① もちろんそれはJKと一緒に!
「ねぇ、センセ。あれに出てみてよ」
そんな美月が、俺の袖を引っ張ってどこぞを指差している。振り向けば、司会の人がステージに上がり、何やら説明している。巨大モニターには企業の名前がいくつか表示されており、コラボキャンペーン企画だのなんだのと言っている。この場に居合わせた人を何人かステージに上げ、試合に挑むという趣旨らしい。
「なんでだよ」
「あたしずっと思ってたんだけどさ。センセ、優勝目指すならこうだー、とか言っていろんな練習を指示してくるけどさー。そもそも、本当に強いの?」
「ぐ。それは……」
痛いところを突かれた。
「私も気になっていました。我が校のゲーム部顧問に就任するからには、さぞお強いのかと」
「あ、それ僕も賛成。試すってわけじゃないけど、やっぱり先生の実力を見てみたいですよね」
「お前らなぁ……」
「はいはいはーい! ここに参加者がいまーす!」
美月によって、俺は二番手の選手としてエントリーされてしまった。彼女は無意識だったろうが、会場の注目を一瞬で集めたのは、何もよく通る声のせいだけではないだろう。女子高生がここにいる、というだけでも珍しいが、今日の彼女は人の目を引くルックスなのだ。何人かは鼻の下を伸ばしていただろう。俺も鼻が高いぜ。なんでだよ。
しかし全く、なんてこった。ここ最近FPSの練習をしていないというのに。あれだけ言われれば、ここはなんとしても教師としての威厳を示すべく、好成績を残したいところ。しかし練習をサボった人に戦果をくれるほど、このジャンルは甘くはない。うーん、困った。
そんな自問自答をしながら、指のストレッチをしていると、あっという間に出番がやってきてしまった。俺は少し離れたところで手を振る生徒達に、恥ずかしいからやめろと言わんばかりに、控えめに手を振って、ステージへと上がる。
「あれ? もしかして、太か?」
ステージ上で、突然声をかけられた。どこか聞き慣れた声に顔を上げれば、やはり見慣れた顔があった。
「げ、ユウキ」
「おおおお、やっぱり太じゃないか! 久しぶりだなぁ。まだFPSやってたのか」
「お、おお、まぁな」
ステージ上でそう握手を求めてきたのは、大学時代の同級生のユウキだった。なるほど、本日ゲストに呼ばれていたプロプレイヤーというのは、こいつのことだったのか。
その親しげなやり取りに、司会担当が「二人はお知り合いなのですか?」と質問する。会場も二人の関係が気になってしょうがないといった感じだ。それにユウキが答える。
「ええ、彼は大学時代の友人なのです。こうして顔を合わせるのは久しぶりなので嬉しいですね。また一緒にプレイできるのも、嬉しいです」
すかさず司会は聞き返した。
「となると、彼もひょっとして……」
「ええ、かなりのゲーマーです。なんてったって―」
「おい、余計なことは言わんで良い」
俺は彼の腕を小突いた。ユウキは一瞬の間の後、その意味を理解したようだった。司会の人間は慣れているようで、二人のそんなやり取りの微妙な間から、すかさず話題を変えてきた。
ターゲットになったのは美月達だ。司会の「先程から応援してくれている人達は?」の質問で、観衆の視線が彼女らに向けられる。ここは生徒達を変な目から守るためにも、ちょっと固めの雰囲気を演出しておく。
「ええ。私は高校の教員なのですが、今日はゲーム部の顧問として、本場の雰囲気を感じてほしいと思い、連れてきました」
会場が少々どよめく。さっそくナンパでもしようと思っていた奴もいたのだろうが、教員が同伴とあれば、それもできまい。ふふふ、ザマーミロ。
続けて司会が「それでは、負けられないですね」とマイクを俺に向ける。
「潔く負けて、現実の厳しさを教えてやろうと思います」
会場が軽い笑いに包まれると、司会は手際よく仕切り、俺達をプレイヤー席へと座らせた。その間も、これは見逃せない展開だ、とか、負けられない先生をプロがどうフォローするのか注目だ、とか、色々なことを言って観衆の期待を煽っている。さすがは司会者、プロの仕事である。
「太、お前……」
少し離れたところに構えるユウキが、俺に何かを言いたそうにしている。
「別に俺が望んだわけじゃないよ。校長命令ってヤツでさ。社会人としては、トップの命令には逆らえないだろう?」
俺は気恥ずかしさを笑顔でごまかした。
「そうか。まぁなんにしてもこの試合、本当に負けられないな」
ユウキが腕を伸ばして親指を突き出してくる。お調子者のユウキの、昔から変わらない癖だった。
「お手柔らかに頼むよ」
俺もそう言って、親指を突き出した。
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