彼女の嘘
その日俺は彼女から重要な話があると聞いてなじみの喫茶店に呼び出された。
俺はなんだろーなーっていうぐらいの軽い足取りで行ったが、彼女は違った。恐ろしく緊張しているようだった。
彼女にしてはあんな顔はとても珍しかった。いや俺は当時初めて見た。
「ゴメン。待った?」
といつも通り話しかけてみたが、返事がない。(いつもなら、結構待ったけど大丈夫だよー♪てな感じでバカ素直な返事が返ってくる)
彼女の前にはアイスティーのグラスがある。よく見ると氷だけが解けていて、中身は減ってなかった。
俺はとりあえずアイスコーヒーを頼み、
「で、話ってのは何だい?」
とあえて軽く聞いてみた。
しかし結局彼女が話し始めたのは、俺のアイスコーヒーが半分くらいなくなった時だった。
「えっとね……私ね……実は目が悪いの。いっつもコンタクトでごまかしているけど、本当は0・1もないの……ごめんなさい……隠していて……」
俺は瞬時に、あぁ、これは嘘だなと思った。
いくら彼女でもこんなことではそんなに緊張しないだろうし、そもそもコンタクトだろうがなかろうが、どちらでもよい。
だからと言って俺は言いたくないことを無理やり言わせるような、残虐な男ではない。
「なんだ(笑)。そんなことか(笑)病気とかじゃなくてよかったよ(笑)。俺は君が死ぬのだけはゴメンだからな(笑)。」
「……」
あの時の彼女の顔は忘れられない。
とても申し訳なさそうで、悲しそうな顔をしていた。
素直な彼女にとって、嘘をつくという行為は荷が重かったのだろう。
思い返せばあの日俺が言った言葉が、数年後現実になるとは皮肉なことだ。
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