第10話 洋上襲撃
甲板に出て様子を窺う。
ここは米軍保有の空母の上、これより作戦行動が開始される。
国防長官奪還作戦。私はその要らしい。
作戦内容は、これより指定された箇所まで私を搬送し形上受け渡す。
そこからは敵の動きで行動が変わる。約束通り国防長官がかえされれば、私の脱出援護になり。反故にされれば私がNo.13を押さえてる間の人質救出作戦となる。
その際の侵入経路は上空ヘリポートからと海上プラント脚部からの上陸と言う形になる。
「しかしな、言うほど簡単な作戦じゃないぞ」
いつの間にか隣にイーサンが並び立っておりそう言う。
「相手はわかってる限りで三人、他にも仲間が居る可能性がある」
「あいつはNo.24まで居たと言っていた。どのくらい生き残ってるかはわからないけど、これから相手するのは被検体。なんだかよくわからない超能力を使ってくるかもしれない」
「まぁ、なんだ。そうなったら本当にお前頼りになっちまうかもな」
笑いながら言う。本当に気楽に言ってくれるが、No.1みたいなのがいたら本当にそれだけで手一杯になってしまいそうなのだが…
「あんまり気負うなよ。俺たちだってどこまで約に立つかわからんがついてる」
そう言って後ろを振り向くイーサンにつられて振り向くとそこには今回の作戦に付き合ってくれる二人の姿があった。
二人とも筋骨隆々で一人は黒い肌で短いモヒカン頭の男性アドンともう一人は白い肌に角刈りの金髪のグラサン男性サムソンだ。
こちらの視線に気が付くと二人は手を挙げて挨拶して来たので、こちらも手をあげて返す。
「社長から多少は話を聞いてるが、まさか他に被検体が居たとは…社長も驚いてたぞ」
「私も驚いてる聞いたこともなかったもの」
研究所に居た時はそんな話は聞いたこともなかった。同じように薬物によって特殊な能力を手に入れた人物たちなのかどうかもわからない。
少なくともNo.13は何かしらの能力を持ってるようには感じたが…
ひとっとびで上空のハインドまで飛び上がった脚力、やはりNo.1のような筋力強化系なのか?だとしたらまた銃器の通用しない相手になる。私が言うのもなんだけどそんなのばかり相手にしてたら本当に頭がどうかしそうだわ。
「それにしても」
甲板を見渡すと目に映るのはヘリ以外に大量の戦闘機。そりゃ空母だから当然なのだけど、これじゃあまるで戦争にでも行くみたいね。最終的にはプラントごと海に沈めるつもりなのかしら。
わからないけど。まぁ、それもありかもしれないどうせ国防長官と言っても時代が擁立した人物、時が来れば変わるもの。だったらいっそのこと海に沈める方が楽かも。
「暇だな」
急にイーサンがそんなことを言い出す。
「何?急に」
「いや、俺たちはこの船の正式な乗組員じゃないし。会社員だし。する事無いなぁってな」
「あの二人みたいに筋トレすれば?」
そう言って指をさした先には乗組員をも巻き込んで筋トレ大会を開催しているアドンとサムソンの姿があった。
「いや、俺はあんな筋肉だるまになるつもりは無いし」
「そうなの、あなたも十分筋肉だるまに見えるけど」
「そんなことねぇよ!」
そんなことあると思うが、初めて会った時と比べて結構ゴリラみたいな体になっているのだが…
「おーいイーサン、お前もこっちに来て混ざれよ!」
こちらが眺めてる事に気が付いたアドンがイーサンを誘うが、イーサンは露骨なまでに嫌そうな顔をして
「断る」
「あなたたちみたいな筋肉だるまになりたくないんだってさ」
「何ぃ!?お前人の事言えんのか!!」
「うっせえっ!俺はお前たちと違って年がら年中プロテインなんて飲んでないんだよ!」
「健全な筋肉にプロテインは必要不可欠だろうが!馬鹿にすんな!」
健全な筋肉とは?どうでも良い疑問に頭が?で埋まる。
それにしても暑苦しい…ここがインド洋だということを差し引いても暑苦しい。
こいつらをツンドラ地帯に連れて行っても絶対凍死しないだろう。と言うか、雪や氷が解けてなくなってしまいそうだ。
そんなことを思っている内にヒートアップした三人と米軍の方々巻き込んで甲板マラソン大会が開催されることとなった。
とうぜん私は見てるだけ。
「遅いぞイーサン!」
先頭を走るサムソンが余裕ありげにイーサンを煽る。
「なんであの体型であんなに速く走れるんだよ」
不思議である。アドンもサムソンも100kg近くの重量級なのにあそこまで軽快に走り回れるのは被検体もびっくりなのではないだろうか。むしろこいつらも投薬されてるのでは?
しかしなんだかんだ言って一時間走りっぱなしで誰一人息が上がってないのは流石と言うべきか、何と言うか…
戻ってきた三人に対して
「…あんたたち本当に人間?プロテインの惑星からやってきた宇宙人なんじゃないの?」
「プロテインの惑星ってなんだよ」
「ナナも参加すればよかったのに」
「私義手義足よ、筋トレとかあんまり意味ないし」
「生身の部分があるだろうが!筋トレ怠るとすぐにおなかが出たりスタイルが崩れるぞ」
余計なお世話だ。とは言え、私の体型はどちらかと言えば幼児体型でくびれも少ない。腹筋周りだけでも鍛えるべきなのだろうか?そこを引き締めれば少しは大人っぽく見えたりするのだろうか?
そんなどうでも良い事を考える。まぁ、子ども扱いされるのは少し心外だが
筋トレ大会も無事終わり今度は昼食をとる事となった。
アドンとサムソンはガッツリプロテインを飲んでいたが…
「所でナナ、お前今回の作戦本当に大丈夫なのか?」
「どういう意味?」
そんなことを訊ねてくるイーサンにその真意を問いただす。
「いや、いくら知らない相手とは言え同郷だろ?」
「それに何の意味もない、敵だったら殺すだけ」
そう、今更同郷だろうが何だろうが関係ない。すでに私は同郷の人間に手をかけているのだから…罪悪感も何もない。そう、ただ殺すだけ
「…そうか、それならいいんだが」
「何か言いたそうね」
「…まぁな、時折お前が本当に人間じゃないような発言をするからな」
「今更何を言ってるの?私は化け物よ。人間なんかじゃない」
「…」
イーサンは複雑な表情で黙り込んでしまう。
「おい、ナナ!」
突然サムソンが会話に割って入ってくる。思わずため息が出るが、
「…何」
「飯そんだけしか食わねぇのか?もっと食えよ」
「別にいいでしょ、それにこれから作戦行動なのに腹をパンパンにしてどうするのよ」
「甘いなぁ、そんなんだから体がちっこいままなんだぜ!」
「あ!?」
食べて大きくなれるなら苦労はしない、と言うかこっちは成長期も終わってしまって本当にこれ以上望みがないんです。ほっといてもらいたい。
…心なしか米軍の連中も私の事を子供を見るような目な気がするのだけれでども
深いため息をして私は席を立つ
「ご馳走様」
そう言って私は食堂を後にした。
甲板にもう一度出てみると、さっきまでの喧騒が嘘のように静かに感じる。
甲板に見える人影もまばらで、これから戦闘が行われるであろう空気を微塵も感じさせないほどのどかである。
空を見上げると快晴で雲一つなくどこまでも青い空が広がっていた…
私は甲板に大の字になって寝転がる。頬をなでる潮風に遠くで泣いてる海鳥の声。どことなく懐かしい感覚を覚える。
本当の青空、幾度となく眺めて来たが本当にあの架空の空とは違う。
日によって変わる空模様はいくら眺めていても飽きない。
青い空に一筋の飛行機雲も…
「ん?」
私は思わず身を起こし目を細める。空を何かが飛んでる。それはすぐに太陽を背に身を隠してしまった。
嫌な予感がする。これは、間違いない。
「敵襲!!」
私が大声で叫ぶと同時に甲板に係留されていた戦闘機の一つがはじけ飛ぶ。
先ほどまでの静寂が一転けたたましく鳴るサイレンと人々の怒声であっという間に騒々しくなる。
上空から砲撃が降り注ぎ次々と甲板の戦闘機が破壊され、甲板では消火活動が始められる。
そんな中太陽の中から一つの影が空母甲板に大きな音を立て着陸した。
それはネイビーブルーのボディの強化骨格その右手には口径が20mm程もある対物ライフル、左手には二門の榴弾砲を装備し、その右胸に掲げられたNo.15の文字。
「No.15!!」
突然の闖入者に皆が圧倒される。それを気にも留めず右腕に装備された対物ライフルで一つ一つ丁寧に戦闘機を破壊して回る。
一通り戦闘機を破壊するとNo.15は私の方をその感情のない一つ目で睨みつけるとライフルをこちらに向けて発砲してきた。
咄嗟に両手でガードをし、その20mmの砲弾を弾き飛ばすがパランスを崩し思わず尻餅をついてしまう。
すると弾が切れたのか右腕に装備されたライフルを切り離すとこちらに向かって歩きだす。
ようやく甲板に出そろった米軍の兵士たちがNo.15に発砲を開始するが、まったくと言って良いほど効果はなくズシンズシンと足音を響かせながら前進を開始し兵士を次々と裏拳で殴り飛ばしながら私に向かってくる。
私の目の前に来ると右拳を大きく振りかぶったのちにそれを振り下ろしてくる。それをギリギリで回避して立ち上がると先ほどまで私が寝転がっていた地面が大きく砕けてしまう。
銃撃が効かない以上こうなったら格闘戦に持ち込むしかないが、圧倒的な体格差ウェイト差が問題だった。
No.15の振り回される拳を回避しつつ懐に入り込み腹部に蹴りを叩き込むがあまり効果がないような感じがする。No.15は数歩仰け反ったが何事もなかったように再び私に向かって歩いてくる。
「チッ」
その光景に思わず舌打ちをしてしまう。
今度はNo.15は踏みつけるような蹴りを繰り出してきてそれを回避したのだが続けて繰り出された左手に私の腕をつかまれてしまった。その瞬間私の体は宙を舞い即座に甲板に叩きつけられてしまう。さらにもう一度同じ事をされて叩きつけられる。何度も何度も甲板に叩きつけられ意識が朦朧とし始めたそのころに、今度はそのままぶん投げられて甲板を滑るように移動し甲板を落ちるあと一歩の所で止まった。
何とか身を起こすと全身の痛みと酷い眩暈に襲われて思わず頭を振る。
「ナナ!避けろ!!」
唐突に耳に届いたイーサンの声に弾かれるように身を逸らすと先ほどまで体があった場所を榴弾が通り過ぎてゆく。
榴弾が当たらなかった事を確認するとNo.15はこちらに向かって突進を始める。その時だった。
No.15の後方からRPGの弾頭が迫る。流石にこれは当たる。効果はあるはず。そう思った矢先にNo.15は身を翻し腕でその弾頭を右腕で弾き飛ばし、弾き飛ばされたそれは海へと姿を消していった。
「誰よ絶対当てるなんて言ったやつは!!」
「あんなの反則だろ!!」
愚痴るイーサンを尻目に私はNo.15に駆け寄ってゆく。背後から装甲を引っぺがして内部を攻撃できれば何とかなるかもしれない。しかし、そう甘くはなかったNo.15は身をねじり拳を繰り出してきた。それをギリギリで躱すと今度は下から蹴り上げられ体が勢いよく宙をまいそのまま艦橋に叩きつけられ、その後甲板まで落下する
「ナナ!」
「…ぷっ殺してやる!」
悪態をつきながら身を起こす。
「こいつを使え!」
そう言ってアドンが投げて寄こしたのはリボルバーランチャーだった。私はそれを受け取ると間髪入れずに6発全弾をNo.15に叩き込む。すると流石に効果があったのか数歩仰け反り、爆煙が晴れるとその装甲は所々剥げたりひしゃげたりしていた。
それを好機と思い私は駆け出し、繰り出された拳を姿勢を低くして滑りこむように回避して左手をその胸元に突き立てる。
ガコォンッと大きな音と共に激しい衝撃がNo.15の体を突き抜け体が少し中に浮き胸部の装甲をまき散らす。
しかし私はその光景に目を疑う。装甲がはじけ飛びアンダーアーマーも突き破った一撃、しかしそのアンダーアーマーの下にあるはずの肉体は無く金属の骨格と心臓の様に鼓動するリアクターがそこにあった。
「こいつは!」
驚愕してる私にNo.15は空中で両手を組んでそれをハンマーの様に容赦なく振り下ろして来た。それに反応することが出来ずに私の体は甲板に沈む。
「ナナ!」
あぁ、イーサンの声が遠い、頭痛がするし眩暈もだ。手足は痙攣したようにピクピクと動き言うことを聞かない。
どうやら先ほどの一撃で頭を陥没骨折したらしい。完治するのにどれくらいだろうか…
そんなことを考えてると頭を鷲掴みにされ体が宙に浮く。そりゃぁそうでしょ、待ってくれる訳がない。と言うか私なら待たない。このままじゃ頭を完全に握り潰される。未体験の領域だ。これで生きていられたら私も化け物として箔が付くけど、どうだろうか。強い衝撃が加わり体が揺れる。思ったより痛くはなかった。体は床に落ちたようだ視界が開けないのは目が潰れたのだろうか?…?本当に頭が潰れた?体は動く様になった。両手で頭を覆うそれを手をかけて引きはがすと視界が開ける。そこには右腕がもげたNo.15の姿があった。
「ナナ!大丈夫か!!」
そう叫ぶイーサンの手にはRPGが握られていた。
「今度はちゃんと当てたぜ!」
そうか…あいつ、私の至近距離でRPGを着弾させやがったのか。あとで殴ってあげよう。
しかしこれで!
私はNo.15の体を駆け上がりその頭を両腕でしっかりとつかむと全身を使って首をねじ切り、引き抜く。
その頭を両手で持って甲板に着地すると、頭を失った体は膝から崩れ落ちる。
私はその頭の装甲を引きはがし中を確認するとそこには生の人間の脳みそが詰まっていた。
「ナナ!大丈夫か!?」
そう言って近づいてくるイーサンは私の手の中にあるものを見て顔をしかめる。
「そいつは?」
「冗談みたいだけど、No.15は脳だけ生身でそれ以外は機械…全身義体のサイボーグだったって事」
「まじかよ…じゃあ、こいつはまだ生きてるのか」
「今はまだ、でも放っておけばじきに死ぬ。おそらくNo.14も同じだと思う」
「…正直笑えないな」
イーサンはNo.15の残骸を見て言う。
「サイボーグか…」
甲板は未だにあわただしく人が駆けずりまわっている。
正直No.15の襲撃目的はわからないが、航空戦力の無力化がなされた。それが目的だったのだろうか?
甲板には無数の戦闘機の残骸、幸いにもヘリが一つ残っているので当初の予定通りヘリでプラントに乗り込むことはできるだろうが…
「海に落ちた人間も回収は終了したらしい。最もほとんどは重症人だが」
「それでも作戦に変更はないんでしょ」
「そうらしい、最悪全部俺たちに丸投げする気なんじゃないだろうか」
「私の身内の不始末だって事にして?」
「それはわからん」
まぁ、言われなくても私の手で終わらせるけど。
「しかしまぁ、派手にやられたな」
イーサンは甲板を見渡しそうつぶやく。
あの一つ目の巨人は相当派手に暴れた。私も死ぬかと思ったけど。
「あ、そうだった」
私は思い立った様にイーサンに向き合う
「どうし…」
パシィッ
甲高い音が甲板に響き渡る。突然の出来事にイーサンは目を白黒させる。
「な、なんでいきなり平手打ちなんてするんだよ!」
「私もろともRPGで吹き飛ばそうとしたでしょ」
「はぁ!?ああしなきゃお前頭潰されてたんだぞ!」
「だからって危ないでしょ!あんな至近距離で!」
「お前なら平気だろ!」
「平気でも痛いものは痛いのよ!!」
そんなこんなでしばらくの間私たちの口喧嘩が甲板中に響き渡っていた。
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