第2話 毎日の呪いとギャル

 嫌な奴といえども、休日には会わない。

 しかし毎日多少、不機嫌で不愉快な奴がいる。

 僕は自分の親を妄想の中で、木魚にしていた。ポコポコ叩いている。


 僕は三人姉弟の末っ子だ。姉が二人いる。

 親は三姉妹に、憧れていると聞いた事がある。

 娘が二人産まれて、きっと次も娘だろうと期待していたのだろう。

 三人目は、息子だった。

 予想外の出来事に親は、その感情を末っ子に向けた。

 小さい頃から、僕だけが扱いが違う。両親とも、僕だけに不機嫌だ。

 姉は女子で、僕が男子だから厳しく育てているのだろうと思っていた。

 

 ある日、決定的な出来事があった。

 小学生だった僕は、近所で友達と遊んでいて、けがをした。

 ひざと鼻から血を流して、泣きながら家に帰ってきた。

 流血している僕を見て、おじいちゃんが「どうした?」と云いティッシュを持ってきた。

 その日の夕食で、おじいちゃんが僕の父親に、けがの事を話した。

 父親は「だからどうした?」と一言云っただけだった。


 数日後、今度は姉が血を流して帰ってきた。転んだらしい。

 父親は、「気をつけるんだよ」と云っていた。僕にはそんな事、云わなかった。やっぱり男子たるもの、出血くらいで泣いてはいけないのだ。

 僕はこの日から、自分の立場を理解した。末っ子でも長男、たくましく、ならねば。


                  〇


 僕は大人になってからも、父親の厳しい教育に耐えた。

 母親は、大人になった僕には何も云わなくなっていた。母から見たら、僕はすでに立派な大人なのだろう。

 父は自分の威厳の為にも、僕が立派だと思っても、それを認める訳にはいかないのだろう。


 僕が社会人になってから、父親の不機嫌は急増した。リストラされたらしい。

 昔気質の荒々しい性格と言葉遣い、確かにそれは、人を選ぶだろう。

 僕は時々、妄想をした。父親に八つ当たりされた日は、一層憎しみを込めて木魚を叩いた。

 

 最近、どうしたことか、日に日に弱ってゆく父親。リストラされたという精神的な痛みからだろうか。

 自業自得ではないのかと思うけれども、昔の人間にそれは通じないだろう。

 僕が妄想で、木魚にしているからだろうか。

 僕はいきなり発疹が出た。


                  〇


「何でそんなに緊張しているの?」

 職場でいきなり声をかけられた。声をかけてきたのは、相沢さんというギャルだ。

 相沢さんは『いかにも』のギャルだ。口癖は「ま、いっかぁ」だ。

 大体今は仕事中だ、緊張していて当然じゃないか。僕は真面目なのだ。

 相沢さんは仕事中も笑顔で、時々鼻歌なんかも歌っている。

 愉しそうで、良いなぁ。僕は羨望の視線を、相沢さんに向けた。


「山崎くんが、ニヤニヤしながら女子社員に視線を送っている」と、聞こえた気がする。空耳だろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る