第7話 ナナ

そのポッドはボートにもなっており自動で海岸まで航行する様になっていた。

私はそのポッドから海岸の岩場にに降り立ちあたりを見渡す。おそらくこれが何の変哲もない海岸線というのだろうか、足場の悪い岩場から見上げると少し上にガードレールが見えおそらくそこには道路があるのだろうか。

ひとまず岩場の陰にに腰を掛けこれからの事を考える。

主任はどうなっただろうか、無事だと良いのだけどここからだとあそこに戻ることはできない。

そもそも、ここがどこなのかもわからない以上は手の打ちようもない。

手持ちの武器はなく、あそこを出る際に左手のとっておきを使ってしまったためこれをしばらく使うことはできない。

右腕の中には50口径の弾が一発のみ内蔵されているが、これが頼みの綱になるかもしれない。

他の被検体から奪った能力は使い慣れてない事もあって疲労が酷く連続使用は難しいし、使用方法もわからない能力もある。

戦闘になればしばらくは戦える自信はあるけど、向こうも無策で来ないだろう。来てくれたら楽でいいんだけど。

主任の言いつけ通りあいつらに捕まるわけには行かない。しかし、誰かに案内させないとあそこには戻れない。


しばらく思案していると、遠くからボートのエンジン音が聞こえてきたのでゆっくりと顔を覗き確認してみると、遠方から近づいてくるガンボートを一隻発見する。

そのガンボートには数人の兵士が乗っており、備え付けられたサーチライトで岩場を照らし上げる。

どうやら私を探しに来た兵士たちらしい、思ったよりも展開が早いみたいだ

すると私の乗ってきたポッドを見つけたらしくこちらに近づいてくる。息を潜め様子を窺ってみるが、いかんせんここは身を隠すには狭すぎる上に回り込まれたら見つかる、飛び出しても見つかる状況となってしまった。

こうなったら、とタイミングを計る。ボートの上の兵士の視線ができるだけこちらから逸れたタイミングで岩場から飛び出しガードレール目掛けて駆けあがる。

「居たぞ!!」

背後から大声が聞こえた後に続けて銃声が響く。まだ完全に日は落ちてない上にボロボロの白い衣装だとやはり目立ってしまったか。構わずにガードレールを飛び越え道路に飛び出すと続けて目の前に広がる崖を駆け上がる。

ガンボートに取り付けられたブローニングの弾丸が着実に私に近づいてくる。流石に50口径のマシンガンなんかに打ち抜かれたら体がバラバラになってしまうので必死で崖を駆け上がり木々の生い茂る高台へ飛び込む。

すると射角からも外れたこともあり銃撃は止みあたりは再び静けさを取り戻すがのんびりはしていられない。

追いつかれる前に逃げ切るか…

森を少し進みあたりを見回すと結構深い森となっており背の高い木々が生い茂る森をみて考える。


結局この結論に至る。

ここで迎え撃つ。

蔦や木の枝を使い簡単な罠をできるだけ作り体には草木を纏い茂みに身を潜める。あまり効果はないかもしれないが草結びとかも作ってみた。とにかく何としても武器を手に入れなければ流石に多勢に無勢。右の下腕部に内蔵された50口径をスタンバイする。弾種はアクションエクスプレス。人を殺すのには十分な威力があるが、いかんせん短銃身の為不安が残る。

出来れば格闘できる距離まで近づいてきてもらえるとありがたいが…

すると複数の足音が近づいてくる気配がする。ばらけて移動しておよそ十人。ばれないように窺い装備を確認すると、前衛は散弾銃にハンドガンの装備、中衛に突撃銃、後衛に分隊支援火器が見える。

するとそのうちの一人が罠にかかり全員の気が一斉にそちらに向かう。好機。一目散に駆け出し最も傍に居た兵士に飛び掛かりそのまま首をへし折る。すかさず持っていたと突撃銃を奪い交戦を開始する。

先ほどまで静かだった森は途端に騒々しくなり激しい銃撃戦が開始された。

しかし、分が悪い。人数差は理解していたが奪い取った銃はすぐに弾切れを起こし私は気の陰に貼り付けにされていた。

少しずつ間合いを詰められどうしようもなくなったと思った時だった。ふと、銃撃が止んだ。

しっかりと包囲網が完成しどうやらこれから止めに入るつもりらしい。同士討ちの警戒もしつつ反対側にも足音が回り込んでくる。

一気に駆け抜けるしかない、そう思い木の陰から飛び出し移動を開始した時だった。

何かが発射される音が複数、その方向を見るとバズーカのようなものを構えてる兵士と私目掛けて飛んでくる紐のついた槍のようなもの。

一本は左手の義手で弾き飛ばしたが続いて飛んできた二発は捌ききれず右肩と左わき腹に命中してしまう。

「くッ」

苦痛に思わず声をあげてしまう。

しかもそのやりは返しが付いており簡単に抜けない様になっていた。さらにその槍についた紐のせいで動きが鈍り、止めと言わんばかりにネットランチャーを打ち込まれ完全に身動きが取れなくなってしまった。

「油断するな、何が飛び出すかわからん」

兵士の一人がそう言って、注意を促し全員が慎重に私に近寄ってくる。

ここまでか…いや…

ネットの隙間から右腕を出しゆっくりと狙いをつける、しっかりと、確実に当てるために、あと一歩。

その時だった。

後方で隊列を組んでいた一人が突然倒れる。続けて二人三人と倒れて行く。


狙撃だ。


「敵襲!」

「何処からだ!」

兵士たちの怒号飛び交う。

すると今度は近くで銃声がし、私の近くの兵士が倒れてゆく。そして、身動きの取れない私に一人の男性が駆け寄ってくる。

「お前がNo.7か?」

そう聞いてくる30代ほどの男性は突撃銃を手にしっかりとした装備に身をまとっていた。

ネットを外され自由になると私は刺さった槍を力尽くで引き抜く。激痛が伴い血も吹き出しているが、抜けた傍から傷はすぐ治り後も残らない。

「…大丈夫なのか?」

ふぅと一息をつき私は逆に問い返す。

「…あなたは?」

「その話はあとだ、増援がくる前に逃げるぞ」

そう言うと男は私の手を引き駆け出す。

確かにまだ森の中に複数の人の気配を感じる。

「三人って聞いてたが他の二人はどうした?」

駆けながら問いかけられた質問に思わず言葉を詰まらせる。

それでこちらの意図をくみ取ったのか

「そうか、残念だ」

こちらを振り返らずに残念そうな声をこぼす。

「ターゲット確保、だが一つのみover」

男は無線で連絡をし、指示を受け取る。

私は


私は、手を振り払い男の足に装備したハンドガンを引き抜き男の頭に突き付ける。

共に足を止め、沈黙が訪れる

「…なんのつもりだ?」

「私はあんたを信用してない」

ハンドガンのセーフティを外す。

「あなたは誰?」

男は答えない。仕方ない。

トリガーに指をかける。そして一呼吸。


パァンッ


銃声が響く、すると向いに回り込んでいた敵が倒れこみ、それに合わせて男は振り返り突撃銃で私の後方の敵を打ち抜く。

「本気で殺されるかと思ったぞ」

「そのつもりだった、敵に感謝しなさい」

そう言うと、男はやれやれといった表情を見せる。

「…45口径しかないの?」

「不服か?」

「装弾数が少ないのが気に入らない」



しばらく敵と遭遇せずに進むことができたのは、おそらくさっきの狙撃手がこちらを観測してるおかげなのだろう。

しかし、ここは見通しの悪い森林の中なので油断はできない。

先行していた男が足を止めた。

「まずいな」

そうぼやく。

確かに、敵の気配は感じるが一定距離を保ってこちらに近づいてこない。それに、一方向だけ妙に手薄になっている。

「誘い込まれてる」

私がそうつぶやくと男はそうらしいと地図を取り出す。

「この先には採石場がある。どうやらそこに誘い込みたいらしい」

「遮蔽物は?」

「何もない」

さてどうしたものか、おそらくどこの部隊もさっきの私を捕まえる為の装備をもってきてるだろう。あまり遭遇したくはない。かといって、この先の採石場に行ってもおそらく同じことだろう。八方塞がりか

「ここは思い切って採石場に飛び込もう」

私はそう提案する。何もないのであれば不意打ちは無いと思いたいが。

「…しょうがない、腹を括るか」

男もそう言って同意する。

「何処向かったって死地だ。やってやるさ」

「最悪あなたは地面に伏せてるだけでいいわよ」

私たちは、採石場に足を踏み入れたのだった。


そこは遮蔽物もなく見通しが良い広場が広がっていた。日は完全に落ちて遠くの方は暗がりになっておりよく見えない。

「わかった」

男は何やら無線で会話した後に私に向き直す。

「どうやらこの先に何か待ち伏せされてるらしい」

「いまさら、わかりきってた事でしょ」

そう言って足を進める。

「待てって!」

男が言ったその時だった。

私たちの周りを一斉に照らされて思わず目をつむる。

「待っていたぞNo.7」

逆光でほとんど視界が奪われてる中から聞き覚えのある声が聞こえる。

あの男の声が

「あまり手を焼かせないでくれNo.7。そんなんだと、あの男も悲しむだろう」

あの男?主任の事?

「…主任は無事なの?」

管理者の男は少し黙ったのちに

「あぁ、無事…とは言い難いが生きてはいる」

あぁ、主任

「さぁ私の所に来いNo.7。あの男もお前の事を待ってる」

私は管理者の男の下へ歩いて行く。

「行くな!No.7!」

後ろから呼びかける声に答えることも無く歩みを進める。

「良いぞ私のNo.7良い子だ」

目の前に管理者の男がいる。

「さぁて、そこの君。どこの誰だか知らんがついてないな」

管理者の男は腕をあげて射撃の用意をさせる。

「悪いが死んでもらう。撃…」

そこまでだった。死んでもらう。この男には、死んでもらう。

「…No.7、何…を…」

右腕はメリメリと男の下腹部から侵入し、どんどん上を目指す。

「うがっ、がぁぁあぁああ!」

激痛に耐えかねた男が悲鳴を上げ始める。私は構わず右腕を進めて目的の所まで到達する。鼓動するそれを鷲掴みし勢いよく腕を引き抜くと内臓と共にそれは出て来た。太い血管でつながった鼓動する物。見慣れてしまったそれを私は思いっきり握り潰す。するとあたりに血をまき散らしながら弾ける様につぶれた。それと同時に管理者の男は膝から崩れ落ちる様に倒れてピクリとも動かなくなった。

こいつは嘘をついた。主任は死んだ。死んだんだ!はっきりと見えた!主任の死んだ瞬間を!!

私は動かなくなったソレの頭を全力で踏みつぶす!こいつが!こいつが!

こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!こいつが!


こいつが!居なければ!私は主任とずっと!一緒に居れたのに!


「所長!」

そう言って傍に居た兵士が我に返り私に襲いかかってくるが、

遅い。遅い。

私の右拳が顔面に命中しみるみるうちに変形していく。殴りぬけるとひしゃげた頭の兵士は空中で何回転もした後に地面に叩きつけられる。

ギロッと次の標的を睨みつけるとそいつはヒィッと小さい悲鳴を上げて逃げ出そうとする。

逃がすか!

視界の伸びるような感覚の後に目の前に敵が現れる。突然現れた私に驚いて逃げ出そうとした敵の膝を蹴り砕き、続いて頭をつかんで地面に叩きつけるとそれはスイカの様に潰れて中身をあたりにぶちまける。

そうして次々に敵を殺してゆく。殺して、殺して、殺して、殺して!

銃声もしなくなり、そこには私と地面に伏せてる男だけとなっていた。

男は恐る恐る顔をあげると私と目が合う。

一歩踏み出した時だった。

「No.7!」

懐かしい声で名前を呼ばれる。その声の方向を向くと懐かしい顔がそこにあった。

それは、かつて私たちにいろんな事を教えてくれた教官だった。

「社長!遅いですよ!」

「そいつは家の新入りだ。手を出すなNo.7」

「…どうしてここに?」

至極当然の疑問をぶつける。

「お前の所の研究員に助けて欲しいって連絡を受けて駆け付けたんだが」

そう言って教官は悲しそうな顔をして

「…残念だったな、本当に」

私も俯き体に刺さった槍を引き抜き体内で止まった弾丸も穿り出す。

「さぁ、行こう。こんな所でドンパチしたのがバレたら面倒だ」

「行かない」

「…は?」

私の答えが意外だったのか間の抜けた声を上げる。

「…行かないってどういう事だ?」

「行かない!」

「じゃあお前は、これからどうするんだ!」

「知らない!ほっといて!」

教官は頭を掻きむしりながらイライラした様子で

「俺は!あいつに頼まれたんだ!しかもそれが遺言になっちまったって!だから!」

「私は!誰にも従わない!どうするかは、私が決める!」

「あぁぁぁあもう!こんのクソガキが!勝手にしろ!撤収だ!撤収!」

教官は踵を返し撤収の準備をする。新入りを呼び出して何かを話してるようだがもう私には関係ない。

「No.7!」

教官はそう言って何かを投げて渡して来た。それを受け取りよく見ると携帯端末のようだった。

「…気が変わったらそこに入ってる連絡先に連絡しろ!俺の気が変わってなかったら面倒見てやる」

そう言うと教官は立ち去って行った。



一人になってただひたすらに歩き続けた。行く当てもなく途方に暮れながら歩き続けた。

何時頃からか雨も降りだし殆ど何も身に着けてない状態の私の体を容赦なく濡らす。

フラフラと歩いていると街頭とバス停のある場所へとたどり着く。あたりは暗く、世界がここだけ切り抜かれたように明るく、おもわず立ち止まる。

すると内側から湧き上がる様に感情が噴出してくる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

堰を切った感情に流され、泣き崩れ嗚咽をかみ殺すこともせずただただ泣き叫ぶ。

もう主任は居ない、私は独りぼっちになってしまった。私はただ主任の笑顔が見たかった。主任と一緒に居たかった。ただそれだけだった。その為にみんなを殺してまで生き延びていたのに!どうして!

私は一体どこで間違ったのだろうか。私はどうすればよかったのだろうか。私は。私は!

「大丈夫?」

不意に声を掛けられ我に返る。そして振り返り話しかけて来た相手を睨みつけ威圧するが…

「どうしたの?泣いてたよね。一人なの?」

そこに居たのは傘をさして心配そうに私の顔を覗き込む少女がいた。ボブカットの黒に近い茶髪に黒い瞳、幼さを残す顔立ちの少女は優しく微笑む。

「お名前は?あ、私から言うのが礼儀かな?」

そう言って私のそばまで来てしゃがみ込み私を傘の中に入れる。

「私は可奈美、湊本可奈美。あなたは?」

その優しさあふれる笑顔を知ってる。わだかまりがほぐれるような温かい笑顔。

私は…No.7…いや、私は

「私は、ナナ。氷室ナナ」

私はあの人を忘れないためにあの人の名前を騙る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る