第22話
借金問題が片付いた翌日の朝。
ニルマとザマーの二人は冒険者センターにやってきた。
冒険者としての仕事をこなしてポイントを集めるためだ。
ポイントを集めるために出来ることはいくつかあるが、何をするにしても冒険者センターに出向くのが手っ取り早いとのことだった。
「そもそもどこにダンジョンがあるのかがわからないとどうしようもないしね」
「それに、パーティーを組んでないと成果が得られないらしいですよ?」
基本的に、冒険者センターは冒険者の活動内容に口を出さない。
だが、それでも一人でダンジョンに行くことは無謀だと思っているのだろう。
一人では報酬を得られない仕組みにして、二人以上での活動を推奨しているとのことだった。
「じゃあまずはパーティー結成からだね」
「セシリアさんの所に入るんじゃないんですか?」
てっきりそう思っていたらしいザマーが聞いた。
「セシリアのとこは現時点で六人パーティでしょ。八人になったら分け前がすごく減っちゃうじゃん」
セシリアの所属するアイアンフィストは六名構成で五人が死んでいるが、それでも報酬は全員に分散されてしまう。
セシリアとしても所属し続けるメリットはないのだが、パーティから脱退出来るのは加入してから一月後だった。
つまりパーティを頻繁に変更することは推奨されていないのだ。
「それに準国民の間は、国民とはパーティを組めないって言ってたよ」
準国民は修業中の冒険者ということになっている。国民の力を借りては意味がないということなのだろう。
「そこら辺は先輩が後輩を指導するOJT的な仕組みでもいいんじゃないかって気がしないでもないけど」
もう少し効率よく冒険者を鍛える方法があるのではとも思うが、現時点のニルマがそれを言っても仕方がないのだろう。
「ま、とりあえずは私とザマーの二人でパーティを組んで一気に国民昇格を目指すってことで」
「他の人と組んでも迷惑をかけるだけのような気もしますしね」
ニルマたちはパーティー登録受け付けに並んだ。
「パーティー結成でよろしいでしょうか?」
すぐに順番が回ってきて、受付の女性が聞いてきた。
「うん。名前はどうしようか?」
「ニルマとザマーとかでいいんでは?」
ザマーは実に投げやりだった。
「それだと、後から入ってくる人いたら、肩身狭くない?」
「仲間を増やすつもりあるんですね」
「んー、じゃあ、マズルカ伝習会で」
「無難なとこですかね。何を伝える気なのかはおいとくとして」
リーダーはニルマで、メンバーはザマー。
パーティー「マズルカ伝習会」はこの構成でスタートすることになった。
パーティー結成の手続きを終えたニルマたちはロビーへと向かった。
ここで様々な情報が公開されているのだ。
「君たち、登録したてだろう? 簡単な依頼があるんだけどどうかな? 中級冒険者に随伴して荷物を運ぶだけの仕事なんだけど」
「こっちは攻略済みダンジョンを埋める仕事だ。ワーカーとソルジャーは殲滅済みだから、初心者向きだぜ?」
「あ、結構です」
活動の中には、監督官の元で作業をするというものがあり、その勧誘だった。
比較的安全らしいが、当然実入りは少ない。
一気に国民昇格を目指すニルマにとっては、時間の無駄でしかないだろう。
「ここですね。これは発見順に並んでるんでしょうか」
ロビーの壁にはダンジョン情報が書かれた用紙が貼り出されていた。
一枚の用紙には、ダンジョン番号。場所。形式。発見日時。進行度。帰還率。追加報酬。備考が書かれている。
それらがずらりと並べられているのだ。
「んー? どこがいいかなー」
「海の近くがいいと思いますよ」
「なんで?」
「ついでに聖導経典を回収しときましょう。あれがないと、ニルマ様は完全体じゃないですよ」
「なんであいつが失われた半身みたいな扱いになってんの?」
「寝るのに邪魔だったのはわかりましたけど、起きたなら必要ですよね?」
「えぇー……できれば二度と会いたくない……」
ニルマはげんなりとした。
だが、大手を振って聖女だと主張するなら必要なのも事実だった。
「まあ、それは後でいいじゃん。とりあえずは国民昇格だよ! 近場のとこをさくっとクリアしよう!」
「と、言われましても、僕たちは地理をまったくわかってないですよね。住所を見てもどこなのかさっぱりですよ?」
「だったら、あっちのピックアップコーナーを見た方がいいんじゃない? 近場のダンジョンをまとめたコーナーなんてのもあるから」
すると隣から声がかけられた。
ホワイトローズのレオノーラだった。ニルマたちがいることに気づいてやってきたらしい。
「おお、助かる! レオノーラも仕事を探しに?」
「仕事は当分お休みね。こないだの仕事で儲かりすぎちゃったから」
「レオノーラは金があったら働かないってタイプ?」
「微妙なとこね。専業冒険者をやってるぐらいだから熱意はあるけど、常に命がけのこの仕事を立て続けにやりたいわけでもないし」
国民になった後の身の振り方は大きく分ければ二つある。
一つは、自分の村や町に帰り、そこで家業を継ぐなどする兼業冒険者だ。冒険者としての活動は、町の周囲に現れたダンジョン攻略が主となる。
もう一つが、専業冒険者だ。国中を巡り、ダンジョンを発見し、攻略することで生計を立てている。
「今日は、エルフの件で呼ばれたのよ」
「私は行かなくてよかったの?」
「一応あなたのことは伝えておいたけど、説明が難しかったから私たちが倒したことにしておいたわ」
「確かにそうですね。パジャマ姿で聖女を自称する女がいきなりやってきて殴り殺したって言っても」
「信じさせるのが面倒でしょう? だから手柄を横取りとかじゃないからね」
「呼び出されるとか鬱陶しいし、それでいいよ」
ポータル見学のついでに倒しただけのことなので、どう処理されようとニルマにとってはどうでもいいことだった。
「どうせ情報の見方とかわかってないんでしょ? 教えてあげるわ!」
そう言ってレオノーラが歩き出したので、ニルマたちもそれに続いた。
「基本的に発見日時が古いほど難易度は高いわ。けど、発見時点で進行が進んでいる場合もあるから、日が浅いから難易度が低いとも限らないけどね。だから、難易度の基準は進行度なのよ」
近隣ダンジョンをピックアップしたコーナーに来たところで、レオノーラが語りだした。
「けど、進行度が書いてないのもあるね?」
「それは十分な調査が進んでいないケースね。そんな場合は帰還率を見ればいいわ」
適当な情報を見てみると44/56のように書いてある。
分母がダンジョンに向かった人数で、分子が帰ってきた人数とのことだった。
「帰還率がわかるってことは、どこに行きますって伝えてるってこと?」
「ええ。どこのダンジョンに行こうと自由だけど、届け出る必要があるわ。受付はそっちの出発カウンターね。で、帰ってきたら帰還カウンター」
レオノーラが指さす。
出入り口近くにあるカウンターに列ができていた。
「受付ばかりですね、ここ」
ザマーがうんざりしたように言った。
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