第19話「閃治郎、死セル亡者ノ怨念ヲ調伏ス」
モンスターの砦からは、
門は破壊され、今は内部で戦闘が散発しているようである。
そして、同じエインヘリアルと思しき一団が閃治郎たちを出迎えてくれる。ローブ姿で
彼等は、あとから来た
その顔には、
「
「あ、ああ……若いの、お前さんは」
「僕は、サムライの
「おお、最近できた新しい座の方か。私はエルヴィン・ロンメル、魔法が使える訳ではないがウィザードだよ」
それでもロンメルは、顔を手で拭うと
「砂漠の
「恐らく、僕の仲間です。彼女は……あ、いや、彼は」
「
なんと、将門は砦を騎乗したまま駆け上がったらしい。なんともはや、恐るべきは
そして、周囲の散らかりようを見聞していたビリーも肩を
「このへんに散乱した骨は、こりゃスケルトンか? こっちのビチャビチャなのは……グールか。派手にやったな、大将は」
「サムライの次はカウボーイか。それも若い」
「それで? ロンメルさんよう、首尾は上々に見えるが」
「うむ、やはりモンスターには明確な指揮系統がある。つまり、指揮官がいるのだ」
やはりかと、閃治郎は周囲を見やる。
弓を構えたアーチャーや、罠の
恐らく、ナイトやウォーリアーを中心に、本隊は上へ上へと攻め上っているのだ。
急いで追いかけようと、閃治郎はロンメルに一礼して走り出す。
その背後に続くビリーは、奇妙なことを言い出した。
「よぉ、ボーイ……ちょっと面倒なことになりそうだぜ?」
「む? なにかあるのか、ビリー殿」
「さっき、
「アンデット、とは」
階段を登りながら、ビリーは説明してくれた。
――
死体は死なない、
高レベルのクレリックがいれば、多少は有利に戦えるが……アンデットは痛覚もなく多少のダメージでは
「あとな、やっかいなのは……アンデットは制御する術によって、
「なるほど。転がってる死体が突然、背後から襲ってくるのは恐ろしいな」
「だろ? オマケに、やたらとタフときてやがる。……ま、ボーイの大将には無関係みたいだったな。圧倒的な力で
恐るべきは、ソウルアーツである。
ソウルアーツとは、生前の全てが問われる、エインヘリアルの究極奥義である。各職業を
ただ、
「あの大将、生前はどんなサムライだったんだ? 普通じゃねえぞ、ありゃあ」
「
「ま、ただの
ビリーの言葉に、閃治郎は大きく
少なくとも、この異世界ヴァルハランドにおいて、将門は信頼すべき仲間だ。
そんなことを考えていると、鎧姿にマントの背中が見えてくる。
振り向く騎士たちの中に、
「むっ! 閃治郎か……そっちは銃とかいう武器を使う新顔だな」
ビリーが一瞬気配を
閃治郎は剣士だが、鉄砲の恐ろしさは嫌というほど知っている。
同時に、本当の使い手でなければ、その強さを生かせないことも生前学んでいた。
ビリーは
「桜蘭殿……この先にまだ敵が?」
「ああ、それだが、その」
「……まさか、将門殿が」
「その、まさかだ」
まだ階段の上からは、激しい戦いの音が響いてくる。
その大半は、モンスターの絶叫だ。それも、痛みに泣き叫ぶような悲鳴である。上のフロアで今、嵐が吹き荒れている……それも、二つの巨大な英雄という名の大嵐だ。
桜蘭はやれやれと剣を
「実は、シャルルマーニュ殿下が……そちらの将門殿と意気投合してしまってな。お互いソウルアーツを会得した、類まれなる強きエインヘリアル同士。故に」
「たった二人で突撃してしまったのか」
「そうだ。こうなるともう、私たちの出番はない……クッ、護衛どころかお
どうやらこの場の騎士たちは、待つように言われたらしい。
いかにもあのシャルルマーニュらしいなと、出会って間もないのに閃治郎は納得してしまった。後のフランク王、カール大帝になる少年……シャルルマーニュは基本的に、気さくで
だが、生まれついての騎士にして王、その内面には激しい闘争心が渦巻いている。
将門という英傑の覇気は、そんな彼の激情を駆り立てる種火となるのだ。
ならば、既に勝負は時間の問題かもしれない。
互いに競うようにして将門とシャルルマーニュが剣を振るえば、モンスターの数がいかに多かろうが問題にならない。むしろ、警戒すべきは自分たちの方だと閃治郎は身構える。
「桜蘭殿、
「ほう? 聞いたか、
勝負あったとばかりに、周囲の騎士たちは緊張の糸を途切れさせている。だが、桜蘭の言葉に一同は再び剣を構えた。
だが、遅かった。
不意に室内を、息苦しいまでの
同時に、そこかしこで髑髏の剣士が立ち上がった。
「クッ、待ち伏せか! このままでは殿下の退路が断たれる! 騎士団、やるぞっ!」
広いフロアはあちこちに、桜蘭たちが倒したオークやゴブリンの死体があった。それを押しのけるようにして、床からアンデットが生えてくる。
どうやら、このフロア自体がアンデットを伏せておいた罠らしい。
閃治郎もビリーと共に臨戦態勢を整える。
おぞましい死者の叫びは、絶望の嘆きのように響き渡る。
「チィ、グールもいやがる! ヘイ、ボーイ! 悪いが銃はこの手のモンスターとは相性が悪い。やるなら
「心得た! 牽制に徹して身を守ってくれ。僕が相手をしよう」
「頼むぜ。オイラにブシドーとやらを見せてくれよ」
「
両手を振り上げ、グールが襲ってくる。その動きは鈍く
だが、油断なく閃治郎は抜刀と共に踏み込んだ。
グズグズに腐った肉を、鋭利な
死体を斬る奇妙な手応えは、普段よりも重く湿った感覚を伝えてきた。
ふと振り向けば、桜蘭が仲間を
「騎士たちよ、
「桜蘭様、敵が上への階段を」
「なんと! シャルルマーニュ殿下の背後を
すかさず閃治郎は床を蹴った。
一人で突出すれば、すぐに無数のスケルトンが襲い来る。
だが、背後からの発砲音が敵の出鼻を挫いた。ダメージにならないにしろ、機先を制する銃弾が閃治郎に教えてくれる。敵の位置、数、そして距離。
剣の
「上へは行かせないっ!」
瞬時に抜刀、切っ先が風を生む。
光の弧を
骨は割れる音もなく裂かれ、腐った肉も鋭利な断面を
閃治郎はそのまま、階段を駆け上がりながら居合を放ち続けた。
背後にはビリーに加えて、桜蘭と騎士たちがいるので
そうして、次々と
「将門殿! シャルルマーニュ殿も! ご無事ですか!」
声を張り上げれば、
そして、彼等の前にはボロボロの布を頭から被った、謎の人影が待ち受けているのだった。
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