第9話 No.13

ローターの音がけたたましく鳴り響くUH-60の中で私はSCARの弾倉を確認して装填する。

その恰好は野戦服に身を包み防弾ベストにマグポーチ、SCAR下部に取り付けたランチャー用の榴弾、コンバットナイフとその他装備を格納したバッグとフル装備しておりこれから行われるであろう事の荒事感を醸し出す。

《ホットゾーンにまもなく到着》

無線を通して聞こえてくるヘリの操縦者の声に了解と返答し、機体側面のハッチを開きそこに腰かけて待機する。

《状況を確認するぞ》

無線を通じで聞こえてくる社長の言葉に耳を傾けつつ中東の風景を眺める。

《今回の仕事は先日拉致されたとされる国防長官の保護だ》

《なんでアメリカ国内で行方不明になった人物が中東に居るのかね》

「そんなのはテロリストの都合でしょ」

愚痴るイーサンを適当にあしらいながら今度は大腿部に装備したM9を引き抜き装弾を確認する。

《それにしてもどうして俺たち?こういうのは国の仕事だろう》

《そうなんだがな…》

「なに?私の所為?」

現に私はCIAに目をつけられてるし、いざとなったら顎で使われるような立場だとは理解している。遠回しにうちの会社に圧力かけて仕事を押し付けたのだろうか?

《…いや、実はタレコミなんだ》

《は?》

「は?」

思いもよらない社長の返答に私たちは間抜けな声を上げる。

「ヘリ引き返して良いわよ」

《だな、帰ろうぜ》

《待て待て!話を聞け!》

《大体、その情報をアメリカに渡せば良いじゃないか》

《したさ!でもな!確証の無い情報で国は動かせないって突っぱねられたんだよ!挙句になその情報の真偽を確認してこいとまで言われたんだ!》

「何それ、国もガセネタだって思ってるんじゃないの?」

《あほくさ、やっぱり帰ろうぜ》

《だぁめだぁッ!これはあの国に恩を売るチャンスでもあるんだ!俺たちで救出してあいつらの鼻を明かしてやろうぜ!》

「しょうがない、フル装備で来たけど中東観光して帰ろうか」

《ったく、しょうがねぇな》

《ホットゾーンに到着》

少しずつ近づいてくる大地に自分たちの影を落とすのを眺めていると隣にイーサンがやってくる。

顔を見合わせて頷くと二人でタイミングを合わせて飛び降り大地に着地すると、それを確認した後にヘリは上昇をはじめる。

《近辺で待機する。気をつけろよそこは文字通りホットゾーンだ》

「了解」

離れてゆくヘリを見送りSCARを手にしまずは、すぐ近くの高台を目指す事にした。

「ホットゾーンね。確かにここはホットだよな。火種に事をかかない」

「どうでも良い」

高台に到着すると双眼鏡を取り出し地形の確認をする。

「しかしなぁ、この広い土地から探し出せってなぁ」

「おおよその場所は特定されてるみたい」

事前に受け取った資料と観測した地形を照らし合わせて現在地を特定しつつ目的地までの距離を算出すると立ち上がり、イーサンに移動を促す。

「なぁ、お前は神様とか信じるのか?」

「何、急に?」

「いや、このあたりも宗教観における過激派の占領地だからな、お前はそういう宗教的なものを信じてるのかなぁと思ってな」

宗教か…あまり関心は無いが…

「もし、神様が存在するのならこの手で殺してやる」

「……こわ」



しばらく歩いていると遠目に集落が目に入り双眼鏡で確認をする。

そこがターゲットのいると思われる場所だった。

双眼鏡から覗く風景は、平穏な街並みとは程遠かった。そこには民族衣装に身をまといながらも手にはAKを握り周囲を警戒する様子を見せる人間たちだ写りこんでいた。

「歩哨が見える範囲で三名、AKを装備」

「こちらも確認した。あいつらあの集落を武装して要塞化してやがる」

視線を変えるとそこのはM2機関銃まで見える。

「キャリバー50とか、あいつらどこからそんなものを手に入れたんだ?」

「何かバックがいるんでしょうね。装備が充実してる」

「それでどうする?」

「私が正面から行く。あなたはこそこそと近づいて合図があるまで待機」

「合図はどうする?」

「ドンパチ賑やかになったらそれが合図」

「…へいへい」



私は正面から歩いてゆき歩哨の間をすり抜ける様に歩いてゆく。

No.11の能力を使い最も警戒の強い所を強引に通過し人目につかない所で一息つく。

この能力は効果範囲を任意で決められるのだが、広げれば広げるほど脳にかかる負担が大きく頭痛を引き起こすのだ。だから長時間は使用できずに所々休憩を挟まないと正直居ても立ってもいられなくなる。

この警戒網の中心点にターゲットは居るはず。

《こちら、アルファ6指定ポイントに到着待機する》

無線を通してイーサンからの報告を受け取る。それに了解と短く返答すると行動を再開する。

集落の入り口付近はかなり厳重な警備だったが内部に入ると以外にも手薄になっており中心部分までいとも簡単に到着することができた。

気を抜かずにゆっくりと目的の建物に近づき中の様子を窺おうとしたが、その建物は窓がすべて塞がれており中を窺うことができなかった。

しょうがないので正面の扉の前に近づく、こうなると戦闘は避けられないだろう。今一度SCARを握り直し息をのむ。

ふと、扉の取っ手を見ると錠前が破壊されてる事に気づく。


ゆっくりと扉を開け中に入ると、そこは蝋燭の光だけで照らされており全体的に薄暗く全体をしっかりと把握することができないでいた。

そして何より、暗闇から漂う血の匂いが鼻に刺さる。

警戒しつつ歩みを進めると匂いの正体にたどりついた。

足元に倒れている歩哨。それは既にこと切れており反応することはない。遺体をよく見るとそれには何やら刃物で切り付けられたような傷跡があり大きさから刃渡りも大きめのものと推察できた。

よく見ると周辺には同じような遺体が転がっており。この空間が異様な状態だと言うのを物語っていた。

遺体を踏まないようにゆっくりと通路を進み突き当りの部屋にたどり着き中に入るとそこには、国防長官ともう一人、誰がたっていた。

「思ったより遅かったな」

男の声が暗闇に響く、おそらく正体不明のその人物の声であろう。

男はゆっくりとこちらを振り向くが、暗がりの所為で顔をはっきりと認識できない。わかるのはロングコートを着用し、その手には長い日本刀が握られており、その刃には血が滴っていた。おそらく歩哨を切り殺したのはこの人物。

「初めましてだなNo.7」

その発言に警戒を厳にする。その名前を知ってると言うことは、あの研究にかかわった人物くらいしか居ない。

「誰だ?」

私の問いに男は鼻で笑う。

「俺か?知らなくて当然か…だが俺はお前を知ってる」

そう言って男は部屋の塞がれた窓を力尽くで開けると、薄暗い部屋に外の日差しが差し込み一瞬目がくらむ。

明るくなった部屋で男は再びこちらを向く。その顔立ちは白人のものでオールバックにした金髪に碧眼で年齢はおおよそ私と同じくらい、18歳ほどの子供のようにも見える。

「俺は、No.13だ。よろしくなNo.7」

No.13?被検体はNo.12までじゃ…

「No.12までじゃないんだよ。俺たちは少なくともNo.24まで居たんだ」

考えが顔に出ていたのかNo.13は私の疑問に答える。

「…どういうこと?研究所ではあんたは見たことないけど?」

「当然だ、お前たちとは違う研究所に居たんだからな」

「違う研究所?」

「まぁそう焦るなせっかくの同郷にあえて話したい事がいっぱいあるのはわかるが、それはまたの機会にしよう」

その時だった突然無線にイーサンの大声が響く

《ナナ!気をつけろ今そっちに…》

突然天井が崩れて何かが部屋に飛び込んで来た。

それは2mを超える巨体にデザートカラーのボディに頭部に燦然と輝く一つ目。振りかぶっている腕は丸太のように太くその巨体に似合うものであった。そして何より左胸に記載されてるモノに目を奪われる。

「No.14?」

目を見開き驚愕しているとNo.14は容赦なくその右腕を叩き込んで来た。

咄嗟にガードはしたもののその力はとてつもなく強く私の体は石壁を突き破り建物の外に叩きだされる。

私はよろよろと立ちあがるともう一機No.14のそばに似たような強化骨格が降り立つ。その機体はネイビーブルーのボディーカラーに右胸部にNo.15と書かれていた。

「こいつらは!?」

「No.14とNo.15だ。訳あってその強化骨格を脱げないし喋る事も出来ないが立派な俺たちの仲間だ」

そう言うとNo.13は国防長官を担ぐ。するとヘリのローター音が聞こえてきて上空を見上げるとそこには輸送ヘリが目に入った。

「ハインド!?」

No.13は難なく上空のハインドに飛び乗ると私を見下ろし。

「No.14No.15少し遊んでやれ」

そう言うと二人が私に向かって走ってくる。

二人に向かってSCARを発砲するがその装甲にすべて弾かれてしまう。

近くに来てその剛腕を振り回され私はやむなくその場を飛びのき今度はSCAR下部に取り付けたグレネードランチャーに榴弾を装填し発射する。

発射された榴弾はまっすぐNo.14の顔面に直撃をし怯むがその後方からすかさずNo.15が追撃をしてくる。

突然の攻撃に対処しきれずその拳を思いっきり腹部に貰ってしまった。

「ぐッ」

思わず呻き声をあげてそのまままた突き飛ばされ今度は数軒の建物の石壁をつき抜ける事となった。

流石にこの尋常じゃないダメージに意識が朦朧とし始める。四肢にうまく命令が伝達されずに立ち上がる事が出来ないでいた。

その時突然体を誰かに担がれた。

「…イーサン?」

「賑やかになったから来てみたらなんだこれは!?」

そう言いつつイーサンは私を担ぎながら駆け出す。

《イーサン!もうすぐポイントに着くLZまで走れ!!》

「了解!!」

すると遠目に私たちの乗ってきたヘリが目に入る。そこの銃座に取り付けられたミニガンが回転を始め後方のNo.14とNo.15に向けて発砲を開始する

《何してるイーサン走れ!!》

「これが精一杯なんだよ!こいつちっこい割に重いんだよ!!」

愚痴りながらもイーサンは精一杯ヘリに向かって走る。後方を見るとミニガンによって足止めされてるNo.14とNo.15の姿があった。どうやらアレ位の火力があれば足止めはできるらしい。

そうこうしている内にイーサンはヘリに到着し私を投げ込むと自らも飛び乗り上昇を促す。

私は何とか体を起こし離れてゆく大地を見るとそこにはこちらを睨むように眺めるNo.14とNo.15の姿があった。

「私たち以外の被検体…」

新たな敵の登場に私は少々困惑するのだった。



アメリカ ハワイ州の沖合にある小さな島そこに会社はあった。

元教官、現社長。私の上司となった彼の民間軍事警備会社の施設そこにあった。

そこまで土地は大きくないがしっかりと訓練場などもある。私たちはその施設のブリーフィングルームに集められていた。

「状況を整理しよう」

そう言って社長は切り出す。

「現地にてターゲットを確認したが思わぬ邪魔が入ったため確保に至らず」

「その思わぬ邪魔と言うのは?」

「被検体を名乗る少年。No.13と強化骨格に身を包んだNo.14とNo.15」

社長の顔が少し曇る。

「…被検体かこいつはい一生ついて回るのかねぇ」

「対象に5.56㎜は効果が薄く7.62㎜の使用を提案する」

「そいつがどこまで通用する?」

「足止めにはなると」

「足止めになってもなぁ」

イーサンが割って入る

「RPG持って行った方が十分役に立つぜ」

「当てる自信あるの?」

「当ててやるさ!」

「…話を戻そう、とにかく当面の脅威はその強化骨格の二人か」

「No.13は未だに能力も不明。戦力としても不明」

「おまけに現在地も不明。どうしようもない」

「社長、タレコミの情報源は一体どこから?」

「それがな、聞いて驚くなよ。あの施設からだ」

「あの施設?」

「…お前がいたあの施設だ。あの施設から発信された情報なんだ」

あの施設、私が10年間居たあの海底実験場。

「誰が一体」

「そこまではわからん」

まさか、主任?

そんなはずはないあの人は死んでしまった。ならあのうるさい助手だろうか…あれから二年半ほど経ってるが、彼はどうしているのだろうか?

「情報源不明の情報を信じて俺たちは戦地に送り込まれたのか!?」

「それは、悪かったと思ってる」

憤るイーサンに社長はばつの悪そうに目を逸らす。

「その情報源も気になるけど…」

その時突然ブリーフィングルームに一人の男が駆け込んできた。

「社長!大変だ!」


サムソンの報告を受けてヘリポートに足を運ぶとそこに一機のヘリと黒いスーツを来た人物がいた。

そのスーツを来た優男には見覚えがある。確かCIAの人物だったような。

「久しぶりだねナナ君」

「誰だったかしら?」

「これはこれは…」

スーツの男はニコニコと答える

「ならば改めて、私はスタンリー・マッケンジー以後よろしく」

「どうしてCIAがここに」

社長は厄介者を見る目でスタンリーを睨みつける

「あなたがここの責任者でしたね。どうしてこんな所に基地を?本土に土地を用意させましょうか?こちらが足を運ぶのも大変なのですが」

「余計なお世話だ!」

「それで、何の用なの?」

話が進まなさそうだったので口を挟むことにした。

「はい、大変重要な話があってきました。ナナ君あなたに関係することです」

「私に?」

「No.13と名乗るものから犯行声明が上がった」

その場に居た全員の顔が険しくなる。

「国防長官を返す条件はナナ君。君を引き渡す様に要求された」

「私を?」

「受け渡し場所はインド洋にある海上石油プラント」

「分かった」

「待て待て待て待て!」

納得する私をイーサンが止める。

「テロリストには譲歩しない。それは国際常識だろ!」

「もちろんです。ですので引き渡しはしません」

「あなたを囮に使うようで非常に心苦しいのですが」

あぁなるほど

「私にNo.13を討てと言うことね」

私はその話に乗ることにし、詳しい話を聞くことにした。

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