第2話 8月5日 ①

『昨晩の大規模停電から一夜開けた今日、都内では以前混乱が続いています。JR東日本と各鉄道会社は、システムの確認が完全に終了するまでは、八月五日午前中の運行は見合わせるとしており、東京各所の駅は通勤客で溢れかえっています』


 リュックのジュースホルダーに挿したラジオから、イヤホンを伝って情報が耳へとやってくる。それを聞く度、自転車を漕ぐ足は早くなり、首筋から垂れる汗が制服のワイシャツを濡らす。


『東京電力によりますと、関東のほぼ全域に渡って起きた昨晩の停電について、まだ詳しいことは分かっていないものの、停電の直前に強い雷のような現象が確認されているとのことで、東京電力は気象庁とも連携して停電の詳しい原因を調べることにしています』


 やはりまだ何も分かってないか。もしくは公には発表できない何かが原因かだろう。

 太陽はまだ頂点まで登りきっていないが、すでに自転車を漕ぐには適さない気温となってきた。


『一部地域では現在も停電が続いており、ご家庭や職場のエアコンが使用できない場合、熱中症には十分に注意してください。また外出の際、作動していない信号機があるとのことで、車には十分に注意してください。以上ニューストゥデイがお伝えしました』


 ここまで聴いたところで番組がCMに切り替わったので、俺は片手運転をしながらラジオを切ってイヤホンを外した。

 ニュースで言っていたことは本当のようで、ちょうど目の前に見えてきた歩行者用の信号は電気がついていなかった。と言っても、この信号は遅刻ギリギリで登校する時はいつも無視する信号なので、むしろこの方がありがたい。

 無灯火の信号を見事にスルーしたところで、後ろから自転車のタイヤが回る音が迫っているのに気が付いた。振り返ると部活の後輩の諒太だった。

「あ、蒼馬さん、おはようございます」

「おはよう」

「蒼馬さんも部室ですか?」

「うん。うち朝になっても停電しててさ、ケータイの電話だけはとりあえず繋がったけど、ケータイのネット回線が繋がんないからとりあえず学校行こうと思って」

 この道は裏道で細いため、自転車二台が横に並ぶのがやっとだ。

「そうだったんですか。僕のとこは電気はわりとすぐに復旧したんですけど、インターネットの調子が悪くて」

「ニュースでも、強い雷みたいのが確認されてるって言ってたから、送電線が切れたとかの単純な停電じゃないんだろうな」

「そうだと思います。さっきスマホで確認したら、2ちゃんではUFOの仕業だとか、米軍の新型兵器の実験だったとかって噂が書き込まれてましたよ。まあSF研としてはおいしい事件ですよ」

「そういうのは書いてる人間も本気じゃないんだろうな……」

 SF研というのは、俺の所属する城南高校SF研究部のことだ。部員は現在四名で、部長は俺、藤ヶ谷蒼馬ふじがやそうまが務めている。

 そして彼は、部で唯一の二年生、加瀬諒太かせりょうた。小柄で、髪の毛がいつもツンツンと立っている。縁の太い丸いメガネをかけていて、学校の成績は優秀、パソコン関係にも強く、部で一番のしっかり者だ。三年の俺は今年の夏を過ぎたら引退するので、必然的に諒太が次期部長になるだろう。

 その他に女子が二名いて、どちらも三年生。

 一人は今崎千尋いまさきちひろ。髪は少し茶色の入ったセミロングで、その容姿は学年で1、2位を争うほどと言われていて、そんな彼女がなんでこんなパッとしない部活に入っているのかは、俺自身、謎だ。学校の成績は良い方で、スポーツも得意。彼女の持つ活発的な性格は、特にやることのないこの部活に何らかの活動をもたらしてくれることがある。結局は二人きりで行くことになったこの前の花火大会も、発案者は千尋だ。

 もう一人は、大塚姫莉おおつかひまり。姫莉と書いて「ひまり」と読ませる珍しい名前だが、部内で「ひまり」と呼ぶのは諒太だけで、俺は「ひめちゃん」、千尋は「姫っち」と呼んでいる。華奢な身体つきで、髪型は常に大きめのツインテールにしている。学校の成績は良くはないらしいが、スポーツは千尋と同じく得意で、中学の頃はテニスの都内大会でベスト4に入ったことがあるらしい。女の子らしい性格の持ち主で、その性格ゆえ、癒やしキャラとして、部内外で一定以上の地位を確立している。

「蒼馬さんは何だと思います?」

「え、何が?」

「停電の原因ですよ」

「うーん、なんだろう。まあ一夜明けても原因が公表されないってことは、それだけ特殊な原因か、公表するべきでない原因かのどちらかだろうな。諒太はどう考えてる?」

「蒼馬さんの話で言えば、僕は後者をとりますね。でも米軍の実験とかだとは考えにくく、むしろ日本政府の都合じゃないかと考えます。停電の原因が他国に知られると国防上の問題となるようなことが原因なんじゃないかと思いますね」

「相変わらずお前の考察はそれっぽいな」

「だてにSF研に入ってないですよ。でもこれで、今年の文化祭の発表テーマは決まりですね」

「そうだな。題して、関東全域での大規模停電の真相に迫る! 内容は、政府の発表とネット上とかから引っ張ってきた説を比較するって感じか」

「良いもの作らないとですね。来年も部員入ってこなくて、僕一人だけとか嫌ですから」

 城南高校に着いた俺たちは、自転車一台がギリギリ通れるくらいだけ開けられた正門を、走ってきたスピードそのままに駆け抜け、それぞれ自分の学年の駐輪場へと入っていく。

「管理人さんに鍵もらってくるから、諒太は先に部室行ってていいよ」

「はい」

 A棟とB棟の間の中庭に立つ時計を見ると、ちょうど十二時になるところで、短針と長針が同時に動くコトッという音が聞こえた。いくら大きめの時計とは云え、針の動く音が聞こえるなんて、と若干疑問に思った時、俺はあることに気付いた。

 蝉が鳴いていないのだ。

 考えてみると、今日は家を出てから蝉の声を聞いていない。家から学校までの道はともかく、校内はわりと木も多く、数日前に来た時には確かうるさいほど鳴いていた気がするのだが……。

 体を真っ二つにされるような不安がお腹の辺りをよぎったが、空を見上げ、額の汗を拭って誤魔化した。

 管理人さんに鍵を頼むと、SF研のある二十三号室の鍵はもう渡したと言われた。先程も言った通り部員は四人しかいないため、千尋か姫ちゃんのどちらかが既に借りていったのだろう。あの二人が昨日の停電を理由に部室に来るとも思えなかったが、二人がいるなら少しは調べ物を手伝ってもらえるかもしれない。

 A棟の昇降口で靴を履き替え、一階の連絡通路を通って部室棟へ行き、階段をのぼって二階へ上がると、二十三号室の前で諒太が片手で頭を押さえながら、もう一方の手でスマホをいじっていた。

「おーい、鍵はもう開いてるだろ」

「知ってますよ。そのせいで酷い目にあったんですから」

 そう言って諒太は自分の目の前を指差した。そこには普段は部室に置いてあるはずの、年代物の六法全書が転がっている。

「部室来たら、中から千尋さんや姫莉さんの声がしたんでドアを開けたんですけど、なぜか彼女ら着替え中で……。カウボーイ顔負けの速さで本棚からあれを引き抜くと、僕に投げつけてきたんです」

 諒太はただただ可哀想だが、にしてもあの二人は一体何をしているんだろうか。

「もしもーし。二人ともー、入っていーい?」

「もうちょっと待ってー」

 この部室棟は、昔は一般校舎のA棟として使われていて、今のA棟とB棟を作った時に旧館となり、旧B棟は敷地の問題で取り壊されたのだが、この旧A棟は残され、耐震工事の後、今のような利用に落ち着いたらしい。そのため、部室棟が一番古い校舎となり、城南高校の怪談のほとんどは、ここ部室棟が舞台となっている。俺が一年の時のSF研の文化祭発表は、いくつかの学校の怪談を科学的に解説するというものだった

 部室棟も元は一般校舎だったので、全ての部屋は普通の教室の大きさをしているわけだが、そのままでは部室として広すぎるし、なによりそんな贅沢な使い方をしていては数が足りないため、ほとんどの教室が真ん中を仕切りで分けられている。俺達のSF研の部室も教室の前半分だ。因みに後半分に入っている部はテニス部。

一部、生徒会室や倉庫などはそのままの大きさで使用されているらしいが、三階建て校舎の教室をほぼ倍の数にしているのだから、余って当然だろう。


 SF研の部室には、ドアを入って右手に黒板、左手には幅二メートル程のキャスター付きホワイトボードがあるが、チョークが慢性的に不足しているため、いつも使うのはホワイトボードだ。部屋の奥には普通の学校机があり、その上にはデスクトップパソコンが置かれている。部屋の中央には長テーブルを二つ繋げて置いていて、そこに座るようのパイプ椅子が六つほどある。ホワイトボードを置いて余ったスペースは、仕切りが倒れないようなのか、高さのある棚が三つ置かれていて、そこには代々SF研のメンバーが集めてきた資料やSF小説、マンガ、映画のビデオやDVDなどがしまってある。

「もう入っていいよ」

 中からそう声がしたのでドアを開けると、部屋の中央に置かれていたはずの長テーブルが奥のパソコン机の方まで寄せられていて、その空いたスペースで千尋と姫ちゃんが水着姿になっていた。

「ちょ、え、なんで二人とも水着なの?」

 俺は目のやり場に困りながらも、千尋と姫ちゃんを交互に見てしまう。

「今日は水泳部の練習ないんだって。だから、プールで泳げると思って」と千尋が言う。

「泳ぎたいなら、市民プールにでも行けばいいだろ」

「市民プールは屋外でしょ。南高のプールは屋内だから、焼ける心配しなくていいし」

「ちーちゃんと二人きりじゃなくて、他にクラスの子も来るんだよ」

 姫ちゃんが自慢げにそう言った。千尋はみかん、姫ちゃんは八つ橋だな。

「でも、そもそもうちのプールって夏休み開放してたか?」

「してないけど」

 千尋が全く悪びれる様子もなく答える。

「だ、だよな。まあいいけどさ」

 千尋の態度に気圧されながらも、俺は続けて主張した。

「だけど、中で着替えてるなら着替えてるで、ドアに張り紙とかしておけよ。諒太が危うく死にかけたんだぞ」

「張り紙してたらしてたで、男子は余計なこと考えるでしょ。非公認だから更衣室を使うわけにもいかないし、仕方ないの」

 千尋がピシャっと言い放つ。ごもっともだ。

「それならどうして、千尋さんも姫莉さんも、家から水着を着てこないんですか? 帰る時は着替えなきゃいけないですけど、そっちのほうが楽じゃないですか?」

 諒太の質問に姫ちゃんが答える。

「うん、この前はね、そうしたんだけど、ちーちゃんが帰る時に着る下着を持ってくるのを忘れちゃって、結局その日はノー…」

「はいっ、そこまで! 姫っちもそんなこと言わなくていいから」

 千尋が顔を真っ赤にして姫ちゃんの口を塞ぐ。俺と諒太は互いに目配せをした。

「そこ! 妄想しない!」


「ところであなた達は何しに部室来たの?」

「停電だよ、停電。昨日の停電あっただろ。ネットで何が噂されてるか調べて、今年の文化祭の発表の準備を早いとこしておこうってことで」

「僕たちの家だとネットが使えなくて。学校のパソコンを使おうと思って来たら、蒼馬さんも来てたんですよ」

「ふーん、あなた達は真面目ね」

「お前たちが不真面目過ぎるんだよ。少しはSF研部員としての自覚を持て」

「そんなこと言われたって何したらいいか分かんないもん。ほら、姫ちゃんプール行こっ」

 そう言って千尋が姫ちゃんの手を引っ張って部室を出ようとするが、姫ちゃんは扉の前でしばし立ち止まった。

「蒼馬くん、ごめんね。私たちもできれば協力するから」

「もう姫っち、気使わなくていいの。ほら、行こう」

 バタン、と扉が閉まり、二人の足音が遠くなっていく。やれやれと首を振りながら、諒太の方を振り向くと、彼は何かを言いたそうな顔をしていた。

「なんだよ」

「いえ、別に」

「何か言いたいことがあるなら言えって」

「特には。でも、敢えて言うとするなら、蒼馬さんと千尋さん、前と変わった様子無いなって思いまして」

「変わったって何が?」

「二人の話し方っていうか、関係みたいのが」

 なるほど。そういうことか。諒太はこの前の花火大会で俺達に何かあったのかと思っていたわけか。自慢じゃないが、俺は何の確証も無く女子に告白できるほど勇気のある人間ではない。

「俺と千尋の間にはなんにもないぞ。この前の花火大会だって、ただ普通に二人で花火見て、帰りにラーメン食べて帰っただけだし」

 諒太は明らかに「はぁ?」という顔をしたが、先輩に対する礼儀を重んじる諒太は、それをそのまま口には出さず、「まあそんなことだろうと思いましたよ」と言った。

「そんなことより停電のことだろ。さっき俺が来るまでスマホいじってたけど、何か新しいニュース入ってたか?」

 俺は部室の奥にある机に座り、その上に置かれているパソコンのスイッチを入れながら聞いた。

「いえ、まだ特には。でも電車は、システムの確認が済んだので、全線で運転を再開したらしいですよ」

 このパソコンは古く、電源を入れてもすぐにウィンドウズのマークが表示されないため、真っ黒な画面がしばらく続く。

 真っ黒。闇。

 まさに昨日の停電は闇だった。雷による停電ならば、部屋が真っ暗になっていても、稲妻の光が窓から入れば多少は明るい。ただ昨日は嵐ではなかった。雨すらも振っていない、強いて言えば多少雲が多いくらいの夜だった。

 そこに突然の闇。それも関東のほぼ全域が。

 そして、通常ならば数分で復旧する電気が三十分以上経っても戻らなかった。

 スマホのライトで家の懐中電灯を探し、何が起きたのかも分からないまま、リビングでそれを点けて、母さんと二人で電気が戻るのを待った。

 発表によると停電が起きたのは。夜の十時三十二分。一時間以上経っても電気が戻らなかったので、俺と母さんは寝てしまったのだが、朝、母さんのケータイに電話があって、父さんは停電の時ちょうど電車に乗るとこだったらしく、昨晩は駅で寝泊まりしたらしい。

 それだけの大事でありながら、未だ原因が分からないというのはどういうことなんだろうか。真の原因を隠しているならまだいい。でも本当に原因が分かっていないのだとしたら……。

 ようやくウィンドウズのマークが浮かび上がり、ログオン画面に切り替わった。 

 mdmnmrinと打ち込み、とりあえずエアコンのスイッチを入れようと席を立つ。このパスワードは俺が入部した時からこれで、意味は知らなかった。

 画面がデスクトップに切り替わり、ふとメールアイコンに受信を示すマークが付いているのが目に入ったので、エアコンを後にして再度座りなおす。

 このメアドは、たまに俺達が何かのデータを送ったり受け取ったりする時に使うくらいなので、そうでない時にメールがあるのは珍しかった。

「諒太、ここにメール送った?」

「いえ、送ってませんよ。何か来てたんですか?」

「うん、一件来てるんだよ」

 アイコンをクリックしてメールフォルダを開くと、未開封のメールが確かに一通あった。しかしそのメールは、奇妙だった。

「誰からでした?」

「いや、それが、メアドも文字化けしているし、件名も無いんだよ」

「ただのスパムか、何かですかね。ウイルスとかの心配もありますから、開かないほうがいいですよ」

「あぁ、そうだな」

 そう言って、そのメールを右クリックし、「削除」しようとした時、メールの受信時刻が目に入った。

 8月4日、22時35分。

 あれ、これって停電してた時間帯じゃないか? 

「おい、諒太、このメールの受信時刻、変だぞ」

「何がですか?」

「昨日の十時三十五分になってる。その時は停電してただろ」

「そりゃ確かにそうですけど、停電してたのは関東だけですし、メールはサーバーで管理してるんですから、受信できてもおかしくないですよ」

「で、でも、わざわざその時間に送るメールってなんだ? 第一関東の人達はネットが使えなかったんだぞ」

「それこそあの時間に送るメールなんて決まってるでしょ。関東に住んでる家族とか友達に対しての安否確認のメールですよ。それが間違って届いちゃったんでしょう」

「あぁ……、そっか」

 停電の原因に繋がる重要な情報かと舞い上がった自分が少し恥ずかしくなった。メアドの入力ミスかなんかでここに届いてしまっただけのなんてことないメールなのだろう。

 もう一度右クリックをしてそれを削除しようとした時、

「いや、ちょっと待って下さい」と諒太が言った。

「十時三十五分はおかしいですよ」

「え? なんで?」

「停電があったのが十時三十二分ですよね。その時関東は停電してるんですから、ネットの接続障害が出てる状況で、一般人にはそのことを外部に伝える手段がないんです。政府機関が何らの方法でそれを他地方に伝え、それがニュースで報道されるまでにはもっと時間が掛かったはずです。たった三分間で関東の状況を知れるわけがない」

 諒太はそう言うと、スマホを取り出す、何かを調べだした。

「ほら、見てください。ヤフーニュースでも、関東の停電を最初に報じたのは十一時。他のネットニュースもほぼ同時刻ですし、ツイッターに「関東」、「停電」のワードが上がってきたのも十一時頃です。たぶんテレビでの報道もその頃だったんでしょう」

「じゃ、じゃあこのメールは?」

「何らかの偶然、と考えることができなくもないですが、そう考えるにしても面白すぎますよ」

 諒太はそう言いながら、メガネのブリッジを中指でクイと上げた。

「試しに開いてみて下さい。何かすんごいことが書かれているかもしれませんよ。書かれて無くても、発表の時のいいネタになります」

 そう言いうので、俺はその謎のメールを開いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

[件名なし]

               8/4,Thu 22:35

From: ƒŠƒAƒNƒ^[˜Z\P‰Í¹ŽO\ŽO‹ž˜ZçŽO•SŽl\ˆê’›ñ\ª‰­Žµçñ\ŽOœçñ•SŽµ\˜†

To: 城南高校SF研究部


35.687477  

139.704298

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「数字?」

「数字ですね」

「何の数字だよ」

「さぁ……?」

 メールに記されていたのはただの数字だった。でもそれが何を表すのか、見当もつかない。実際分からないことだらけなのだ、ここ最近。

「でもこの数字、なんとなく見覚えがある気がします」

「ほんとか? どこで?」

「いや、それはまだ分からないんですけど、35と139の後ろに点があるじゃないですか。これ、あとの数字には付いてないですから、金額とかを現すときの三桁区切りではないと思うんです。そうすると、これは小数点。そこから何か分かると思うんです」

「俺にはさっぱり」

 諒太はまたスマホに何かを打ち込み始めた。一瞬のうちに答えにありつけたようで、「あぁ、なるほど」と笑った。

「緯度経度ですよ、この数字は。どうりで見たことがあったわけだ」

「緯度経度って、東経何度ってやつのか?」

「そうです。今、35と139で検索を掛けたら、東京に関連する項目がいくつか出てきて、あっと思い出しました。東京のGPS座標ですよ。これは十進法で表したものですね。東京のどこかにここに書かれた場所があるんですよ」

「でもなんで緯度経度なんかをメールで……。しかもここのパソコンに」

「文字化けのこともありますし、多分ここに送るはずのものじゃなかったんですよ」

「じゃあ、国家機密レベルの情報かもしれないってわけだな?」

「いや、そこまでは分かりませけど、調べてみる価値はあります」

 諒太はそう言うと、パソコンの前に座り、グーグルアースを開いた。

「ここに先程の座標を入れれば、それがどこか分かります」

 グーグルアースの検索欄に「35.687477」「139.704298」と入力して、エンターキーを押すと、宇宙に浮かぶ地球にぐんぐんズームインしていき、日本の東京に迫っていく。座標の地点に立てられた黄色のピンがどこに刺さっているかは、周辺の建物の名前を調べなくても分かった。

「新宿だ……」

 新宿と言ってもその中心、新宿御苑のすぐ脇のグラウンドのような場所に、ピンは刺さっていた。ここなら電車と徒歩ですぐに行けるだろう。

「諒太、すぐ行くぞ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る