第18話「閃治郎、石化ノ魔力ト戦ウ」
明けて次の日、
一歩王都を出ると、そこはモンスターが
多くの場合、モンスターが群れることはない。
ゴブリンやオークのようなモンスターであれば、同族同士で小さな戦闘集団を形成することがある……だが、異なる種族同士の連携など、常識では考えられないのだ。
「――ッフ!」
閃治郎の
コボルトとかいう、
閃治郎は剣をクルクルと回して、
敵の数は多い。
それもその
やはり、誰かが手引きをしているような気がした。
「
不意に、頭上を巨大な影が覆った。
だからこそ、閃治郎たちサムライの出番なのである。
先程まで閃治郎が立っていた場所に、巨大な
「むう、
長い舌を出して吼える蜥蜴の魔物に、改めて閃治郎も身構えた。
だが、
「な、なんだ……? 身体、が」
ぎょろりと
その
まるで、自分が周囲と同化して岩になったようだ。
魔物は近付いてくる、しかし閃治郎は身動き一つできない。鞘を握って
なにかしらの精神攻撃を疑った、その時だった。
「ヘイ、サムライボーイ! 奴を……バジリクスを直視すんな!」
銃声が響いて、バジリクスと呼ばれた魔物が一歩下がった。
その瞬間に、再度発砲音……おぞましい絶叫と共にバジリクスは身を
同時に、閃治郎を
気付けば
「ビリー・ザ・キッド殿か! かたじけない」
「奴の視線は魔力が宿ってんのさ。睨まれると石化しちまう」
「なんと!」
「まあ、オイラもこっちに来てから色々あってな。痛い目みてんだよ、バジリクスには」
危険な魔物らしく、ビリーは銃口を敵へと突きつけたままだ。
以前は敵対し、街中で不要な緊張感を作ってしまったが……
「それよかボーイ、いいのか? 砦自体へもう騎士様たちが進んでるぜ?」
「シャルルマーニュ殿か」
「あと、あのいけすかねえ女騎士……なんつったか? ローラン?」
「
シャルルマーニュを中心とする、ナイトの座に集いし騎士たち……彼等は人数も多く、それ自体が巨大な騎士団を形成している。ならば、真正面からの戦いでも互いに連携して戦果をあげられるだろう。
だが、閃治郎たちは四人しかいないのだ。
加えて、
彼女は実質的には非戦闘員だし、
「で、弱小のガンナーやサムライは、狭いこっち側から砦を目指す、と」
「互いが陽動になれば、それでよし。手柄よりまず、モンスターと砦の排除が優先だ」
「やれやれ、欲のないボーイだぜ。ま、手伝うから片付けちまおうぜ」
「
昨日の敵は今日の友、背後からの援護射撃はこの上なくありがたい。
片目を失ったことで、バジリクスは怒りに燃えている。
目と目で互いに頷き合うと、閃治郎とビリーは逆方向へと走り出した。
バジリクスの長い
どうやら敵は、まずは閃治郎を始末するつもりらしい。
「おっと、後ろは振り向かなくていいぜ! オラッ、そこだ!」
閃治郎の
高速で動く敵へと、あまりにも精密な射撃が浴びせられていた。
言葉通りに、閃治郎はただ一撃を練り上げることに専心する。そのまま肉薄の距離に間合いを詰めるや、珍しく剣の柄を
「
踏み込む一歩が、足元を
同時に、閃治郎は抜き放つ剣の柄をバジリクスの脇腹へ向ける。インパクト……この技は、当て身だ。硬い防御力を持つ相手には、斬撃よりも打撃が有用な時がある。刀身を半分ほど見せたまま、愛刀は
仕上げに、鞘をさらに突き出す。
攻撃した場所と逆側に、その余波が波動となって広がった。
身の毛もよだつ
「よし、取った! ビリー殿、改めて礼を言う。ありがとう」
「おいおい、気持ち悪ぃな……ま、感謝してんならこんどカワイコチャンでも紹介してくれ」
「む……まっ、真琴殿は駄目だ。リシア殿も同じく! ……ふむ、となると」
「本気にすんなっての。さ、進もうぜ」
バジリクスの死体は、後続の真琴たちが処理してくれるだろう。ビリーも、バジリクスの角が
ガンナーという職業も、やはりヴァルハランドでは
今でもこの世界では、弓が一般的な飛び道具である。
だが、ドワーフたちが弾丸を作ってくれるし、
同時に、卓越した腕を誇るビリーが、この上なくありがたい。
二人は周囲を警戒しつつ、互いに命を預けて進んだ。
「よぉ、サムライボーイ……ありゃ、オタクんとこの大将じゃないのか?」
ようやく砦が見えてきて、戦いの音が響いてくる。
その熱気を受けて、長い黒髪をなびかせる美貌が立っていた。一番高い岩の上で、腕組み立ち尽くしている。その切れ長の瞳は、戦いの
彼は閃治郎たちに気付くと、肩越しに振り返ってニッコリと笑う。
「おう、追いついてきた! 見よ、
酷く無邪気な、とても素直な笑みだった。
まるで子供のようで、閃治郎には将門が幼く見えた。
「ようし、ではワシも行くかの! セン! そこな
見上げる閃治郎たちに背を向け、将門は腰の太刀を抜いた。
瞬間、彼の周囲で空気が
とんでもなく巨大な圧力が、瞬時に閃治郎やビリーを包んでいた。
そして、ぼんやりと将門が光り出す。
「ワシとてサムライの座に呼ばれし男よ! ソウルアーツなるもの、とうに
あっという間に、将門は光の中で
「これぞワシのソウルアーツ! 『
将門は愛馬へと
いななく
将門はそのまま岩を駆け下りるや、真っ直ぐに砦へと突き進んでゆく。
その行く手には、モンスターが
そして、追いかける閃治郎は目を見開く。
「なっ……将門殿には、触れることすらかなわぬのか!?」
まさに、
剣を手に、
あとに残るのは、道。
かろうじて進路上にいなかったモンスターたちは、次々と逃げ始めた。
将門が作った道を走りながら、改めて閃治郎は思い知った。
ソウルアーツを解放した将門には、敵などいないように思われるのだった。
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