第11話 鶴嶺神社 わたしは、まだきれい?
鶴嶺神社ではきちんと両手を清めたのだが
(口はゆすがなかった 口紅がおちるのを
メリーは嫌がった)
おみくじの結果は芳しくなかった
「小吉!どういうことよ」
白い顔の巫女さんが無表情の上に笑みをはりつける
「二枚重なっていたの、ああ
も一個の方を取ればよかったんだわ!」
文句を言いながらメリーはおみくじにざっと目を通し
ため息をついて近くの木の枝に結んだ
うまくいかず紙が少し破れた
良いことはあまり書かれていなかった
一番気になったのは
「まあ、お参りしていこう」
恋愛※相手を見極めよ
胸の小さな隙間をグサリとやられた気分
「御守り買おうかしら」
生気のない巫女さんがその言葉を聞くなり
ほっそりとした手を伸ばして御守りの説明をはじめた
テープのスイッチを入れたように
的確なタイミングだった
島津家由来の
どんな難関にも打ち勝つ御守りが
彼女のいちばんの推しのようだったが
もうひとつピンク色の可愛らしい御守りが
メリーの目にとまった
「これは?」
「御守りなんて後でいいじゃん」
真剣なメリーに苦笑いしてジャンはポケットに手を突っ込む
「まだお参りもしてないよ」
「先に行っててよ、ジャン」
片眉をあげて ジャンは一人本殿の方へ向かった
その後ろ姿が小さくなってから
メリーはもう一度
「これは この御守りは?」
巫女さんに聞き直した
黒髪をきつく結っているせいか
張りつめた表情の巫女さんは
「いつまでも美しくいられるように、との御守りです」
囁いた
いつまでも きれいに
思わず振り返った先
参拝の列に並んだジャンは
スマホをいじっている
遠くから見れば大学生か浪人生だ
「いつまでもきれいに」
つぶやくと 少しだけ歯を見せて
巫女さんは笑った
「女性の方はよく買っていかれます
奥さまにはまだ必要でないかもしれませんが」
メリーは鼻白む
まだー
まだ、ということは やはり、いずれ
必要なのだろう
こんなちっぽけな桜色の、
御守り
大した金額でもないのに、
厚かましいほどの願い
けれどご利益があるのなら、
少しでも
なにかがあるのなら
(わたしは まだきれい?)
メリーは黙って御守りを
ひとつ購入する
ジャンには言わない
言ってたまるものか
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