② サバイバルゲーム


 廃校での闘いは数分で片付いた。人気スポットだけあって、かなりのチームが集まっていたわけで、転がっている死体も相当な数になっている。画面上に表示されている残存人数はちょうど二◯。単純計算で、一◯チームがこの島に残っているということになる。逆に言えば、この数分間でそれだけの人が沈んだということだ。試合展開はここにきて加速したのだ。

 俺達はそんな死体を漁り、装備品の質を高めていく。運良く四倍スコープを入手し、俺のDMRはそこそこ遠距離を狙撃可能になった。ユウキはフルカスタムの突撃銃と散弾銃を手にしており、近距離特化だ。

 そうこうしている間に、次の安全エリアが表示される。廃校はその中からはずれ、南にある山と湖が今回の舞台となりそうだ。マップ北側にいた連中は俺とユウキが(というかユウキが)倒してしまったから、次の場所では山を越えたあたりで、他のプレイヤー達と正面衝突しそうな感じだ。


「足で行こう」


 そういってユウキは駆け出す。バイクを使って存在を知らせるのがリスキーだと判断したのだろう。開けている場所ではユウキの近接武器は効果を発揮しにくい。可能な限り距離を詰めてから戦闘したい状況なだけに、爆音を響きわたらせながらの移動は自殺行為だ。

 山頂手前の集落付近で、ユウキは足を止めた。

 いかにも中に人がいそうである。ユウキがしゃがんだ状態でゆっくりとにじりより、俺は少し離れたところからついていく。民家のすぐ近くにむき出しの岩があり、ユウキはその陰に隠れた。画面を左右にふって、中の様子を確認しようとしていた。

 しかし先に仕掛けたのは敵だった。俺の画面からは微妙に死角になる窓から、突撃銃による狙撃があった。それはユウキの肩に着弾する。


「あっぶね」


 会場がどよめく。ユウキは素早く身をかわして岩陰に隠れる。どうやら俺達の接近は完全にバレていたようだ。続いてグレネードが飛んできて、付近で爆発する。ユウキの隠れている場所を狙うには無理な投擲だが、それでもなかなかいいコースだ。間違いなく、敵はうまい。


「スモーク!」


 俺はスモークグレネードを投げつけた。それは岩に命中し、少し浮いて空中で炸裂する。民家と岩の間のあたりに、白く濁った煙が出現する。


「サンキュー、太!」


 ユウキは手早く傷を手当てし、煙の脇から民家へ接近、壁に体を寄せた。煙が晴れたと同時に飛び出し、窓から覗いていた相手に銃弾を浴びせる。数発が相手のヘルメットに突き刺さり、そいつは倒れた。

 わぁ、と会場は沸いた。これには俺も舌を巻いた。なぜならユウキの画面には、射撃するまさにその直前まで、敵が一度も映っていなかったからだ。つまりユウキは、最初に射撃をもらった時点で、おおよそ敵がどこにいるのか解っていたということになる。発砲音の方角を察知し、マップ情報と照らし合わせ、敵の位置を割り出す。そして走り出しながらそこへ完璧に照準し、撃たれる前にやる。FPSの醍醐味が凝縮されたシーンだ。

 だが直後、ユウキは窮地に立たされる。今度は反対側の窓、つまりユウキの視界外である真後ろから、銃弾を浴びせられたのだ。

 会場から悲鳴があがった。銃弾の雨がユウキに降り注ぎ、HPが見る見る削られていく。ユウキも素早く身をかわすが、このままではもたない―。


 ―そのときだった。


 突如、射撃が止んだ。

 そして反撃のために振り向いたユウキの画面には、脳天から血を吹き出して倒れる相手の姿が映っていた。


「太ナイス!」


 何が起きたのか解っていなかった観衆も、ユウキの叫び声で事態を理解した。司会が、


「これは驚きました! 斉藤選手、ファインプレイ!」と会場を盛り上げると、今日一番の歓声が巻き起こった。

 やや離れた場所に控えていた俺には、ユウキを狙うそいつの姿が見えていた。俺は慎重にエイムし、そいつの脳天に銃弾を叩き込んだのだ。

 まさに間一髪。ユウキのHPはほとんど残っておらず、弾がかすっただけで死亡してしまうほどだった。


「さすがだな太。なまってないな」


「やめとけユウキ。そうやって煽てられると、ろくなことがない」


 このプレイが効いたのか、お荷物扱いだった俺への扱いがころっと変わり、会場は一体となって俺達を応援してくれた。

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