第20話「閃治郎、恩讐ノ戦鬼ト遭遇ス」
朽ち果てた武器庫のような一室で、
そう、男だ……酷く
「えっと、君が首謀者かな? モンスターを操るのって、どうやるもんだか」
「の、ようじゃなあ? じゃが、ワシ等を前に逃げられると思うでないぞ?」
そう、東西の双璧とさえ思える、二大英雄が目の前にいるのだ。
遠く西洋、欧州に覇をなした王……カール大帝ことシャルルマーニュ。そして、
だが、敵は見た目通りの酷く幼気な声を
「ええ、逃げるつもりはありません。予想外の大物が釣れて、困ってはいますけどね」
酷く落ち着いた口調だ。
謎の自信に満ちて、それを疑いもしない声音である。
気付けば閃治郎は、いつでも飛び出せる体勢で
無防備に立つ小男は、
そこには、嫌に目の細い笑顔が浮かんでいた。
「私の名は、
――源義経。
その名を知らぬ侍は、いない。このヴァルハランドに招かれたサムライの、誰よりも知られた名である。
どこか雰囲気は、閃治郎の知っている
だが、貼り付けたような笑顔は無機質で、その奥が全く読み取れない。
義経は腰の
「失敗、ですね。やはり、魔物や
残念と口にしながら、全く感情が感じられない。
その様子にムッとしたのは、剣の切っ先を向ける将門だった。
「その気色悪い笑みをやめぬか、うつけが!」
「うつけ、ですか? 私が?」
「そうじゃ!
「……えっと、あなたはどうやら同じ日ノ本の人間とみましたが。どちら様でしょうか」
まるで手応えがない対応だ。
将門ははっきりと
逆に、拍子抜けといった雰囲気でシャルルマーニュは剣を肩に遊ばせる。
彼はちらりと閃治郎を振り向くと、
「なんか彼、有名なサムライ? ちょっと閃治郎や将門とは雰囲気違うよね」
「え、ええ……彼の名は、源義経。
「なるほど……源平? それって、平……平将門とは」
「あ、そっちの
ちらりと見れば、将門は剣を向けたまま義経に詰め寄る。
すらりと長身の
だが、妙な
平家物語に
「答えよ、義経とやら! なにが目的じゃ!」
「目的……ああ、そういうのは必要ですよね。なるほど、確かに」
「ふざけるでない、
光が走った。
振り上げた剣を、将門は
衝撃波が床を走り、砦自体がビリビリと震える。
恐るべき
「消えた? 気配が……」
「閃治郎、後だ!」
シャルルマーニュの声に、慌てて振り返る。
すると、先程上ってきた階段の前に、義経の笑顔があった。
距離はそれほどでもないが、立っていた閃治郎たちをすり抜けたかのようだ。どこをどう移動したのか、彼はまるで点から点へと瞬間的に動いたように見えた。
なにより、将門自身が驚きに目を見開く。
「
不可解だ。
まず、義経の力量がわからない。音に聞こえた英雄なればこそ、かなりの力を備えていることは想像だに
ただ、はっきりしていることが二つだけある。
一つは、将門の一撃を難なく避けてみせるだけの戦闘力があるということ。
そしてもう一つは……目的は不明だが、モンスターを率いて民を
その義経は、やれやれと肩を
わざとらしさが、まるで
「目的ってのがあったほうが、いいですか? なら、そうですね……まず、それを探すことを目的としましょう。探して見つからなければ、作るということで」
「ふざけるでないっ! これだけのことをしておいて……国や民をなんと
「あ、それは傷つくなあ……美しいお姉さん。色々考えることが多くて、目的を失念してたんですよね。なにしろ、一度死んだ
ヒュン! と再び将門の剣が歌った。
放たれた
笑顔のまま、切り裂かれた
「痛いなあ、酷いじゃないですか。でも、嬉しいですよ……皆さん、お強いですから。これは戦のし
「大義も持たぬ男が、なにが戦か! 戦とは
ゾクリ。
不意に、
そしてそれは、
「なんだ……? 手が、震えてる? これは」
「おやおや、閃治郎。見なよ、奴を。嫌な顔をするなあ。本当に嫌な表情だ」
そう、シャルルマーニュが言うように……義経の顔が激変していた。
先ほどと同じ、笑顔だ。
だが、その細められた目が燃えている。
変わらぬ笑顔の奥で、なにかが義経の激情に火を付けたようだった。
彼は、先ほどと同じ平坦な声を
「……平将門? 平家……たいらのおおおおおおっ!」
「な、なんじゃ!?」
「平家、平家、平家っ! あなた、平家の女なんですか!」
「ワシは男じゃ!」
「構いませんよ! 平家は人間じゃありませんから! 男なら殺す! 女なら犯して殺して、また犯す! 同じことです……
義経の全身から、暴虐的な戦意が
目に見えぬ闘気が、まるで流れて
すかさず閃治郎は、将門の前に出て彼を背に
「将門殿っ! あきらかに異様、異質……警戒を。そうか……将門殿を、自分の時代の平家一門と思っているのか」
「平家は滅ぼさなければいけません……ああ、なんだ。目的、あるじゃないですか! 私の目的、それは! 戦! 戦ですよ! 平家を滅ぼすんです!」
「クッ、話が通じない? ――
即座に閃治郎は剣を抜いた。
抜いた、つもりだった。
しかし、
斬れなかったのだ。
「なっ……!」
「邪魔です、どいてください? ああ、いえ……そのままで結構。踏み台には
義経の突き出した足が、剣の柄を鞘へと押し込んでいた。
瞬速を誇る閃治郎の
そして、次の瞬間には目の前の義経が消えた。
背中になにかがポンと乗った、その感触と共に部屋に声が満ちる。
「
周囲に無数の義経が浮いていた。絶えず高速移動を繰り返す彼が、天井や壁を蹴って
十はくだらぬ数の義経は、あっという間に将門に殺到した。
「
「死んでください、美しい人……平家に生まれた不幸を呪いながら、死んでくださいね!」
文字通りの瞬殺だった。
あっという間に将門は、無残に斬り刻まれた。おおよそ剣術とは言えぬ、乱れ咲く無数の刃に血の花びらが舞う。大勢の義経が一人に戻った時……血の海に将門は倒れていた。
そして、目を疑う光景がさらなる驚きを連れてくる。
「……いただきましたよ、あなたの力」
不意に義経の周囲で、見えない力が凝縮されてゆく。
それは、先程将門が見せたソウルアーツ『日ノ本一の
そのまま義経は、軍馬にまたがり部屋を駆ける。
あっという間に壁をブチ破り、その姿は外へと消えていったのだった。
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