第8話

「ニルマさん! 大丈夫ですか!」


 セシリアとザマーが駈け寄ってきた。

 遅れて、ホワイトローズの面々もやってくる。


「うん。特にこれといって苦戦する要素もなかったし」

「信じられない……あれほどの多重魔法障壁を素手で打ち破るなんて……」


 レオノーラが、倒れたエルフを見下ろしてつぶやいた。


「で、これで、ソルジャーは全部倒したってことで、ポータルを壊せばいいの? あ、人数が増えると報酬の分配が面倒なんだっけ?」

「この状況で分け前をよこせなんて、とても言えねえよ……」

「ああ、あんたと争う気はねえ」


 トーマスと、シントラが言う。

 そういうことなので、ポータル破壊報酬はセシリアが得られることになった。

 ニルマはポータルに近づいた。

 破壊するにはとにかく攻撃すればいいらしい。

 軽く触れる程度ではだめなのだろう。なので、手加減はしつつも最低限攻撃になっている程度の力をこめて叩いてみた。

 派手な音を立てて、ポータルが吹っ飛んでいった。


「えええっ!?」


 ポータルが壁に激突して、洞窟が揺れる。

 ポータルは見る間にしぼんでいき、後には人の頭ほどの大きさの丸い石が現れた。


「あーあ。壊れちゃってますよ?」

「手加減したよ!?」


 ザマーが石を拾ってきたが、真っ二つになっている。

 何かまずいことになったかと、ニルマは焦った。


「それでいいわ。ポータルの障壁を破るとその衝撃で吹っ飛んでいくの。それに核は壊れていないとまずいのよ。持ち帰って、復活されたらとんでもないことになるから」


 レオノーラが、擁護するように言った。


「ほらー、別にまちがったことしてないじゃない!」

「うっわーまずったー、やっちゃったー! みたいな顔してましたよね?」

「それはさておき。ポータル壊したらそれでいいわけ?」

「ええ。この規模なら自然消滅ってとこね」


 ワーカーはポータルからの指示で動いているため、ポータルが壊れると動きを止めるらしい。

 ソルジャーは独自の判断で動いているため、大量にいる場合は残党狩りが必要とのことだった。


「じゃあこれで終わりでいいんだ」

「そうだな。俺たちは、ソルジャーの装備を漁るが。俺たちが倒したソルジャーまでよこせとは言わんだろ?」


 トーマスが言う。ソルジャーの装備には謎の技術や素材で作られている物もあり、それらは高値で売れるらしい。


「それはいいけど。あ、そうか。じゃあ、エルフは私のものか」


 ニルマはエルフに近づいてしゃがみこむ。そして、靴を脱がせはじめた。


「なにやってんですか?」

「靴もらっとこうと思ってさ! いつまでも裸足もなんだし」

「よく、人の履いてた靴を履こうって思えますね……」


 エルフの靴を履く。

 サイズはぴったりだった。どうやらサイズが自動的に調節される機能があるらしい。


「どうせなら服もとっちゃえばいいんじゃないですか?」

「それって追い剥ぎぽくない?」

「靴だけでも追い剥ぎであることには変わりないですけどね」

「いらないならもらっていいか?」


 シントラが聞いてきた。

 服も杖も造りがいいので、価値はそれなりにありそうだ。


「セシリアはどう? 服とか杖とかいる?」

「いえ。ポータルの核があれば十分です」


 なので、エルフの持ち物は、ホワイトローズに譲ることにした。


「じゃあ帰ろうか。あ、マズルカ教に改宗するって約束は忘れないでよ?」

「わかってるわ。あなたとの約束を違えるなんてするわけがない」


 セシリアの案内で出口へと向かう。

 それほど潜っていたわけでもないので、すぐに出口までたどり着けた。

 外へ出ると、そこは山の中だった。

 洞窟の入り口は、山の中腹あたりにあったようだ。


「これは……!?」


 ニルマはそこから見える光景に息を飲んだ。

 山の麓には、巨大な街が広がっていたのだ。

 長大な城壁に囲まれていて、高層建築物が立ち並び、馬車が往来を行き交っている。

 原始的な集落などではなく、そこには文明があった。

 もちろん、星々の海へと到達していた五千年前の文明に比べれば、慎ましやかなものであるのかもしれない。

 だが、ニルマはその街並みに感動していた。

 人類はここまで復興できたのだと、感極まったのだ。


「鬼の目にも涙というやつですか?」

「あんたなんにも思わないの? あの焼け野原がここまでになってんだよ?」

「そう言われましても僕は外の世界は見てませんから。ニルマ様のこともプリインストールされているデータでしか知りませんし」

「まあ、いいけどね。で、そのプリインストールされた記憶によると、ここがどこかわかる?」


 確かに家は山奥に建てたのだが、こんな山だったのかはよく覚えていなかった。


「わかりませんね。家が建っていたのは山頂近くだったかとは思いますが」

「まあいいか。だからなんだって話だし」


 そもそも、神滅大戦の影響で地形は激変しているので、五千年前の知識は当てにならないだろう。

 この時代のことは一から覚えていくしかないのだ。


「それでニルマさん。これからどうなさるおつもりですか?」

「うーん。とりあえずは生活基盤を確保しなきゃとは思うけど」


 セシリアに聞かれ、ニルマは何も考えていなかったことに気付いた。


「今のところ、ニルマ様は住所不定無職でパジャマと靴しかもってない人ですから、先行きは甚だ不安ですね」

「完全自律行動ができて半永久的に稼働するエネルギーシステム内蔵の目覚まし時計って、この時代ならかなりの値段になりそうな気がしない?」

「まさか、僕をつれてきたのって……」


 ザマーは信じられないという顔でニルマを見つめていた。


「特にご予定がないのでしたら教会にいらっしゃいませんか?」

「あ、いくいく! よかったな! 売り払われなくて!」

「どこまで本気だったんだ……」

「はい、では山を降りましょう。麓の街に教会が有りますので」


 そこから特に何事もなく山を降りることができた。

 街に到着する頃には夕方になっていた。

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