③ ただほど高いものはない
日も暮れそうな帰り道に立ち寄ったカフェ。生徒達の話題は自ずとゲーム一色で、今までにないくらい、その会話が盛り上がっている。
「なぁお前達」
数週間前までロクにPCに触ったこともなかった彼らが、今ではその魅力に取り憑かれてしまっている。顧問としてこんなに嬉しいことはない。
「このワクワクを忘れないでな。それが上達に必要なんだ。明日からは今日貰ったヤツを使って、トレーニングを開始するからな」
ゲーム甲子園では、様々なゲームがその競技種目に選ばれるだろう。その中に、間違いなくFPSはある。流行からいっても、選定基準からいっても、『RS』のような大人数参加型のバトルロワイヤルゲームがその中心となる可能性は濃厚だ。なぜなら競技には、見ていて楽しくわかりやすく、プレイヤーの技量が反映されるものが適しているからだ。『RS』は、その全てを満たしている。
ならば、相手を素早く撃ち抜くエイム力は絶対に必要だ。マウスとPCの性質を理解し、反復練習して体で覚える。そうした地道な努力なくして、技術は身につかない。それはどんなスポーツでも同じはずだ。
しかし、トレーニングは過酷だ。好きじゃないと続けられない。
そんなとき、今日のこの感動が、ワクワクが、彼らを後押しする。好きこそ物の上手なれ、なのだ。
「お前達、できそうか?」
何の運命のいたずらか、白鷲高校ゲーム部には、ワケあり生徒が揃ってしまった。
進級単位が危ぶまれるイマドキ少女。生徒会に押し付けられてしまった優等生。怪我でテニスを辞めたイケメンと、声優を志す引っ込み思案なメガネ少女。
動機も理由も違う彼らが、今、勝利という同じ目標に向かって一つになろうとしている。
―ああ、これが、教育者の喜びってヤツなのか。
彼らの明るい返事が心地よかった。
帰路に就き、いつものコンビニでプレミアムビールを買う。喉越しが一日分の疲労を拭い去ってくれるようだ。
こうして初めての課外活動は終わった。それぞれの専用デバイスも入手できたし、明日からは最適化の設定だ。それが終われば、いよいよゲームの攻略となる。
おそらく大半の学校はスタートの時点でここまでの準備はしていないだろう。最高級のゲームPC、そして専用のゲーミングデバイス。それもプロ公認の、最新仕様。これだけで一歩以上先を行っているはずだ。ここまで来たら勝たせてやりたい。
だが、勝負の世界がそう甘くないのも事実だ。
勝負強さを身につけるのは簡単なことではない。自身のスペックを引き出すタフなメンタル、状況を有利な方に引き寄せる運、そして圧倒的不利を覆す閃き。トレーニングだけでは身につかない、勝負の才覚が必要になってくる。それは、雑念なく勝負に集中しているときにしか、引き出すことができないのだ。
様々な事情を抱えた生徒達が勝負強さを身につけるには、乗り越えなければならないものがある。
そのことを象徴する出来事が待ち受けていることを、このときの俺は知らなかったのだ。
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