第15話「閃治郎、ぱらでぃんト共闘ス」
民の悲鳴は
即座に閃治郎は、往来へと飛び出て身構える。
すぐ隣で、
「この気配……王都ヴォータンハイムにモンスターだと!?」
素直に閃治郎は驚き、同時に納得した。
先程の女騎士、
二人は同時に、殺気が満ちた空を見上げた。
「なんと、先日の
そこには、先日戦ったグリフォンが飛んでいた。
見るからに大きな群れの
しかも、逃げ惑う民を脅かしているのは、グリフォン自体ではなかった。
「
「ああ、見えているとも。僕にもわからないが、これは……これはまるで」
グリフォンやヒポグリフの背には、武装した巨漢が乗っている。
よく見れば、牙の生えた
顔は
「……僕は昔、
「
「そ、そうなのか!? 会ってきたようなことを言う」
「ヴァルハランドは神々の国、諸国の神話が交わる土地だからな。ま、まあ、お会いした時は私も
だが、今は
今朝ちらっと新聞で見た気がする……確か、東の村がオークに襲われたと。今まで、閃治郎にとって魔物は害獣、野の獣のようなものだった。
しかし、今は違う。
敵は
グリフォンの機動力で、王都の中心部へとオークを送り込む……これは
「おい、確か閃治郎とかいったな。やれるか?」
「無論だ」
「見ろ、オークの一部が降りてくる。民を守らねば……騎士の
桜蘭は腰の剣を抜き放った。
それを正面で、天へと捧げるように真っ直ぐ構える。
騎士の作法にのっとった儀礼で、張りのある声が叫ばれた。
「我こそはシャルルマーニュ殿下の騎士、桜蘭! 宝剣デュランダルを恐れぬなら、かかってくるがいい!」
堂々と名乗りを上げて、桜蘭は両手で剣を身構えた。
その頃にはもう、地を蹴る閃治郎はオークの一団に接触していた。
突然、街の中に出現した、それは戦場……あっという間に、人々が逃げ惑う
即座に閃治郎は、
くぐもった絶叫と共に、胴体を横一文字に裂かれた巨体が倒れた。
「ここは僕が引き受けた! 落ち着いて避難を!
ちらりと見やれば、真琴も懸命に人々を誘導していた。
こういう時、彼女が振るう剣は道を指し示す。敵を斬るよりも、何倍もの人間を救える気がするのだ。
真琴とて、モンスターは恐ろしいだろう。
だが、勇気を奮い起こす彼女が、閃治郎には立派なサムライに見えた。
そのまま
抜刀と
そして、
「貴公、抜け駆けだぞっ! 私が名乗りをあげてる隙に!」
「なにを
「騎士の戦いは、常に誇り高くなければいけない! ……特に、私は! フランツ王国の人間ではないから! 誰よりも騎士たらんと身を正さねばならんのだ」
「……それは、理解できる。僕たちも同じだからな」
桜蘭は閃治郎と同じアジア人だ。
どういう経緯かは知らないが、彼女の一族は国を出て、西へ西へと旅し……あのシャルルマーニュの臣下になったらしい。フランツ王国というのはもしや、イギリスと共に日本へ介入してくる、あのフランスのことだろうか?
だが、閃治郎は桜蘭に奇妙な共感を覚えた。
互いに背を守って
「桜蘭殿は、騎士の一門の出ではないのか? 確か騎士とは、西洋では貴族の階級でもあると聞いているが」
「私はどこまでいっても、
「僕たちと、新選組と同じだな。ならば、やることは一つだ」
「ああ!
騎士と武士、生き方は違えども、同じ方向を向いている。
少なくとも、閃治郎と桜蘭は同じものを
それは、民と国の平和。
「そういえば、沖田さんたちも剣の名前を名乗ってたっけな……
閃治郎の脳裏を、懐かしい記憶が蘇る。
神速の達人剣士、沖田総司を思い出せば、自然と居合の技が冴え渡った。
新選組の隊士の中には、
その礼として、隊士は名乗る声に剣の
勿論、銘も無き神剣を振るう閃治郎には、縁のない話だった。
「フッ、やるな! 閃治郎とやら!」
「貴女も、女性とは思えぬ剣の
「この宝剣デュランダルには、聖人の
「やれやれ……暑苦しい騎士様だ」
互いに競うように、オークを斬る。
上空から襲い来るヒポグリフも、どちらからとも言わず叩き落とした。
打ち合わせの言葉は必要ない。
剣を振るう互いの覇気が、無言の連携を完璧に繋げていた。二人はまるで、一つの刃のように
だが、モンスターを掃討しつつある中、閃治郎は違和感を感じる。
「おかしい……計画的な襲撃に見えて、妙に
桜蘭は、美貌に汗を光らせ剣を振るっていた。
両刃の剣は斬れ味鋭く、輝く刀身の斬れ味は恐るべきものだ。だが、桜蘭は総崩れとなったモンスターたちへの攻撃をやめようとしない。このまま放っておけば、単騎で追撃に出てしまうのではと思われる程だった。
「いや待て……それを敵は狙っているのか? とりあえず、桜蘭殿!」
「なんだ、閃治郎!
「いや、それはありないが……」
「ハッハッハ! 照れるな照れるな。さあ、宝剣デュランダルよ、民の敵を討て!」
奇妙な違和感は今や、不安となって閃治郎の胸中に広がっている。まるで、空を覆う黒い
なにかある……そう思ってくれたのは、閃治郎だけではないようだった。
「そこまでだよ、桜蘭! もういいっしょ、ね? モンスターは逃げてくが、ここは王都のド真ん中……すぐに城の衛兵やヴァルキリーたちが飛んでくるさ」
「し、しかし、殿下! ……殿下? その、なんです? 鼻の下なんか伸ばしちゃって」
「いやぁ、騎士ってのはねえ桜蘭。
「当然です! ですからこうして私が……それなのに殿下は」
桜蘭を
彼自身も、お付きの騎士たちを従え剣を振るってくれたようだ。だが、
そして、そんな無理な姿勢なのに、不可解な程に剣技が冴え渡る。
「真琴殿」
「あっ、ちち、ちがっ、違うのセン! これは」
「いや、シャルルマーニュ殿には感謝だな。真琴殿が安全でなければ、落ち着かん」
「セン……あ、あのね。他に言うこと……ない?」
「シャルルマーニュ殿、頼み申した! 跳ねっ返りのお
背中で何故か、真琴の怒るような声が聴こえた。
ウスラトンカチとか
やはり
だが、逃げ遅れたオークを処理し、グリフォンが飛び去るのを見送った。
片付いたようだが、やはりまだ違和感がなにかを訴えかけてくる。
「やはり妙だ。――ムッ! 誰だ、あれは……!」
ふと視線を感じた。
突き刺すように
ふと振り向き見上げれば……
その姿は不穏な気配を残したまま、瞬時に閃治郎の視界から消えてしまうのだった。
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