負の連鎖(ポップ編)
青山えむ
第1話 負のエネルギー
もしも嫌いな奴を呪える力があったらどうする――
僕は嫌いな奴を、どん底に突き落とす事が出来る。
僕が願うと、そいつは僕の想像通りの未来を体験する。
例えば会社にて。嫌な奴が僕の上司に決定したとする。ものすごく嫌だ。
確かにそいつは、そこそこ知識と技術がある。僕ほどでは無いけれども。
けれどもそいつは人間としては最低な奴だ。理由を述べるのは、そいつの名誉の為に控えておこう。僕は紳士だからね。
そいつは陰で「クソ」とあだ名をつけられている。これで、説明不要だろう。
僕はそいつが上司になる事が嫌で嫌で、考えるだけで憂鬱になる。
繊細な僕は、胃潰瘍になってしまうかもしれない。
嫌で嫌で嫌で嫌で、対策を考えた。考えてもどうにもならない、会社の決定だ。
僕は自分の気を、少しでも晴らしたくて、妄想の中で「クソ」を魚の顔にした。
妄想の中で「クソ」は、いきなり身動きが出来なくなる。
包丁を持った会社の連中が、魚になった「クソ」をさばき始める。
「クソ」は、やめてくれと泣き叫ぶ。連中は、さばくのをやめない。
今まで毎日「クソ」にいじめられていたKさんは、人一倍多く料理をしていた。
刺身や焼き魚、フライなど。
僕も一緒にさばいた。「クソ」が上司になる日までの数週間、毎日妄想をした。
「クソ」が上司就任の初日、とても億劫だった。心なしか、職場全体がどんよりとしている。恐らく全員、同じ気持ちなのだろう。
しかし「クソ」は中々姿を現さない。体調不良だろうか。ああ心配だ。
病院に行ったついでにインフルエンザに感染なんかしていないだろうか。期待。
数分後、会社に連絡が入った。
「クソ」は足に大けがをして、長期入院が決まったそうだ。
僕は心の中でジャンプをして喜んだ。きっと、他の社員も同じ気持ちだろう。
ジャンプからの着地で、僕は足を捻挫した。
きっとこれは、代償だと思った。僕の願いが叶った、代償。
けがのエネルギーは、けがのエネルギーで支払うのだろう。
「クソ」は骨折、僕は捻挫。
〇
僕には少し、良い雰囲気になった女性がいる。
僕からアプローチをして、お試し期間のような関係まで発展した。
ある日突然、彼女から別れを告げられた。本当に、突然。
僕は理由が知りたかった。
「もう会わない」彼女が一言、メールで済ませた。
電話をした。詳しい理由を云ってくれない。
僕たちは、終わった。
僕は落ち込んだ。友達に連絡をした。
友達は、びっくりしていた。何をいきなり、と。
「別につきあっていた訳じゃないのに別れとか終わったとかって、お前の妄想?」などと云われた。
妄想という単語が出たので、僕の魚妄想の事かと思って、一瞬びびった。何故知っている、と。
友達がびっくりした理由にびっくりしたけれど、話を聞いてくれて嬉しかった。
そうか、世間的にはそうなるのか。
数週間後、彼女が交通事故に巻き込まれたと聞いた。軽傷で済んだらしい。
僕は彼女の不幸を願ってはいないし、妄想もしていない。
彼女の事故の話を聞いた時、「誰と一緒に車に乗っていたのだろう」と思ってしまった。新しい男だろうか。そいつの為に、僕と別れたのだろうか。
未練がましいだろうか。
友達には、「未練というか、お前ちょっと怖い域」と云われた。
ある日突然、車のバッテリーが上がった。
車検を済ませたばかりなのに、ディーラーも首をかしげていた。
僕の熱い心が、バッテリーを上げてしまったのだろう。嫉妬という心が。
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