第14話「閃治郎、休日ニ女騎士ト遭遇ス」
改めて街に出ると、普段とは違った賑わいが
大通りに人が
混み合う中で自然と、
「真琴殿、僕から離れないことだ。迷子になられても困るからな」
「あ、うん……って、てて、てっ! ……手、を、あ、う」
「こっちだ、
混雑の中で自然と、閃治郎は真琴の手を握っていた。やはり、剣を取るサムライとは思えぬほどに、やわらかく小さな手だ。彼女が言うスポチャンとやらも、閃治郎が知ってる道場剣術とは違うようである。
ともあれ、日曜日というものの
やがて二人は、剣や鎧を扱う武具屋へとたどり着く。
「……あのさ、セン」
「ん? どうかしたか? 真琴殿、ここの品揃えはなかなかで、先日
「買い物っていうのはね、セン」
「
以前、京の
閃治郎には、自分が顔立ちのいい
それをダシに、仲間たちが女を遊びに誘おうとしてる
「センってさ、なんか……時々ガッカリな子だよね」
「む、ガッカリな子……子とはなんだ、子とは。僕は年上だぞ?」
「はいはーい、そーですねー! ……ガッカリってとこは否定しないんだ」
「……失望させてしまったことは、謝る。すまない。でも僕は」
「ぷっ! いや、ごめん。なんかさ、センって真面目だよね」
怒って
やはり女は、わからない。
だが、どうやら真琴の機嫌はなおったようだ。
先程から繋いだ手は、今もしっかりと握り返してくる。
肌から肌へと伝わる体温には、悪い感情の流れは感じられなかった。
「こっちだ、まずは剣だが……まあ、真琴殿には真琴殿の剣がある」
「あ、これ? うーん、
「戦うだけが剣ではない、と、僕は思う。それに、真琴殿が危険を犯して戦う局面は、今後なるべく作らないつもりだ」
店内には、
そして、真剣な目で品を見定める客たちも、大半がエインヘリアルのようだ。
エインヘリアル、それはヴァルハランドに招かれし勇者の
そんな同じ異邦人たちは、男女を問わず閃治郎と真琴を振り返る。
「ん? そうか……やはりサムライはこの国では珍しいのだな」
「センはその
「真琴殿を皆、見てるな。
「かっ、可憐な乙女!? や、わたしじゃなくて、センを見てるんだと思うけど……」
しかし、そのことに無自覚なままで、彼は店の
やはり、将門の話もあれこれ聞いておいて正解だったと、閃治郎は一人
「真琴殿、
「へっ? そ、そう?」
「幸い、僕にも
「あ、お金ならわたしも持ってるよ! いいって、いいって!」
「いや、よくない。……僕が買ってやりたいのだ。先日の礼だと思ってほしい。それに」
「そ、それに……?」
閃治郎はそこまで言ってから、はたと気付いた。
今、自分は熱心になにを言っていたのか? 思い返してみれば、
新選組の中でも、
閃治郎にも、命を預ける部下が何人かいたが、生き残ったのは彼だけなのである。
「そ、その、なんだ! うん、お礼だ! 昨日は、その、
「ああ、グリフォン?」
「そう、その、ぐりほん? とかいう魔物との戦いだ。……僕は、真琴殿に助けられた」
「べっ、別に……そんなの、普通だし。とっ、当然だよっ!」
彼女はいつも、スポチャンとかいう
どれ、と閃治郎は売り場を見渡し、程よい品を見つけて手を伸ばす。
「これなどがよかろう。丈夫そうだし、それに装飾が綺麗ではないか――ん?」
閃治郎が手を伸ばしたのは、上品そうな
だが、そんな彼の手に、白く細い手が重なる。
隣を見れば、鎧姿の騎士がこちらを見ていた。
「
「ああ、済まない。いや、でもこれは僕が」
「クッ、離せ! これを先に見つけて求めたのは、この私だ!」
「……僕の手が早かったように見えるが」
先に布袋を
少女は、
彼女は手を離そうとしないばかりか、閃治郎をキツい目で
背後では真琴がなにかを言おうとしていたが、あえて閃治郎はそれを手で制した。
「僕自身の買い物ならば、女性へ
「それはこちらも同じこと! ……斬るか。クッ、抜け!」
「あいにくと、僕の剣は軽々しく抜いていいものではない。それも人間に、女性に抜くなどと……もう、人は斬りたくないんだ」
「ならばどうする! クッ……品揃えはいいが、私の見立てではこれが一番の品と見たが」
「それには同意だ」
なんともまあ、物騒な騎士様である。
だが、彼女の上から目線、
サムライなどとは違い、座を
リシアだって
さてどうしたものかと、閃治郎は相手の顔を伺う。
フンと鼻を鳴らす少女騎士は、鎧の上からでもわかる見事な胸を見せつけるようにふんぞり返った。かなりの自信家のようで、全身から緊張感に満ちたプライドが
だが、幼い声が響いて彼女は振り返った。
「
とても若い、幼いとさえ言える声だった。
そして、今度は
だが、酷く小柄な容姿で、まだまだ遊びたい盛りの子供のようにも見える。
桜蘭と呼ばれた少女騎士は、手を引っ込めるやその場に
「我が君、シャルルマーニュ
「はは、そういうのやめよーよ。ね、桜蘭? 君は僕の騎士である前に、友人じゃないか」
「しかしながら、殿下。西へ西へと放浪した我が一族を、殿下は手厚く
「もー、そういうのね、いいから。ね? ほら、立って。そっちの人たちもドン引きしてるじゃないのさ」
シャルルマーニュ……少年はそう呼ばれて、
それでも桜蘭が立たないので、彼は閃治郎と真琴とを見て
どうも、人当たりのいい人物のようで、王と
「ごめんねー、ええと……桜蘭と同じ東洋人みたいだけど、君、名は?」
「僕は乾閃治郎、こっちは」
「
どうやら真琴は、彼のことを知っていらしい。
驚く彼女を見て、シャルルマーニュは嬉しそうに
「あっ、僕のこと知ってる? カール大帝ことシャルルマーニュだよん」
「だ、だよん、て」
「で、こっちのかわい子ちゃんは、桜蘭。彼女は東洋人だけど、信頼できる騎士さ」
「……ひょっとして、桜蘭って……ローラン、なの!?」
おずおずと立った桜蘭は、フンと鼻を鳴らした。
どうやら二人共、西洋の騎士としては高名な者たちであるらしい。そのことを真琴が
「私としては、殿下。本当は故郷の発音でインランと」
「いや、それ困るなあ。ほら、僕の一番の騎士が
「クッ! 殿下! 全然っ、違います! 桜蘭でインランなんです!」
「まあまあ、いつものことじゃん? それより買い物だよ、桜蘭」
なにやら、シャルルマーニュ少年のマイペースっぷりに、桜蘭は振り回されているみたいだった。どういう訳かはわからないが、伝説の騎士ローランは……チャイナドレスが似合いそうな
だが、シャルルマーニュがなにかを言いかけた時……不意に外の往来で、人々の悲鳴が響き渡るのだった。
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