第5話 最終実験

被検体も研究員も全員が一か所に集められていた。

そして、一同の視線を集めていたのはこのプロジェクトの統括責任者。

「良く集まってくれた諸君、今回集まってもらったのは他でもない。これから行われる最終実験の事である」

最終実験それは、先日一斉送信されてきたメールの内容に書いてあった。被検体同士の殺し合い。パトルロワイアル方式の最終実験。この内容には愕然とされた。

「実験の開始日は一週間後、変更はない。各々最善の結果を私に見せてくれ」



わざわざ12人も育成してきた被検体を一人に絞る理由はなんだ?

この日の為に今まで訓練を重ねてきたのか?

「どうするっすか先輩?」

実験室に戻るや否や後輩はそう聞いてくる。

「最終実験の前に逃げ出す事は?」

「無理そうっすね、素知らぬ素振りで避難経路の所へ行って見たっすけど武装した連中が見張ってたっす」

「絶対逃がさないって感じだな」

「俺思ったんすよね」

「何を?」

「いや、この研究室盗聴とかされてるんじゃないかって」

言われてみればだ、タイミングが良すぎる感じもする。

「じゃあ、この話も?」

「聞かれてるかもっすね」

深いため息が出る。あの統括管理者が何の目的があるかわからないが、逃がすつもりは無く最後の実験とやらを完遂させたいらしい。

「最終実験を行うにあたり問題なのが…」

そう言ってナナを見る。

ナナに仲間を殺させるかどうかの話になる。できればそんなことをさせたくはない。他の研究員を懐柔して外へ逃げる手伝いをさせるか?

…正直それはあまり現実的ではない。ほとんどの研究員はここに自ら進んで来たような人物が多い。特にNo.1とNo.12の研究員は懐柔とかは不可能に思える。

「まぁ、実験までは一週間あるっす。まだ焦らずにじっくり考える時間はあるっすよ」

「…そうだな、あぁそうだといいな…」



主任は逃げる算段をしていたようだった。もし主任が逃げると言うのであれば私も逃げる。

だけど…

そう言って通路の曲がり角を覗く。その先がいわゆる緊急時の避難経路だったのだが、確かに武装した私兵が道を阻んでいた。それも一人や二人などではなく見えるだけで8人、ほかにも居るかもしれない。

近くの通風孔ものぞいてみるが人が通れるほどの広さはなくここを使うのは絶望的である。

強行突破の案は間違いなく死ぬ。私か主任かあるいは両方

困ったことに今の私にはあそこを突破できるだけの力はない。

No.10とNo.12に協力を頼んでみる。いや、あまり現実的ではない。何よりNo.12を盾にする事になりそうなので気が引ける。

…一番の問題は、

私は、ゆっくりと首元を触る。この取り付けられたチョーカー。使われたことは一度もないがこれがある限り私たちは逆らえない。主任はスイッチを押さないだろうが他の研究員はわからない。

結局解決策を見つけられないまま来た道を引き返す。するとその途中でNo.10とNo.12と遭遇する。

「こんな所で何してるの?」

私がそう聞くと

「一人で歩いていくのが見えたからついて来てみたの」

「この先には一体何があるんだ?」

「ただの行き止まり」

武装した人たちが最低8人

「そうか」

No.10は少し落胆した様子を見せる。No.10は心を読むだけが取り柄じゃなく頭も切れるので、これで私の意図は伝わったと思う。

「ねぇ、最終実験の事なんだけどさ」

そうNo.12が切り出す。

「私たち三人で組まない?」

「…生き残るのは一人、三人で組んでどうするの?」

「それは…」

「それは、その時考えればいいんじゃない?」

No.10は意外と楽天的な返答をする。

「三人で手を組めば生存率は上がる、長く生き延びるためには有用な手段だと思うよ」

「そう、そうだよだからNo.7一緒に戦おう!」

いつになくやる気のNo.12を見て私は、やれやれと承諾をする。

「私たちならきっと大丈夫だよ!」

「容易くないかもしれないけど方法はあるはず」

そういうとNo.10が手を差し出し、その手の上にNo.12が手を重ねる。私は二人の顔を見て手を重ねた。

「生き抜こう」

それを合図に私たちは決めた。



それから数日は何事もなかったように過ぎていった。

どの研究チームも最終実験のために調整をしている様だった。

そういう俺はと言うと…

「駄目だ、思いつかん」

良い考えが浮かばないときほど時間が過ぎるのが早い、思考は堂々巡りをし果てには現実逃避を始める。

翌日

「…駄目だ」

翌日

「…あー」

「先輩、もう5日目っすよ何かないんすか?」

「お前こそ何か無いのかよ」

「無いっす。お手上げっす」

二人そろって机にうつぶせになる。困った。本当にお手上げだ。このままじゃナナを実験に送りだす事になる。

「そういえば新しい義手は明日には完成するんっすよね」

「あぁ、義手と義足は間に合うがあれは駄目だな一日オーバーする」

はぁ、とため息をこぼす。まぁ間に合った所でナナが劇的に強くなる訳じゃない。

最高の手足を用意はしてやれるがそこから先はナナ次第だ。生かすも殺すもナナにかかってる。

…実験に参加すればおそらくナナは死ぬだろう。どんなに頑張っても能力の無いナナにはNo.1やNo.2などが倒せない。

かといって、強行して逃げ出そうとしてもあの武装した連中を突破するのは無理に思える。ナナ一人ならあるいは行けるかもしれないが…




私は、訓練室でNo.9と組み手をしていた。

相変わらず弱いNo.9。これでは最終試験に生き延びることはできるのだろうか?

そんなことを考えてると、突如No.9は語りかけてくる。

「なぁ、俺と組んでくれるんだよな?」

そういうNo.9は真剣な表情でこちらを見つめる。

「最終実験?」

「もちろんだ、二人ならうまく行くと思わないか?」

少し思案する。確かに…

「そう…かもね」

あぁ、そうかここから出るにはその方法があった。心の奥底で笑いがこみ上げる。これで私は主任と一緒に居られる。

「それは良かった、じゃあ当日は真っ先に落ち合おう」

「うん、それが良い」

私は気分がよかった。これで…




結局、俺は何もできなかった。

せいぜい出来たのは新しい義手義足の開発だけだった。

「すまないナナ俺にできるのはここまでだった」

そう言って新しい手足を付けてやる。外見を度外視し性能を重視した結果真っ黒な金属の装甲むき出しの戦闘用義手義足となってしまった。ほんとはこんな手足をこのような少女につけるのは気が引けるのだが…

「すごい、思い通りに動く。反応も良い。ちょっと重たいけどこれは間違いなく最高品。ありがとう主任」

感激するナナは、ひっきりなしに手足を動かし動作確認をしている。

「主任は、私に生き延びて欲しいと思ってる?」

ナナは突如として聞いてくる。

「当たり前だ、お前には生き延びて欲しい」

「わかった、そうする」

ナナは柔らかい笑顔を見せてそう言う。

「…ナナ話しておきたいことがある」

俺は改まって言う。

「お前の手足を切り落としたのは俺だ」

俺の告白に後輩もナナも驚きを隠せない様子だった。

「それはどういう事っすか先輩?」

「十年前、いやもう十一年も前か。あの震災があった時俺はその現場に居た。瓦礫に埋もれていた君を見つけて助けだしたんだ」

俺はゆっくりと椅子に腰かける。

「発見した時の君は生きてるのも不思議な状態だった。特にひどかったのは両手両足だ。瓦礫に押しつぶされて完全に壊死していた」

ナナは自分の手足を見つめる。

「切り落とすしかなかったんだ」

「じゃあ、先輩は初めからナナちゃんの事を知ってたんすね」

あぁと答えナナのほうを見る。

「本当にすまない」

「主任は悪くない。それに主任は私に新しい手足をちゃんとくれたもの」

そう言うナナの顔は誇らしげに見えた。

「大丈夫、私はちゃんと生き延びる」



左手にはとっておきがある、それとお前の腰椎部分にあるコネクターだがそれは間に合わなかった、許してくれ。

そう言った主任の言葉を反芻しながら、コンバットスーツに身を包む。このコンバットスーツは特別製で体を適度に圧迫し続ける機能がある。これによって出血時に止血効果があるらしいが…

全身圧迫し続けるものだからこのスーツはピッタリと体に張り付きボディーラインがはっきり出る。No.12はそれを恥ずかしがってたっけ?

次に音声認識の窓口の前に立って装備を受け取る。

「イサカソードオフ、00B」

窓口から吐き出されたイサカを手に取り弾丸を装填する。余った弾丸はバックポーチの中にねじ込み、イサカは背中に背負う。

「M9A1、予備弾倉3つ」

M9を受け取り弾倉を確認、装填し右大腿部に装備したホルスターに収め、予備弾倉を腰のマグポーチにしまう。

「UMP9㎜、予備弾倉4つ」

同じようにUMPも確認して予備弾倉をマグポーチにしまい、スリングベルトに肩を通す。

「コンバットナイフ2つ」

一つは左肩口に、もう一つは右足首に装備する。

全ての準備を終えてゲートの前に立ち深呼吸をする。ここから先はもう後戻りはできない。ここが分水嶺。まだ引き返せるが、私は決意したのだ。一線を越える決意を

手に持ったUMPをもう一度装填確認し息を吐く。

『これより最終実験を実施します』

無機質な声が響き渡り目の前のゲートがゆっくりと開く。差し込んでくる光に目がくらみ眉をしかめる。

あぁ、賽は投げられた。


目の前に広がる景色は、どこかの田舎町のような風景が広がっており広い土地に所々に民家が建ち見通しの良い通りがある。

まだ始まったばかりだが、狙撃を警戒して民家のほうに慎重に足を運ぶ。

道に定期的感覚で生えてる街路樹に身を隠しながらようやく民家の一つにたどり着く。そっと中を覗き込み中の状態を確認する。そこは、まるで誰かが住んでるような生活感があり、机の上とかには食器などが並べられていた。

中に誰もいない事を確認すると玄関に回り込み慎重に中に入る。

UMPを構え一部屋一部屋を慎重にクリアリングして行き、安全を確保してゆく。どうやら罠とかの類もなさそうだし、役に立ちそうなものもない。

そうなれば武器は私たちが持ち込んだものだけの可能性が出てきた。

その時だった。

扉の閉まる音が微かに聞こえ、何者かが一階に侵入してきたようだ。

UMPを構え直し静かに一階へと脚を運ぶ。するとそこに居たのは。

「俺だ、No.7」

No.9だった。私はゆっくり銃を下ろすと、No.9はホッとした様子で私に近づいてきた。

「良かった早くに合流出来て、たまたまここに入っていくのが見えてな」

「それは良かった」

私は銃から手を放しNo.9に近づく。

「それでこれからどう…」

そこまでだった。

「なん…で…」

No.9は目を見開き驚愕していた。何故なら、彼の胸に私の右手が深々と突き刺さっていたからだ。

私は彼の心臓を握り思いっきり引き抜いた。太い血管を力ずくで引きちぎり、血を吹き出しながら膝をつく。

「ごめんね、これが私の選択」

それを聞き届けてからか、彼は息を引き取る。

手に残った彼の心臓を眺める、まだ少し鼓動してるそれを私は、ゆっくりと口に付ける。

口の中に広がる血の味、コリコリとした歯ごたえのある心臓を噛み千切り咀嚼して飲み込んでいく。

あぁ、これが私が望んでいたこと。どうしてもっと早くにしなかったのだろうか。

今まで抑圧されてた感情が爆発するように広がり、そして満たされていく。


もう引き返せない



一体何が起こったのか

モニター室で事の顛末を見ていた俺たちにはナナがNo.9の心臓に噛り付いたように見えた。

「ナナは一体何をしてるんだ?」

「わからんっす」

あまりのショッキングな出来事に一時的な思考停止を招く事態になった。

こちらの事などお構いなしに状況は進行する。

ナナはNo.8と遭遇し銃撃戦の末彼を制すると、No.9の時と同じように心臓を取り出しまた噛り付く。

「心臓を食べてるのか?」

「そういう風に見えるっすけど…」

「なんで?」

「見当もつかんっす」

何のためらいもなく被検体を殺害したことにも衝撃だったが。心臓を食べてる姿は、まるで別人のようで底知れぬ恐怖を感じる。



しばらく歩いていると廃屋を発見し足を踏み入れる。

人の気配がするので慎重に中の様子を窺うと、そこに居たのはNo.10だった。

「やっと、合流出来たな」

そうにこやかに語り掛けてくるが、私の姿を見るとギョッとする。

「血まみれじゃないか、誰かと遭遇したのか?」

「うん」

「それに、その赤い瞳は…」

赤い瞳?それについてはわからない。どうやら、瞳の色が変色していたらしい。

「No.12は?」

「まだあってない」

それは良かった

「No.7?」

No.10は怪訝な表情をする。

「一体何を考えてる」

その言葉に合わせて銃を構えようとするがそれはNo.10に遮られる。ならばと思い切ってUMPから手を放し肩口のナイフを引き抜きNo.10の首元に突き立てようとするがギリギリの所で阻まれた。

「No.7!お前一体何を考えてる!一緒に戦うんじゃなかったのか!」

「もう後には引けない!」

No.10に腹部をけられて思わず後ろに仰け反るが、私はそれを好機とM9をホルスターから引き抜き発砲する。

しかし、No.10はそれを読んで躱し同じように銃をこちらに向ける。

「No.7本気なんだな!」

「心が読めるなら分かるでしょ」

その言葉を聞くとNo.10は少し残念そうな顔をする。

「分かった、No.12にはお前は来なかったと伝える」

「うん」

深呼吸をする。そしてトリガーにかけた指に力を込める。そして発砲と同時に私たちは動き出す。

その弾丸は当然のごとくかわされる。それと同時にNo.10が深く踏み込み私の拳銃を弾き飛ばし、ナイフを喉元目掛けて切りつける。それを間一髪の所でかわすと私もナイフを構え直しにらみ合う。

通常ナイフファイトとなれば、迂闊に踏み込めば死につながる為互いにナイフでけん制しあう形になる。

通常なら

ためらわず踏み込むと、当然No.10は私の急所目掛けてナイフを突き立てようとしてくる。私はそのナイフの刃を左手で握る。金属でできた私の手は傷もつかない。だから気にもせずナイフを突き立てるが、向こうもそれを読んでギリギリで防ぐ。

なので私は、左手に力を込めてナイフの刃を砕くとそのまま左拳で顔面目掛けて殴りつける。No.10はかわし切れずその拳が命中する。

これだ、いくら心が読まれていたとしても相手が対応できないのなら攻撃は当てることができる。相手の反応速度を上回る必要がある。


だから私は手に入れた。


ナイフを持ち踏み込むとそのナイフをNo.10が蹴り飛ばす、その蹴り飛ばした足を翻し今度は私の頭目掛けて迫ってくる。

それを反射的によける。するとNo.10は意外だったのか驚きが顔に出る。

「何?」

「無心で攻撃すれば読めないでしょ」

そう言って私は反撃を開始する。最初はかすりもしなかった攻撃が次第にNo.10を追い詰めて行く。

「くッ」

そう言って苦しそうな顔をしながら拳を繰り出してくるそれを左手で受け止め、お返しに右拳顔面目掛けて繰り出すが、それは受け止められてしまったが

「No.7お前は一体?」

「私の勝ちだ」

そう言う私の体は放電を始める。それほど強い電流ではなかったが、No.10の動きを完全に封じるのには十分だった。

「な…に…?」

驚愕するNo.10の胸元に深々と手刀を突き刺す。

「No.9?…No.8?…お前は…」

もはや慣れた手つきでNo.10の体から心臓を引き出す。膝から崩れ落ちた彼はそのまま動くことはなかった。



「No.7?」

不意に背後から声をかけられて振り返る。そこに立っていたのはNo.12だった。

待ちに待った時が来たんだ。ずっと欲しかった。それが来た。

「一人?No.10は?」

私はゆっくりと彼女に近づく

「血まみれだけど怪我したの?大丈夫?」

彼女の息がかかるまで近くに感じる。

「どうして何も言わないの?」

表情からは少し不安を感じる。

「ごめんね」

それが私の最後の良心だったのかもしれない。



ガアァンッと銃声が響きスコープの向こうで人が倒れる。

「悪く思うなよファットキャット、油断したお前が悪い」

ボルトを引き薬莢を排出する。

狙撃地点を変更しようとした時だった。先ほど倒したNo.6の遺体に近づく影を見つけ再び息をひそめる事にした。

「あれは、No.7か?一体何をしてるんだ?」

遺体を漁ってる様に見えるが…

たしかに、今回のバトルロワイアルは自分たちが持ち込んだもの以外武器らしいものが見当たらなかった。だとすれば、能力のないNo.7には武器弾薬は死活問題になる。だからと言ってあんなに迂闊な行動をする奴だったか?

まぁいい、この状況油断した奴から死んでいく。

引き金を引き放たれた弾丸は吸い込まれる様にNo.7の頭部に命中する。

「お前の事は嫌いじゃなかったぜ」

そう言って、場所を変えようとしたときだった。何かが動いたような。

ふと見ると、No.6のそばにあるはずのNo.7の遺体が見当たらない。どこだ?

何故遺体が消えた?仕留め損ねた?仲間がいた?

その時こちらに駆けてくる足音を聞く。そちらの方を見ると

「なッ!?」

頭から血を流しながらもこちらに駆け寄ってくるNo.7の姿があった。

俺は慌ててボルトを引き次弾を装弾して射撃をする。しかし、それは知っていたかの如く避けられてしまう。

みるみるうちに距離は縮まる。まずい逃げ出そうとした時だった。

No.7は飛び上がり、俺のライフルを踏みつぶしそれと同時に蹴りを繰り出して来た。眼前に迫るNo.7の足を咄嗟に右腕でガードするとゴキッと鈍い音が響きそのまま壁際まで吹き飛ばされる。

一体何が起こったのか?まったく理解ができない。確実に弾丸は頭に当たっていたが、No.7は何事もなかったようにそこに立っている。発射した弾丸をいとも簡単に避けたところを見るとまるで発射のタイミングを知られていたかのような…

それはまるで、No.12の再生能力とNo.10の読心術のようなものを使ったのか?

何故?No.7は能力はなかったのでは?

No.7の能力…No.7はなぜNo.6の遺体に近づいた?何かを取り出した様にも見えた一体何を…

その答えはすぐに分かった。No.7の左手に握られていたのは心臓だった。それをゆっくりと口にする。

その光景に吐き気を催す。なぜそんな行動をとるのか。

No.7の能力

「まさか、お前」

他人の能力をそうやって…

眼前に迫るNo.7の足裏を見て俺は愕然とした。No.7の能力は…



間違いない

俺は確信した。

「ナナは他の被検体の能力を奪い取っている」

「心臓を食べてっすか?」

「と言うよりは、エグザム細胞を取り込んでるんだ」

「でも、エグザム細胞は他者に投与しても定着しないから能力は発現しないんじゃ」

その通り、他者のエグザム細胞は定着しない。

「もしそれが、ナナの能力だとしたら?」

「能力っすか?」

「ナナのエグザム細胞が他のエグザム細胞を定着させる手助けをしてるとしたら」

「…ナナちゃんに他人の能力が発現するって事っすか?」

仮定でしかないが、そういうことしか考えられない。

『がぁあああああああああああああああああああ』

突如としてモニターからナナの悲鳴が響く。そこには頭を押さえて蹲るナナの姿が映し出されていた。

「なにが起こった?」

「わからんっす。でも、もしかしたらNo.5の能力を吸収したのかもしれないっす」

「No.5の能力は確か…」

「感覚強化っす。ナナちゃん、急に強化された五感の情報を脳が処理しきれてないんじゃ…」

「ナナ…」



頭が痛い、激しい耳鳴りがする。

視覚から入ってくる情報も多すぎる。神経を直接触られてるような感じがする程の敏感さに私は思わず大声をあげてしまう。

No.5は、これ程の情報を処理していたのかと感心する。深呼吸をし余分な情報を受け流す努力をする。

ふと、違和感を感じたとき体は反射的に背負っていたイサカを手に取りそのまま発砲する。

そして振り向いて確認する。そこには散弾によって顔をグチャグチャにされたNo.11が横たわっている。

No.11の能力は確か『認識希釈』とか言ったっけ?

その能力は他人から認識されにくくなる能力だったはずだが、存在を消すわけじゃない。No.5の能力によって微かな痕跡を感じ取れたのだ。

No.11の遺体に近づき心臓を引き抜く。

「これで後三人…」


その後周囲を散策する。その途中でNo.4の遺体を発見し、残りはNo.2とNo.1だけとなった。

残り人数が少なくなった事もありだいぶ静かになったが、確実にいるのだ。そうして私を先に見つけるのは

「…No.2」

頭痛と耳鳴りが酷い中で、微かに痕跡を見つける。

「以外…でもなかったかもしれない」

声が聞こえる。No.2の声だ。

「以外じゃなかった?」

「…そうだ、お前は『能無し』だったが『無能』では無かった」

そう言って突然No.2の姿が現れる。

No.2の能力は『瞬間移動』確か、10m程の距離を一瞬で移動する能力。

厄介だ。瞬間的に間合いを詰めたり開けたりされるのは本当に厄介だ。

「…それに、どうやらもう『能無し』ですらないようだな」

目を細めて私を見つめる彼は、既に戦闘態勢に入っており私の準備ができるのを待っているらしい。

頭を振って戦闘に集中するように努め、UMPを構える。

「さぁ、行くぞ!」

その掛け声とともにUMPを斉射するが、その瞬間にはNo.2が眼前までに迫っており咄嗟に反応し左腕でガードをするが、ガードの上から蹴り飛ばされ後方に数歩仰け反る。間髪入れずに攻め立てようとするNo.2。それをギリギリで回避しお返しにと至近距離でUMPを発砲するがその時にはNo.2は眼前から消え失せていた。

数メートル離れた所に居るのを確認するとUMPを構える。

銃撃も打撃も当たらない。これは一体どうしたものか。

とにかくこうも開けた所だと不利と感じた私は、近くの民家目掛けて駆け込むが、そうはさせるかと言わんばかりにNo.2は追撃をしてくる。

後数メートルの所で蹴り飛ばされて私は歩道を数回転がったのち何とか態勢を整える。

ただ、No,2に睨まれる。まるで閉所に入りこまれるのを嫌ってる様に見える。

さてどうする、頭痛のする頭で考える。

すると、一つ気づいたことが…

相手をよく観察する。飛び道具らしいものは持っていないが、腰に一本大きなナイフが見える。獲物はそれだけ。

それを確認すると私は、No.2に背を向けて走り出す。

「!?逃げるのか!?」

No.2の怒声が聞こえるがお構いなしに走り抜ける。するとさも当然のように前に回り込まれる。

やっぱりだ。

私はそれを躱しさらに別の方向に駆けだす。

「見損なったぞ!No.7」

どう思われようが知ったことでは無い。私は、No.2を殺す方法を実行するだけ

何度も先回りをされながら私は駆け抜ける。ここに来る前に見つけたあの場所目掛けて

「いつまで逃げ回る気だ!」

彼の能力は『瞬間移動』だと思ってた。

だが違っていた。移動の際に足音がする。障害物があれば迂回する。足場のない所は進めない。

彼の能力は『高速移動』だ。

だからここに誘い込んだ天井のある狭い袋小路。そこに滑り込みイサカを構えそして微かに感じる気配に合わせてトリガーを引く。

バァァンッと発砲音と同時にNo.2右足を吹き飛ばす。

「…らしくないのはNo.2あなた」

そう言って倒れこむNo.2に近づく。

「誘い込まれてた事に気づけなかった?」

「…やっぱり、お前は優秀だった。俺の負けだ」

その言葉を聞き届けると、彼の頭に目掛けてM9を発砲する。

「私ひとりじゃ勝てなかったよ」



「あと一人」

最後にして最大の障壁。

No.1

彼は微動だにせずそこに立っていた。

「静かになったなNo.7」

「残りは私たちだけだもの」

私は彼の正面に立ちにらみ合う。

「まったく、血まみれだなその白い髪も血で赤く染まってやがる」

「…そういうあなたは返り血一つついてないのね」

「まぁ、No.3をぶん投げただけだからな」

あぁ、民家の壁にNo.3が突き刺さって死んでたのはそういう。

「しかし、調子悪そうだな」

未だに頭痛などはするがだいぶましにはなってきた。

「…気にしなくていいわよ」

「そうか、なら遠慮はせんぞ」

そう言ってNo.1は全身に力を溜め始める。すると筋肉が膨張し始めコンバットスーツの上半身がはじけ飛び、その筋骨隆々の体が露になる。

「行くぞNo.7!」

ゆっくりと全身してくるNo.1に対してUMPを発射するが9㎜の弾丸は硬化し黒色化する皮膚にすべて弾かれてしまう。

UMPを打ち尽くしそれを投げ捨てイサカを取り出し射撃を再開するがそれも全て弾かれる。

そうこうしている内にNo.1は眼前まで迫り私の首根っこをつかまれてしまう。咄嗟に右足に装備したナイフを引き抜き首をつかんでいる腕に突き立てるが、ナイフの先端が欠けてしまった。

そんな時唐突にゴキッと音が鳴り首から下が言うことを聞かなくなり脱力する。どうやら首の骨が折れたらしい。

「これで終いか!?No.7!!」

その怒声と共に私の体は地面に叩きつけられ、アスファルトを砕く衝撃を全身で味わう事となった。

ピクリとも動かなくなった私を見てNo.1は

「この程度だったか…」

少し残念そうな表情をするとその場を立ち去ろうとする。

さて、どうしたものか思案する。

重火器が通用しない相手、何か弱点でも見つけない限り勝ち目はない。

首の骨が繋がったのか、首から下の感覚が回復してきて指が動くようになる。ゆっくりと半身を起こすと、それに気が付いたのかNo.1の歩みが止まる。

「おかしいな、首の骨をへし折ってやった筈だが…」

ゆっくりと振り返りこちらを確認して少し驚いた表情を見せる。私は立ち上がり軽く首をひねる。

「どんな手品を使ったか知らんが、お前は頭を潰されても平気なのか?」

頭打ち抜かれたり、首が折れたりは何とかなったが、流石にそれは冗談にならない気がする。No.12だって…

私は両手を顔の前で構える。

「俺に格闘戦か、いい度胸だな」

No.1も同じように格闘の構えをする。

体格差、能力の事を考えても圧倒的に相手が有利。しかし、何度も組み手をした相手故癖もしっかりと把握している。それだけで勝てる要因になれば良いのだが…

考えても仕方がないと、思い切って踏み込む事にした。すると、No.1はそれに合わせて拳を繰り出してくる。それに合わせて右拳を繰り出しぶつけてみる。ガキィンッとまるで金属同士がぶつかったような音があたりに響き渡る。

次に繰り出された拳を避けて、蹴りを繰り出してみるがそれは躱されてしまい、逆に蹴り返されてしまった。

私は数回体をアスファルトに叩きつけられた後に街頭に背中を強打し鈍い痛みが響く。身を起こすとNo.1が駆け寄って来て右手を振りかぶる。ここぞと言うときに大振りになる。その癖はいまだ健在。私は身を屈めそれを躱すと懐に深く飛び込み渾身の右ストレートをその腹筋に叩きこむ。しかし、響き渡るのは大きな金属音。その腹筋は黒色化ししっかりとガードをされていた。

「癖を把握してるのはお前だけじゃねぇぞ!それに!」

そう言って彼の左拳が顔面にしっかりと命中してしまい私の体は宙に舞ってしまう。

「一度も通用したことねぇだろそれ!」

ごもっともである。一体何本腕を折ったか。

受け身を取り損ね頭から地面に激突してしまい、後頭部に激痛が走った。

「無駄だよ、お前は俺には勝てねぇ!おとなしく頭潰されとけ」

確かにお手上げ状態だ。決定打に欠ける。あの硬化する皮膚を突破できるほどの火力が手元にはない。

…本当に打つ手はないのだろうか…

ゆっくりと立ち上がり頭をフル回転する。何か見落としは無いか?

彼は殴る瞬間拳から手首まで黒色化して殴りかかってくる。防御するときも攻撃された箇所だけ。なぜ鉄壁の防御を誇るのにいちいち解除をするのだろうか。


もしかして


それを確認するために猛攻を仕掛ける。No.1はそれを的確にガードし私の攻撃を弾き飛ばす。


やっぱりそうか!


腕も足も、硬化すると動かなくなる。つまり…

「全身硬化すると身動きが取れなくなるのね」

私の言葉にNo.1が眉を顰める。どうやら当たりのようだ。

「それがどうしたぁッ!」

動揺が目に見える。そんな状態で繰り出される攻撃の回避は容易で、今度はフェイントを織り交ぜて攻撃をすると生身の部分に攻撃があたる様になる。

「くッ、クソッ!」

「押し切る」

「調子に乗るなぁッ!」

優位に立てたと思ったのも束の間、今度はフェイントにすら対応をはじめ次第に防がれる様になる。

「その程度か!?」

そう言うNo.1の表情にも疲労の色がようやく見え始めて来たが、こちらも正直疲労で言えば限界である。

互いに肩で息をするような状況で、互いに構え直す。ふと、左手に目が留まる。

とっておき…No.2

No.5、No.8、No.10、No.11

これが通用しなかったら本当にお手上げ。私は最後の賭けに出ることにした。


No.1目掛けて駆けだす。彼は当然それを迎撃する構え、右手を振りかぶる。私は構わず加速する。眼前に迫る拳。ここだ。

ギリギリの際で『瞬間移動』をする。視界が一瞬前後に伸びる感覚に襲われ、それが終わると視界からNo.1が消え去る。ここで感づかれる訳にはいかない。どの程度効果があるか不明ではあるが『認識希釈』を祈るように使用する。勢いに乗った体を右足で踏ん張り、その足を軸に体を捻るとそこにはNo.1の背中があった。その勢いに任せたまま左拳をその背骨目掛けて突き立てる。

「とっておき!」

左の義手下腕部に内蔵された非射出式内蔵型パイルバンカー。それがガコォンッと大きな音を立てて作動するとNo.1は血をまき散らしながら上半身と下半身が分かれて吹き飛び、内臓をぶちまけながらバウンドする。

私は息を整えてゆっくりとNo.1の上半身に近づく。

「これで最後」

私は最後の心臓に手をかけるのだった。

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