スケッチ161008 松明まつり

松明たいまつまつりなるものが開催されると聞き、私と兄と母は浅間温泉あさまおんせんを探索することにした。

人の流れに乗り、坂を登っていく。こういう場合とりあえず人の流れに乗っておけば大抵のことはどうにかなる。

少し歩くと、屋台が見えてきた。ホットドッグ、わたあめ、りんごあめ……知らず知らず、高揚する。

このような一般的な屋台通りというものに、私はかなり久しぶりに遭遇したのだ。

神社で巫女さんから御神酒おみきを頂戴し(兄とともに『口噛み酒じゃないか』などと戯言を抜かし)、ぐでたまのお面を装着し、クレープやケバブを頬張り、有頂天になっていた私達の横を、松明を持った男性達が通り過ぎていった。

一体何事か、とキョトンとしたが、よく考えればこの祭りは『松明まつり』であり、屋台通りでのんびりするだけの祭りではないことは明らかだった。それに、松明が主賓であることは間違いなく、私達はその男性達を追いかけることにした。


途中、その男性達を見失ってしまったものの、私達は、何やら人々がざわざわとしている場所に辿り着いた。

ホットプラザ浅間の手前の道ーー郵便局に面する道ーーに、人が何かを囲うようにして集まっていた。カメラやスマホを掲げている人が多い。

背伸びして人々の中心部を見ると、そこには太鼓を前にし鉢巻を巻いた子供たちが十人ほどいた。

その面持ちはまるで子供のそれには見えずーー恐らくは小学生なのだろう、しかし目元は引き締まり、何か覚悟を背負っているかのようにも見えた。

唐突に太鼓が打ち鳴らされた。

太鼓のサイズは大小様々であった。それらの太鼓が打ち鳴らされ、曲のようなものを形作っている。

私は太鼓の専門家でもなんでもなく、その演奏技術の巧拙は推し量ることすらできなかったが、私の心は震えていた。

物理的に、コンクリート舗装された地面から振動が伝わり私の心臓が震えていたのかもしれない。

しかし物理的であるにせよ精神的であるにせよ、間違いなく、私の心は震えていた。その場にいた皆がそうだったのだろう、曲が終わると大きな拍手が湧き上がった。


しばらくすると、小さな松明を持った男性がどこからともなく現れた。先ほど見失ってしまった男性陣の内の一人だろう。

その男性は郵便局のスロープに付いている手すりによじ登り、そばに立ててあった巨大な松明に火をつけた。

天に届きそうなほどの火柱を上げ松明が燃え盛った。

付近一帯に、とぐろを巻いた大蛇のように煙が立ち込める。

ふと通りの向こうを見やると、同じように生き生きと燃える巨大松明が一つ、二つ、十数人に引きずられながらこちらに近づいてきていた。

巨大松明を引きずる人は一様に顔を黒く塗っていた。薄化粧のような人もいれば顔全面が黒い人もいた。老若男女、等しく黒い。それは巨大松明から火山灰めいて噴出する炭による化粧らしかった。

今まで神輿を担ぐような祭りしか見てこなかった私にとって、この祭りのあまりの泥臭さは一種神秘的なものを感じさせた。

巨大松明上部からはしきりに火の粉が飛び、綱を持って松明を引きずる人々に降りかかる。

巨大松明の後方から、水の入ったバケツを持った人が付いてきており、時折柄杓をバケツに突っ込み、巨大松明へと水を振りかける。巨大松明は少しの水では消えず、炭を散らしながら引きずられてゆく。

いつも私が何の気もなしに通っていた浅間温泉の道を、巨大松明が行進する。

それはまるで、真っ赤な炎と真っ白な煙と真っ黒な炭を吐き散らす怪物の行列のようにも見えた。地面から響く太鼓は怪物たちの行進曲のようだった。そしてそれらの光景は、やはり神々しさを伴っていた。

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