竜白石
「綺麗……」
眼前に広がる光景に、リアンノンは思わず声を漏らしていた。鉱石竜であるパーシヴァルがいるのに自分はなんて不謹慎なことを口にしているのだろうか。そんな思いも吹き飛ばしてしまうほどに、鉱石竜の遺骸は美しかったのだ。
「これが、パパたちが掘って君たちの聖都で加工されている鉱石。竜白石。竜の真珠と称えられる僕らの遺骸だよ」
谷間に降り立ちながらパーシヴァルは静かに口を開く。彼は、谷間の奥に横たわるひときわ大きな竜の遺骸の側へと降り立った。
「僕のお母さん……」
小山ほどの大きさもある乳白色の竜の遺骸を、彼は玻璃の眼で見上げてみせる。その眼がとても悲しげなのは気のせいだろうか。そっと彼の背中から降りて、リアンノンは彼と一緒に遺骸を見上げる。
自分たち人間のエゴのために殺されたパーシヴァルの母。なんだか申し訳なくなって、リアンノンは竜の遺骸に頭を下げていた。
「もう、この谷で生まれた竜は僕だけになっちゃった。小さかった僕しか助けられなかったって、パパはずっとずっと悔しそうだった。そのパパも、僕を助けるためにここにいられなくなった」
パーシヴァルの玻璃の眼がリアンノンに向けられる。彼は悲しげに眼を細め、言葉を続けた。
「僕は、この鉱山の洞窟の奥に匿われていた。それを鉱山の主が嗅ぎつけたんだ。襲ってきたやつらを僕は必死になってやっつけようとしたよ。でも、そのせいでパパは怪我をして、僕の前からいなくなった……。僕はもう、独りなんだ……」
美しい玻璃の眼から涙が溢れる。その涙は銀色に輝くしずくとなって乳白色に輝く大地に落ちた。
パーシヴァルの一族は、鉱夫の一族に守られながら代々この谷間で生きてきた。その見返りに鉱夫たちは鉱石竜たちの遺骸を加工した装飾品を作り、他の民族と交易を持つことで生きてきたのだ。
それは連綿と受け継がれてきたこの谷の暮らしだった。
それが、征服者たちによって壊されたのはいつだったのだろうか。彼らの守り神であった竜は狩られ、彼らは自分たちの言葉すら喋ることを禁じられた。
彼ら鉱山の民は、誰の記憶にも残らずに人知れず死んでいく存在になった。
そんな風にしたのは、他ならぬリアンノンたちなのだ。
「ごめんなさい……。本当に、ごめんなさい……」
リアンノンの眼から涙が零れ落ちる。そんなリアンノンを慰めるように、パーシヴァルは彼女に鼻先を近づけた。リアンノンの体に頭をこすりつけ、パーシヴァルは優しく鳴く。
「泣かないで。君のせいじゃない。僕は君を悲しませたくてここに連れてきたんじゃないんだ。頼みごとがあって、ここに連れてきた」
「お父さんの回顧録を書き直すんでしょ?」
「そうだよ。でも、それだけじゃないんだ……」
顔をあげ、パーシヴァルは正面へと顔を向ける。彼の視線の先には、小さな洞窟があった。
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