② サバイバルゲーム


 ゲームタイトルは『The Rusted Souls』、通称『RS』。サバイバル系FPSの火付け役的作品で、今なお盛り上がっている名作だ。

 ラストマン・スタンディング・ルールと言って、「相手を倒す」ことよりも「生き残る」ことに重きを置いているのが斬新で、敵を多く倒した奴よりも、生き残った奴が評価されるシステムだ。


 今回の参加形式はデュオマッチ。簡単に言うと、プロ選手と会場の一人(今回は俺)がチームを組んで、一般オンラインプレイヤーが集う戦場に降り立ち、最後の二人になってこい、というものだ。見事生き残ればスポンサーから素敵な商品をプレゼント! という、企業宣伝を兼ねたイベントだった。

 勝利すれば「パートナーが誰でも勝てるって、プロすごい」とプロゲーマーの所属プロダクションは宣伝できるし、パートナーが力を発揮すれば「どんな人でもパフォーマンスを引き出せる」としてデバイス企業はプロモーションするだろう。全く、いつの世もうまいことを考える人がいるもんだ。

 会場のアナウンスが入った。それと同時にゲームがスタートする。俺とユウキのキャラクターは航空輸送機の中に押し込まれていく。


「さて、どう攻めようか」


「んー。そうだなー。ここ、なんかはどうだ」


 俺はマップ北側にマーカーを出した。そこは航路からそこそこ離れており、パラシュート滑空でなんとか届きそうな場所だった。


「なるほど。オッケー、いいぜ、そこ行こう」


 直後、彼のキャラクターが降下を開始する。俺もそれに続いた。会場のアナウンスが、早くも飛行機を降りたことを興奮気味に解説している。


「得意武器は?」


「DMRかな」


 DMRとは、デザインド・マークスマン・ライフルの略で、狙撃手用にセッティングされた突撃銃のことを言う。狙撃銃よりは小型かつ軽量で機動性があり、十分な狙撃精度も備えるなど、汎用性の高い武器だ。一方で、連射力は控えめで、威力そのものは狙撃銃に劣り、取り回しの良さは純粋な突撃銃に及ばないなど、中途半端さが目立つ。

 だが俺はそんなDMRが性に合うのだった。


「オッケー、じゃあ近接武器は俺にまかせて」


 武器には得意な交戦距離があり、近い順に散弾銃、短機関銃、突撃銃、軽機関銃、DMR、狙撃銃となっている。DMRは敵との距離が遠いときに強いが、逆に散弾銃や短機関銃を持つ相手に接近されると弱い。


「助かるよ」


 俺達のキャラクターは、美しい大自然の中、落下傘を背負ったまま降下していく。あたりを見回せば、遠い海が傾いだ太陽光を反射して、今回の舞台である島全体を朱色に彩っている。他にも渓谷や雪原、都市部など様々な場所が戦いの部隊となるが、風景まで楽しめるこの作り込みが、『RS』の良いところだ。世界がリアルだと没頭感が違う。おかげで俺も集中ができる。

 ユウキの合図をきっかけに、パラシュートを展開する。早めの展開は、航路から遠い目的地に降り着くための飛距離稼ぎだ。ゆっくりと時間をかけ、目標地点に降下する。


 そこはマップの比較的隅の方であり、人は少なかった。一◯◯人五◯組が同時に戦闘を開始するゲームシステム上、戦闘は開始直後が一番熾烈になる。今回はそんな激戦区を避け、安全な場所でプレイ時間を稼ぎ、その間に勘を取り戻す。それが俺の狙いだ。

 俺達は民家に押し入り、物資を集めていく。不人気スポットだけあって、安全ではあるのだが、やはり物資が少ない。まともな装備になるまでにかなりの時間を使ってしまったが、DMR系武器が入手できたのは幸運だった。ユウキから譲ってもらい、代わりに俺が拾っていた突撃銃を渡していく。そんなことをしている間に、すぐにエリア縮小が始まってしまった。

 エリア縮小とは、減り続ける人数に合わせて、活動範囲も縮小させていくというシステムだ。活動範囲内を安全エリアと呼び、その外にいるとHPが徐々に削られ、ついには死亡してしまうので、プレイヤーはエリア内に移動することを強要される。これによって、プレイヤー同士のエンカウント率を上げると共に、ゲームに動きを出しているのだ。


 俺達は民家に停めてあった二人乗りバイクに乗り込み、街道を攻めていく。

 今回俺達が降りたエリアは次の安全エリアから相当に遠い場所にあり、かなりの距離を移動する必要があった。バイクはエンジン音の大きさゆえにその存在を広範囲に知らせてしまう弱点があるが、このまま歩き続けているとエリアから外れ、一度も戦闘せずに死亡するというみっともない姿を晒すことになってしまう。生徒の前でそれはできないし、ユウキにしても、プロとしてそれはできないだろう。リスクは承知でバイクを使うしかないのだ。

 島中心には廃校らしき建物がある。そこにバイクを乗り付け、すかさず建物の中に入る。周囲では度々銃声が響き渡っており、かなりの人数が付近にいることが窺いれた。


「おお、やってるねぇ」


「中、攻めようぜ」


「まじかよ」


「んじゃ、サポートよろしく」


 ユウキは困惑する俺をよそに、壁伝いにどんどん進んでいく。主要な扉を迷わず開け、待ち伏せしていた敵を素晴らしいエイムで撃ち落としていく。その完璧さに、会場が沸いた。そして俺は何もしていない。


「相変わらずすげぇな」


 ユウキの発砲音を皮切りに、周辺にいたチームが次々と動き出した。いたるところで発砲音が鳴り響いている。中には俺達が陣取るエリアまで辿り着く奴らもいたが、ユウキによって頭を射抜かれ、すぐにやられていった。

 俺はというと、そんなユウキを陽動として誰かを撃ち抜くつもりだったのだが、出番はやってこない。そればかりか無駄に被弾したりして、全く役に立っていなかった。


「センセー! 役に立ってないよ!」


 美月の煽りに会場が笑いに包まれる。この野郎、と思って睨みを利かせたが、既に美月の口は灯里によって塞がれていた。ナイス灯里。後でフラペチーノをごちそうしてやろう。

 それにしても美少女二人がくんずほぐれつしている様子は、最高だな。「かわいいは正義」と「綺麗なお姉さんは好きですか」の奇跡のコラボを間近で見られないことだけが悔やまれた。

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