⑤ フィードバックの好ましいやり方



 全員がデッサンモードに入ったのは残り一分を切ろうかというところ。最後に入ったのが美月だ。


「ずあっ。やったー!」


 そう言ってふんぞり返り、またブラウスの胸元をパタパタさせている。女子高生の恥じらいの基準が俺にはもうわかりません。

 ちなみに一番最初に突入したのが悠珠だ。二番手は灯里、そして琢磨。

 キャラごとに多少の差はあり、その中でも悠珠が選んだキャラは少し長めだったのだが、さすが優等生の速読力だ。美月と違って涼しい顔で、というか進行するにつれ目の光彩が失われていく感じがちょっとアレだ。他の部員にはわからなかっただろうが、途中、ふふっと不敵な笑みを浮かべていたように見えた。今ではいつもの柔らかな優しい笑顔だが、あれは俺の気のせいだったのだろうか。


「よし、じゃあ質問していくぞ。神崎、その子の部活はなんだ?」


「家庭科部です」


「正解だ。じゃあスキなものはなんだ?」


「しろくまのもーさんです」


「それも正解だ。さすがだな神崎」


 ありがとうございます、と言って会釈する神崎はやはりおしとやかだ。育ちの良さがよく表れている。目の前の美月にも少し見習ってもらいたいものだ。


「井出、その子は何の部活のマネージャーだ?」


 続いて琢磨に質問をする。


「サッカー部ですね」


「じゃあ、スキなものはなんだ?」


「ええ、っと……あれ、そんなものありましたっけ」


「残念、井出、お持ち帰りだ。ちなみにその子のスキなものはユニフォームだ。その子の依存性の高さがわかる、重要なポイントだぞ。次からは気をつけてプレイしろ」


「はい、って、え? 家では続きを進めるんですか?」


「そうだ。男にとっては悪くないと思うが?」


 琢磨は爽やかながらその笑顔に汗マークが描かれているような、そんな苦笑いだ。

 俺は何か間違ったことを言っただろうか?


「はい、次からは気をつけます……」


 しょうがないだろう井出。これは部活なんだ。仕方のないことなんだ。先生も胸が苦しい。


「よし櫻井、その子の部活は?」


 質問された美月はぱぁっと明るくなる。


「あ、それわかる! 空手部!」


「そうだ。んじゃその子のスキなものは?」


「え、うーんと、あんまん?」


 そんな設定はどこにもない。


「……不正解だ。お持ち帰りな」


「えー! 答え教えてよ!」


「答えは自分で探すものだって誰かが言ってたぞ」


 美月はものの見事にふくれている。ぷーっと効果音が聞こえてきそうだ。

 余談だが、このキャラはロリルックスでありながらインナーマッスルを鍛えていて、適度に引き締まったお腹周りの描写が大変素晴らしいのだ。特におへそがいい。それだけでご飯三杯はイケるとネットで話題だ。あくまでネットの意見だ。


「じゃあ岩切、その子の部活はなんだ」


「部活、えっと、生徒会長だから、……生徒会?」


「おお、ひっかけ問題にも対応するとはさすがだな」


「あ、ありがとうございますっ……」


 あまり慣れていないのか、灯里は褒められるとすぐに俯いてしまう。それによって気道が細くなって、その声のエロさにより磨きがかかってしまうということに気がついていないらしい。いいぞ、もっとやれ。


「もう一問だ、その子のスキなものはなんだ」


「べ、ベルト、です……」


「そのとおりだ岩切! 素晴らしい!」


「は、はいぃいいっ…!」


 このキャラは「スキよ、先生のベルトも」という名フレーズを生んだことで有名になった。それが意味するところは攻略していけばわかる。


「ではさっそくデッサンモードに取り掛かる。『デッサン開始♡』ボタンをクリックしてくれ」


 ぽろろろーん、という効果音と共に美麗な立ち絵が表示される。


「うわぁー! かぁいい!」


 みんな思わず感嘆の声を上げた。その中でも声が大きかったのは美月で、続いて「妹にしたい」とつぶやいている。彼女の画面には上目遣いで生意気にはにかんでいる制服姿の女の子が映っている。たいていのロリコンはここでノックアウトだ。


「さて今回は速度は求めない。とにかく可能な限り正確に、その輪郭をなぞるんだ。右クリックで直前の線は消せるし、マウスのホイールで拡大もできる。操作はマウスだけだ。とにかく彼女達をきれいに描いて差し上げろ。んじゃはじめ!」

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