笑いで言う。

「こいつあばらにヒビが入ってるかもしれないのに言うこと聞かなくてな」

アドンは笑いながら言う。

「無茶をするのね」

「お前が言うか?」

少々和やかな空気が流れる。私は手早く情報をフラッシュメモリにまとめると

「撤収するわよ」

「そう言えばNo.13は?」

「今頃はドロドロになってるわよ」



エレベーターの前まで戻ってくるとサムソンが怪訝な表情を浮かべる。

「なんでエレベーターが上に戻ってるんだ?」

そう言って昇降機の呼び出しボタンを押すとエレベーターが下りてくるのを待つ。

ふと、何か音がしたような気がして通路の反対側を見る。そこには何もいない。ただいくつかの扉が閉まっており通路の視界は遮られている。

「ナナ?どうした?」

イーサンに静かにするように促すと全員が警戒を厳とする。

すると


ガァンッ!ゴォンッ!ガッ!ガッ!


大きな音を立てて扉の一つがへしゃげ始め、そして耐えられなくなった扉ははじけ飛びその向こう側からそれは姿を現した。

ボコボコに膨れ上がった皮膚に完全に溶けて原型をとどめていない頭部。さらに全身のあちこちに冷えて固まった鉄を身に纏い鈍い足音を響かせる。

「No.13!」

「No.13!?あれが!?」

私の発言にイーサンが驚愕する。無理もない。すでにその体は二回り以上も大きくなりゆうに2mを超す巨体になっており、両腕も異様に発達し右手に至ってはむき出しになった骨の一部が鋭利な凶器となって姿を現していた。

「ナンバァァァァアゼブンンンンンンン!!」

こちらを見つけると早足で向かってくる。

「撃て!撃て!」

イーサンの合図に全員で射撃を開始するが、No.13は歩みを止めない。私は榴弾を装填したランチャーをNo.13目掛けて発射しそれは見事に直撃したが、皮膚が少々えぐれた程度で歩みが止まることはなかった。

「イーサン!退避を!」

「何処に逃げるってんだ!」

その時だった。エレベーターの到着音が鳴り響きゆっくりとその口を開いてゆく。

「イーサン!こっちだ!」

サムソンが叫ぶ。

「!!サムソン!避けろ!」

だか、その警告もむなしくサムソンは弾き飛ばされ床に倒れ込んでしまった。

エレベーターの中にあった姿は、所々に黒くなったデザートカラーのボディに一つ目の巨人。サムソンを殴り飛ばした左手は何も持ってはいないが、右手には巨大な槌を持っていた。それは削岩用の道具を兵器転用しロケットブースターまで装備した破壊槌だった。

「No.14…生きていたのか」

「まじかよ、シャレになんねぇって!」

驚愕するイーサンに、お得意の泣き言をいうアドン。サムソンは何とか気を失わなかったのか頭を振って身を起こす。

本当にこれは冗談ではない。前門の虎、後門の狼と言ったところか。笑えない状況に突端の糸口がないかを探るが、もっと笑えない状況が判明した。No.14が破壊槌を大きく振り私の頭を潰そうと迫ってくる。それを回避するとその先では何とNo.13が待ち伏せをしていた。

「こいつら!」

連携してる。No.13はまともな会話をできるような状態だが、どのようにしてかNo.14と意思疎通を図り連携している!

一人でも厄介な相手を二人同時にしなければならない状況に気が遠くなりそうになる。

「クソッ!サムソン!援護できるか!?」

「出来なくてもやるしかないんだろ!ったく!」

愚痴りながらもサムソンはリボルバーランチャーを構える。

「ナナ!離れろ!」

その合図に私は瞬間移動を駆使してNo.14から離れると続いて爆撃がNo.14を襲いた、No.14はたまらず膝をつく。その隙に私は再び踏み込みNo.14の懐に入り込み顔面目掛けて左手のアッパーを繰り出す。最後に使ったのは今朝方…ギリギリ『再使用』ができるはず。願うように繰り出されたそれは起動し大きな音を立ててNo.14の頭を弾き飛ばす。その巨体が宙を舞い、私はすかさず空中に投げ出された破壊槌に手を伸ばしつかみ取ると、体を捻り今度はそれをNo.13の頭目掛けて叩き込む。No.13はそれを避ける様に身を動かすがロケットブースターで加速したそれを完全にかわすことができずに左肩で受け止める事になった。

「グアァアァァアァッ!」

悲鳴を上げるNo.13。

私は破壊槌をNO.13の体から引き抜くと今度は振り上げる様に再び顔面を狙いに行くが、今度は右腕でガードされてしまう。

「チッ、こいつ使いにくい」

愚痴りながらもう一度破壊槌を振りかざす。すると今度は後方からNo.14が襲い掛かってきたため身を転進し破壊槌を振りぬくと今度はNo.14の右腕に命中し壁もろとも破壊をする。壁にめり込んだ破壊槌を引き抜こうとしたら今度はNo.13が攻撃を仕掛けて来たため蹴りをぶつけて対処をする。破壊槌を引き抜き横振で連続してNo.13に攻撃を叩き込み続け反撃の余地を与えずにいても後方に居るNo.14が邪魔をする。ならば、先にNo.14を先に破壊してしまおう。

そう思い急に体を捻りNo.14に狙いを定め襲い掛かる。

右腕のなくなったNo.14は懸命に破壊槌の猛攻を回避するが次第に追い詰められてゆく。そんな時に後方から迫るNo.13。

「イーサン!」

「あいよ!」

イーサンのグレネードランチャーが火を噴きNo.13の顔面に命中し怯む。私はそこでNo.14に止めを刺そうとするがそれは左手を破壊するにとどまりあと一歩届かなかった。再び踏み込みNo.14に迫った時意外な光景を目にする。

なんとNo.13が無理やり間に割って入って来て破壊槌を自らの体で受け止めたのだった。胸部に破壊槌の直撃を受けたNo.13は壁にめり込むほど強く叩きつけられ身じろぎ一つしなくなる。こいつは…

No.13がNo.14をかばった。こんな好機無い。私はためらわずに再びNo.13の顔面に破壊槌を叩き込み今度はその衝撃で壁を破壊しNo.13が崩れ落ちる。さらに何度も何度も倒れたNo.13に破壊槌を叩きつけてゆく。

「えげつねぇ」

思わず漏れるイーサンの言葉も意に介さず叩きつけ続けてると、両腕を失ったNo.14が体当たりをして私の体勢を崩してきた。

「こいつ!」

再び突進してくるNo.14。何の策もなくただ突進してくる。だから私は破壊槌を振るった。するとNo.14の頭部は破壊槌と衝突し大きな音を立てて粉砕されてゆく。金属の軋みの音や衝撃音が重なり合ってまるで断末魔の悲鳴のような音を上げてひしゃげてゆく。

頭部が完全に破壊されたNo.14のボディはゆっくりと地面に倒れこむ。それを見ていたNo.13は、なんとNo.14の残骸に駆け寄り抱きかかえる。

「グォオオオオオオォオォオオッ!」

雄たけびのような鳴き声のような声を上げ私を睨みつけてくるNo.13。

「…私が同情すると思ってるの?」

その言葉に反応してNo.13は襲い掛かってくる。右腕の飛び出した骨を振り回しながら迫りその攻撃を破壊槌で受け流していたが、思わず柄の部分で攻撃を受け止めてしまったためへし折れてしまった。

使い物にならなくなった破壊槌を投げ捨てると私は再びSCARを構える。斉射するがまったくと言って効果がなくNo.13の突進を止める事すらできずに喉元をつかまれてしまった。そのまま壁に叩きつけられて身動きが取れなくなる。

「ナナ!」

ゆっくりと首にかかる圧力が強くなっていくのがわかる。何とか振りほどこうとするがその腕はびくともしない。

そして私の首の骨は折れてしまった。手足は脱力し身じろぎ一つできなくなってしまう。何とかしようとイーサンが後方から攻撃を仕掛けるがNo.13は意にも介さず、びくともしない。

するとNo.13は骨のむき出しになった右腕を振りかざし私の頭に狙いを定める。思わず目をしかめる。

そのとき足元に何かが転がりこむ。それは次の瞬間激しい光と音を発し、視界と聴覚を奪ってゆく。No.13はたまらず私を放り投げて目を覆う。どうやら視界は奪えたらしく右腕をがむしゃらに振り回してるらしい。

首がつながり再び体が動く様になると私は立ち上がりSCARを投げ捨て、ボディアーマーも脱ぎ捨てる。

「…ぶっ殺してやる」

私はそうつぶやくと未だ視界が回復しないNo.13に迫ってゆく。帯電した拳を叩きつけるとバチィッと激しい音がしNo.13を襲う。

「!!!???!??」

困惑の表情を浮かべるNo.13に対し私は構わず攻撃の手を緩めず帯電した手足で攻撃を続けると効果があるのか怯みだす。

たまらず反撃をするNo.13だがその攻撃は私に当たることはない。当たる時に瞬間移動で回避し離れたり近づいたりを織り交ぜながら戦う。

「すごい」

サムソンが思わず言葉を漏らす。

「だけど決め手に欠けるぜ、どうする?」


振り下ろされた左手を全身を使って受け流しカウンターで首元に蹴りをぶちかます。すると激しく頭を振り気付けをするような動きをしたのちに再び襲い掛かってくる。今度は右手を突き刺すように繰り出してくるが、それは左手で受け流し右腕をNo.13のみぞおちに深くめり込ませる。

「グゥアアッ!」

「…お前は、私に敵わない」

私は言い放つ。

胸元を押さえよろけるNo.13は悔しそうな表情を浮かべながら私を睨みつける。

「初めからそうだったんだ。こうすればよかったんだ」

瞬間移動でNo.13の背後に移動しまわし蹴りをかますとNo.13は弾き飛ばされ地面を滑り隣の部屋に突入して行く。

私も続きその部屋に入り込むとその部屋は異様な光景が広がっていた。

12個のシリンダー状のカプセルのうち9つにそれぞれ脳や脊椎、心臓、内臓、肺などバラバラにされた人のパーツが収められていた。

「これは…」

おそらくNo.13が言っていた他の被検体たち。これは生きているのだろうか?

その真相を知るNo.13はもはや会話もできない状況である。

Np.13はゆっくり立ち上がりこちらに向き直し、再び大声で威嚇をしてくるが…私は瞬間的に間合いを詰めてその口の中に破片手榴弾を叩き込む。すると大きな音を立ててNo.13の頭がはじけ飛び膝をつき崩れ落ちる。

実際手持ちの装備ではこれが精いっぱいなのは事実だ。殺し切れるだけの装備がない。だから私は足早にその場を立ち去った。


全員でエレベータに乗り込むと、上昇を始める。

「ナナ、どうするんだ?」

「どうするも何も、殺す手段がない」

「だからって放っておくのか?」

「まさか」

そういってエレベータ上部のメンテナンスハッチを見上げる。

「ナナ?」

その時だった。足元の方からゴンッゴォンッと激しい音が鳴り響く。ひと際激しい音が鳴ると今度は何かが壁を登ってくる音が聞こえてきて、その次の瞬間床が裂けてそこから巨大な手が突き出て来た。

『緊急事態が発生しました。係員が来るまで待機していてください』

エレベーターの緊急アナウンスが鳴り響く。

「あいつ追って来たのか!?」

「当然でしょ!さっさと上に上がって!」

私が促すと上部のメンテナンスハッチから次々と上がってゆく。

床の亀裂を覗き込むとそこにはNo.13の姿があった。その姿はもはや人からかけ離れた姿になりつつあり脇の下から新たな手が二本生えており、それを四方に伸ばして這い上がって来ていたのだった。

「ご苦労様な事ね」

皆が上に上がったことを確認すると私も上に上がりエレベーターシャフトに出る。

「それでこれからどうするんだ?」

そう聞いてくるイーサンに私は無言でメンテナンス用のはしごを指さす。

「まじかよ…」

海上まで結構距離はあるが大丈夫だろう。少しはしごを上がった所で私はサムソンに指示を出す。

「サムソン、エレベーターブレーキを破壊して」

「アイ、マム」

サムソンは器用に片手でリボルバーランチャーを構えて発射をすると見事にエレベーターブレーキを破壊する。

それを確認すると私ははしごから飛び降りる。左腕のパイルバンカーを発電能力で無理やり使用可能にしエレベーターの中心を叩きパイルバンカーを起動させる。

大きな音を立てて起動したそれは激しい勢いで落下を始める。私はその反動で浮き上がった体勢を整えて瞬間移動ではしご付近まで近づきしがみ付く。

下を見れば激しい速度で落下を続けるエレベーターに所々から始まる浸水。

「さっさと上がるわよ」

そう言って全員を上まで促した。


浸水による圧壊の危機も何とか切り抜け無事に海上プラント部分まで帰還することに成功してヘリに乗り込む。

離陸を開始して遠ざかるプラントを目にしながらイーサンが語り掛ける。

「あれであいつは死んだのか?」

「そんなわけないでしょ、でも体に付着した鉄と膨張した筋肉では浮上はできない。一生海底で過ごす事になるわね」

一生漁礁にでもなってればいいんだ、あんな奴は。それよりも気になることはある。

彼女が生きてるかもしれない。その事実が私には気がかりだった。そのためには確認しなくてはならない。



基地に帰るや否や社長に話をつけに来ていた。

「なんだナナ?」

「話があるの。あの研究所に行きたいの」

「なんだ?古巣が懐かしくでもなったか?だがな俺も場所は知らん」

「知ってるでしょ?」

私はそう言ってフラッシュメモリーを机に叩きつける。そのフラッシュメモリーの中身は彼が教官時代にしていたことを記録したものだった。

「相当研究所の事を調べまわってたみたいね」

「…行ってどうする?」

「No.12を助け出す」

彼女は生きていた。そしてまだあの施設に居るんだ。

「…はぁ、しょうがねぇな。でもな、せめてイーサンが動けるようになるまで待ってろ。お前ひとりでは行かせられん」

しょうがないと、私はその条件をのむことにした。

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