第2話 新幹線 新しいスニーカー

スニーカーを履くのをしぶしぶ了承したメリーは

不愉快げに新幹線の床を蹴っていた

真新しい白い靴底

(カゴシマに行くのにヒールはいらないと

ジャンに一晩説得されたのだ

彼女はヒールでどこまでも歩く気だった)

「みんなあたしより大きいわ」

「あたしよりずっと大きい」

トンネルを通る車窓は暗い鏡

メリーの尖ったくちびる

確かにメリーは小柄で

そこが気に入る男たちは数多いたが

彼女自身は得心がいかず

ハイヒールを含めた頭のてっぺんまでが

身長だと言い張った

「俺だってそんなに大きくないよ」

実際ハカタですれ違う女の何割かより

小柄なジャンは笑う

「あなたは立派よ、リッパですよ!」

声と共に振り向いたと思ったら

ジーンズの股間を握られたので

メリーに向けた微笑はひきつるように消えた

「もうつくよ」

ドア一枚

メリーは内心つぶやいた

ドア一枚 カーテン一枚

それだけでこの人は豹変する

裸で覆い被さってくるときは 怖いほどなのに

服を身につけてドアを開けるだけで

まるで紳士ぶった顔をする

反対にメリーはいつも裸だった

いや 違う

あたしは逆だ

ベッドの上で決して下着を脱げない女だ

どんなに足を開いていても

最後には

一枚へだたりがあって…

アナウンスが流れた

ジャンの言葉どおり新幹線はカゴシマについたようだ

中央駅

やっと彼の股から手を離して

メリーは背伸びして荷物を下ろした

手を離す瞬間

ごわりとした固いデニムの内側に

ちょっとした手応えを感じたので

スニーカーのことは もう

どうでもよくなった

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