第9-2話 苦難の道へ

 転移した先には茶色い惑星と、一隻の宇宙母艦があった。

 我々の艦は巨大なので、一般的な宇宙母艦とはサイズがまるっきり違う。

 接舷できないほどの差があるのだ。

 私は士官を二人ともない、小型シャトルでその宇宙母艦に向かった。

「傭兵に鞍替えですか? 艦長」

 士官の一人が嬉しそうに言う。

「船はあっても乗組員不足では、雇ってももらえないだろうがな」

 そう応じつつ、窓の向こうの宇宙母艦を見る。

 そこには「マッキナ傭兵社」と書かれているのがよく見えた。

 帝国軍は一部の業務を傭兵会社に委託していて、その繋がりは報酬を払ったり配置を決めたりする上層部よりも、我々のような現場の人間の方が多い。

 私自身は知らないが、オー少佐はこの傭兵会社のことをよく知っていて、悪いようにはしない、と言っている。

 彼を疑う理由はないが、私は正直、不安だった。

 シャトルが宇宙母艦にある程度近づいたところで、そこから四機の機動戦闘艇が飛び出してきた。

「フィールドは展開するな。通信を待て」

 私の指示に、輸送船の船長が返事をした時には、通信が繋がっていた。

『こちら、マッキナ傭兵社所属の機動戦闘艇部隊長。そちらはどこの誰だ?』

「私はオクスフォード少佐」

 私は操縦室に身を乗り出し、船長のマイクを口元に引っ張った。

「帝国軍を脱走してきた。保護してもらいたい」

 身も蓋もない言い方だが、他に言いようもない。

 相手はどこかと通信しているような間の後、応じた。

『帝国軍に問い合わせた。事情はわかったが、力にはなれない』

 輸送船の中に広がる落胆をよそに、相手は続ける。

『あのデカ物をあまり近づけないでくれ。俺たちが疑われる。俺たちは帝国とはいい商売相手として関係を作っているんでね。悪いが、他所を当たってくれ』

「すまないことをした。謝罪する」

『謝ることはないさ。いつかどこかで会えるといいな』

 私はマイクを離し、船長に艦に引き返すように命じた。

「彼らは正直だ」

 私は思わず呟いていた。

「秘密裏に帝国軍に通報すれば、我々を確保したことで、帝国に貸しを作れる。それをしない程度には、誠実なんだな」

 艦に戻って、すぐに三隻で別の傭兵会社を当たることにした。

 この傭兵社巡りは、思わぬ長期旅行になり、一ヶ月が無為に過ぎた。

 その間に時間がたっぷりあったので、私はファブスン少佐を説き伏せることに力を注ぎ、実際、彼は我々を認める発言をし始めた。

 それでも私が落ち着かず、彼を他の兵士たちと引き合わせ、議論させた。

 いつの間にか、兵士たちの間には反乱軍への合流が期待され始めているのに、私はこの時、気づいた。

 私やオー少佐の発想は、艦はどこかで処分し、その金で新しく傭兵会社を設立する、というものだった。事前の話し合いでも、反乱軍を当てにするのは、最後の手段だったはずだ。

 ただ、兵士たちは楽な方へ流れようとしていた。

 それも、ありもしない何かにすがるように。

 傭兵会社を回る間にも、艦船の買取や解体を行う業者を訪ねたが、誰もいい顔はしない。

 あまりに目立つのだ、我々の船は。

 どうにも先へ進めない一ヶ月が終わり、次の一ヶ月は、今度は後退するような有様になってきた。

 巡航戦艦ベルキンスンの兵士の小集団が、反乱を起こしたのだ。

 彼らは隙をついて艦橋に踊り込み、六人を射殺した後、駆けつけた海兵隊員にやはり全員が射殺された。

 死者は全部で十名を超え、その中にはベルキンスンの艦長も含まれていた。

 ベルキンスンはこの後、短い期間に同様の事態が連続したが、理由は単純で物資の不足による行動だった。

 すでに長い間、シャワーも浴びず、それどころか飲む水にさえ苦労しているのが、三隻の共通の状況だった。

 食料も底をつき始め、質素とか粗食とかを通り越しつつある。

 私とエンガの艦長、そして新しいベルキンスンの艦長で、どうにかして補給を受ける作戦を立てている時、事態はさらに悪化した。

 ベルキンスンの燃焼門が破壊され、完全に航行不能に陥った。

 すでに一部の兵士は、原隊への復帰を考えており、こうした行動に出たのだった。

 苦肉の策として、私はベルキンスンに、復帰を望む兵士を集め、そして最低限の物資を渡し、その上で緊急周波数で救援通信を発信させた。

 マリアジージュとエンガは素早く亜空間航法を使い、追っ手を避けようとした。

 しかしすでにそんなことをしている事態でないのは、はっきりしていた。

 とにかく、水、食料、それだった。


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