第21話「閃治郎、仇討チヲ決意ス」
本拠地に戻った
先程、将門は自室へ連れて行かれ、今はリシアの魔法による治療が続いている。食堂を兼ねた広間には今、閃治郎とビリーがまんじりともせず向かい合っていた。
結論からいうと、
だが、首謀者である
「ヘイ、サムライボーイ。そのヨシツネとかってのは」
「僕たちの祖国、
「ヒューッ、たいした大物じゃねえか。……なんでそんな英雄様が、モンスターなんかを操ってる? マサカドの大将みたいに、国盗りとやらがしたいのか?」
義経の真意はわからない。
だが、彼は言ったのだ……
「義経殿は源平合戦において、数々の武功をあげ……最後は、兄である
「よくある話さ、ボーイ。なんつったかな……ほら、東洋に猟犬がどうこうって諺があるだろう」
「
先日、その話を酒場でしたばかりである。
義経の忠臣、
ただ、はっきりしていることがある。
再び義経と戦うならば……弁慶とは敵味方になるということだ。
「弁慶殿が上手く
「サムライってのは、あれだろ? 王様のためなら腹も切るような人間だ。忠義っていうのか? ……ちょいと難しいんじゃないか」
「忠臣なればこそ、時には命をとして主君を正さねばならない。だが……」
それっきり、二人の間で会話が尽きてしまった。
明るい材料など何一つなく、今回の事件はヴァルハランドに招かれたエインヘリアルたちには衝撃だった。今も、
今、
謎の力を使う義経は、戦いを、ただ戦を求めている。
それは手段ではなく、目的そのものなのだと彼は明言したのだ。
そんな時、不意に明るい声が響き渡った。
「はいっ、セン! ビリーも! お茶だよっ。あと、軽くごはんも作ってみた。腹が減っては戦はできぬ、だぞっ!」
テーブルの上に、サンドイッチや果物が並ぶ。
笑顔の真琴はこんな時でも、普段以上に
ビリーも肩を
「いただくぜ、サムライガール。こんなとこでうだうだしてても、なにも解決しないからな。そうだろ? サムライボーイ」
「ああ。腹ごしらえをしつつ、リシア殿の魔法を信じよう。今はただ、祈るのみ……僕がついていながら、情けない」
「いやあ、マサカドの大将は
「
将門は平家の武士ながら、義経が戦っていた平家とは別なのだ。
温かな茶を飲めば、自然と
ただ待つだけの時間も、仲間の存在がありがたい。
「そういや、ボーイ。あのとっぽい兄ちゃんはどうした? ほら、もう一人いただろ?」
「
「なるほど。……あとな、オイラは気になってるんだが」
そう言って一度言葉を切り、ビリーはカップの茶を飲み干す。
そうして真琴からおかわりを受け取りつつ、彼は重々しく口を開いた。
「その、マサカドの大将は……ソウルアーツを盗まれちまったのか?」
「ああ、確かに見た。義経殿は、将門殿のソウルアーツを……『
「それで、壁を穴をあけて、砦の外壁を真っ逆さまに駆けて逃げたってな。ちょいと信じられねえぜ。だって、垂直の壁をだぜ?」
「……
「なんだそりゃ? ジャパニーズ・トンチか?」
「義経殿はかつて、
「鹿も馬も一緒って……文字通り馬鹿だぜ、クレイジーだ」
「だが、事実だ。実際には、そこまで切り立った崖ではなかったそうだがな」
それよりも、恐るべきは義経の謎の力である。
どういうカラクリかは知らないが、将門は自分のソウルアーツを奪われてしまったのだ。彼の愛馬という形で
それについても、衝撃的だった。
改めて
そんな時、ドアが開かれ足利が戻ってきた。
「やあやあ、お待たせ。勇者庁で少し、話が長くなってしまってね。あ、お茶してるの? 私も欲しいなあ。いやもう、お腹ペコペコでねえ」
相変わらず足利は、マイペースでニコニコとしている。
真琴が茶を出すと、彼はテーブルに座って一同を見渡した。
「さて、どこから話そうか。まず……クレリックの座の者たちから、事後報告があったみたいだよ。勇者庁は今日になって、一人の少女の死を知った訳だ」
その少女の名は、
そんなジャンヌが、もう半月も前に殺されていたという。
閃治郎は言葉で問わなくても、義経の仕業だと悟った。
「ジャンヌは数少ない、ソウルアーツを
「なっ……まさか、では!」
「そうそう、センちゃん正解、大正解。義経はどうやら、ジャンヌのソウルアーツを奪った上で殺害、その力を使ってモンスターの軍団を作り出したと見ていいだろうねえ」
それが恐らく、義経のソウルアーツなのだ。
他者の力を奪う能力……つまり、強い者と戦うほど有利になる。加えて、常軌を逸した俊敏性と脚力、圧倒的な身のこなし。世にいう
そうした力は全て、ただ戦うためだけに振るわれるのだろう。
求めるものもなく、欲するところもない……ただただ、戦い続けるために戦うのだ。
「クレリックたちはずっと、ジャンヌの死を隠していた。そりゃね、
「なるほど……えっ!? 足利殿もソウルアーツを?」
「あ、言ってなかった? 凄いの出しちゃうよん?」
初耳だが、
そして、ソウルアーツは生前の戦いや生き方、その英雄を象徴するような形で発動する。ひょっとしたら、足利の失われた記憶、本当の名前はそこに隠されているかも知れない。
だが、義経と戦えばまたソウルアーツを奪われてしまうかもしれない。
そう率直に閃治郎が言うと、気にした様子もなく足利はへらりと笑った。
「いやあ、逆にさ。私を
「なんと! き、危険です」
「いや、そこはセンちゃん、なんとかしてよ」
「なんとか、と言われましても」
「……君が義経を斬るんだよ。あ、これ、将軍の命令ね?
時代は違えど、閃治郎たち新選組が幕臣であることに違いはない。そのつもりで治安維持のために戦ったし、仲間の
閃治郎は立ち上がると、足利に向き直った。
「
「任せたよん? あと、ビリーちゃんだっけ? ガンナーのヘイヘちゃんとも話はつけてるんだ。よかったら協力してほしいなあ」
ビリーが二つ返事で
リシアの悲鳴と共に、階段をドスドスと降りてくる気配があった。
「ワシもゆくぞ、足利! ええいくそっ! このワシともあろう者が!」
包帯まみれの将門が、裸で降りてきた。
「マサカド様っ! 傷が開いてしまいますぅ」
「離せ、離さんかリシア! この
やはり、将門の力は奪われてしまったのだろう。
これで義経は、ジャンヌのものと二種類のソウルアーツを持つことになった。恐らく、他者の力を奪って自分のものとするのが、彼のソウルアーツなのだろう。
なんとも
だが、義経の戦いは常に常識にとらわれない、合理に満ちた無慈悲なものだったのを閃治郎は思い出す。
「とりあえず、将門殿」
「おう、センか! ワシの刀を持てぃ! 今すぐ奴めの首を、っと、お? か、身体が」
その場に将門は崩れ落ちそうになる。
慌てて駆け寄る閃治郎は、中性的な美貌を抱きとめた。
「仇は討ちます、将門殿」
「ワシはまだ、死んどらん。じゃが……情けなや、身体が言うことをきかぬ」
「まずは怪我を治してください。義経殿を討てば、力も戻るやもしれません。必ず、僕が義経殿を倒します。皆と一緒に、必ず」
胸の中に将門の
今ここに、謎のエインヘリアル義経を討ち取るべく、サムライたちが一丸となって奮起することになったのだった。
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