第23話
「あとは備考ね。現時点でわかっている注意事項などが書いてあるからよく読んで」
「追加報酬ってのは?」
「優先して対処するべきダンジョンに設定されるわ。当然、難易度は高いけどね」
「なるほどね。まあ、今はとにかく近場のところに行きたいんだけど、おすすめある?」
「そうね……近さだけで言うなら、これかしらね。カナエ山の遺跡」
帰還率は1212/1587。進行度は不明だ。
「発見が一年前なんだけど、そろそろどうにかしないとまずいから、追加報酬が設定されるって噂。そうなると、この街以外からも、凄腕の奴らがやってくるわ」
「一年って……結構のんびりしてるもんなんだね」
「それがね。誰もコアに到達できていないのよ。帰還率を見ればわかるように、それほど敵が強いわけでも……あれ? 前見たときよりも随分と下がってるわね? 何か変化があったのかしら?」
「それ、私が行って見つけられるもんなの?」
ニルマよりもダンジョンに詳しい者たちが一年もかけて発見できていないのだ。
今さら行ったところで、何もわからない可能性は高いだろう。
「無理かもね。けど、出てくる敵はしょぼいから、とりあえずダンジョン経験を積んでおきたい初心者向けってことになってるわ」
「……これ、もうちょっと詳しい情報ってないの?」
ニルマの目的からすれば行っても無駄かもしれないが、少しばかり引っかかるものがあった。
「あるわよ。リファレンスカウンターで、詳細情報を引きだせるわ」
レオノーラが指さす方を見てみれば、そちらにも列ができていた。
「まだあるんですね。受付カウンター」
「ザマー行ってきてよ。二人で行くほどのことでもないし」
「僕、ニルマ様を起こす以外の仕事って、業務範囲外だったりしませんかね?」
「これから一緒に冒険者やろうってのに何言ってんの?」
渋々という様子でザマーがリファレンスカウンターへ。ニルマとレオノーラはロビーの隅にある休憩コーナーへと向かった。
「この前のエルフのことについて聞きたいことがあるんだけど、いい?」
二人がソファに座ったところで、レオノーラが聞いてきた。
「なに?」
「エルフは多重防御結界を展開してた。けど、ニルマはそれを素手で破ったのよね? あれはどういうことなの?」
「どうって言われても……あの手のは素手で殴るのが一番手っ取り早くない?」
「当たり前みたいに言われても……」
「どういえばいいのかな。あれは魔法だったわけでしょ?」
「そうね……私の使うような精霊魔法とは根本的に違うようではあったけど」
人間は魔力を有してはいるが、それを制御する術を持っていない。精霊や神霊や悪魔といった超常の存在の力を借りることによって魔法を行使しているのだ。
だが、あのエルフは自らの魔力を、自らで制御していた。
レオノーラとエルフとでは魔法使いとしての格があまりにも違い過ぎるだろう。
「まあ、何の力だろうといいけど、魔法ってのはいろんなものを操作したり変化させるものなわけでしょ」
「ええ」
「で、魔法で攻撃する場合は、火の玉を生み出してぶつけたり、風で斬り裂いたりするわけだけど、それはなぜ? 魔法でなんでも操作できるなら、敵を直接燃やしたり、心臓を止めたりできそうなものだよね?」
「それは……実力差があれば可能かもしれないけど、普通は成功しないわね。抵抗されるもの」
「そう。生身の体、というか意思のある物は直接魔法で操作することはできない。だから物理的衝撃を防御するような結界は、素手の拳を防ぐことはできない」
「そんなわけあるわけないでしょ! だったら防御魔法になんの意味もないじゃない!」
「論より証拠。ちょっと防御結界を出してみて」
「ここで!? 街中で魔導器を出すわけにはいかないわよ?」
「大丈夫だって。ちっちゃい結界でいいからさ」
杖などの魔導器は武器と見做される。当然、これ見よがしに持ち歩けないし、街中で振り回してよいものではない。
だが、建前としてはそうなっていたとしても、冒険者ばかりのこの街で馬鹿正直にそれを守ってもいられない。皆、何か武器になるものは隠し持っているものだ。
少し迷ったようだが、レオノーラは懐から小さな杖を取り出した。
あたりの様子を気にしながら、そっと杖を振る。
するとテーブルの上に半透明な壁が出現した。
レオノーラがそれを拳で軽く叩く。当然びくともしなかった。
「ほらね。拳で殴るってことは物理攻撃なんだから、防げるに決まってるじゃない」
「それは漫然とやってるからだよ。意思が拳にこめられてない」
今度は、ニルマが壁を軽く叩く。
壁はあっさりと砕け散って消えた。
「ね? 私の意思の込められた拳と魔法が干渉した場合、魔法の方が砕け散る」
「……へ?」
レオノーラは何もなくなったテーブルの上を呆然と見つめていた。
「レオノーラは指の先、爪の端まで自分の身体だと思ってる? なんとなく動かしてるだけだと自らの意思で制御してるとはいえない。ただ、体にくっついてるだけだよ」
「レオノーラさん。その人の言うこと、あんまり真に受けない方がいいですよ?」
ザマーが戻って来た。
「話半分に聞いてりゃいいんです」
「なにそれ。私が嘘ついてるみたいじゃん」
「嘘とは言いませんけど、そんな気合いでなんとかなる、みたいな説明で理解できるわけないでしょ」
ザマーがテーブルの上に借りてきた資料を広げる。
1年分のためか、結構な量だった。
「ふむ……これが遺跡の外観イラスト……もしかしてとは思ったけど、見覚えがあるね」
「では、これは五千年前からあるんですか?」
「昔は平地にあったはずだから微妙だなぁ。山ってそんな簡単に盛り上がったりするのかな?」
「ニルマ様の家が地面に埋まったりするぐらいですし、不思議ではないのでは?」
「あなたたち何を言ってるの? 五千年って?」
レオノーラが口を挟んできた。
「言ってなかったっけ。私、五千年寝てて最近起きたとこなの」
「にわかには信じられないけど……」
レオノーラは半信半疑のようだが、信じてもらう必要も特にはない。
「これが内部の地図か。一辺百メートルほどの正方形型。中心に大広間があって、周囲に小部屋がたくさん配置されてて、二階建て……もっと階数はないの?」
「今のところ発見されていないわね。コアがみつからないわけだから、当然他のフロアがあるとは皆考えたんだけど」
「これ、私の知ってるやつだとしたら、立方体だと思う。ネルズファーの神殿じゃないかなー」
「だとして、何かわかるの?」
「うーん、行ってみたらもしかして?」
確証はないが、行けば何かわかるのではとニルマは思っていた。
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