第11話「閃治郎、激戦ノ中デ破戒僧ト邂逅ス」
あれから
今日で
だが、そんな日々でもサムライとして、エインヘリアルとしての仕事は続く。
「ふむ、
空の只中で、
今、閃治郎たちは王都ヴォータンハイムを
グリフォンという魔獣らしいが、京の都で何度か見た
高い塔の屋根から屋根へ、
「将門殿! もしや、その構え」
「おうてばよ! 見ておれ、センッ! リシアにのう、お主の剣技を教えてもろうたぞ。不思議と頭の中に、
不敵に笑う将門が、ガシャリと
腰の刀に手を
だが、それを心得のない将門が?
にわかには信じがたいが、彼は自信満々だ。
「確か、こうよな……ふむ! ならば、鵺もどきよ! 消し飛ぶがよいわ!」
勢いよく全力で、将門が剣を抜き放つ。
その剣閃は太陽の光を拾って、
だが、狙われたグリフォンは、衝撃波を喰らってのたうち落ちてくる。
閃治郎のような斬れ味は、ない。
脳天を撃ち抜かれて絶命したのが、まず一匹。
しかし、空にはまだ多くのグリフォンが舞っていた。
「むう、おかしいのう! センのようにスパッと斬れなんだ」
「将門殿、
「はっはっは、そう
「……褒めて、ないですけどね」
だが、何たる
閃治郎の居合が
理由は二つ……まずは、
もう一つは、剣……武器である刀だ。
「将門殿。その刀は、貴殿の時代の」
「おうてばよ! ま、まあ、なんだ……ワシがその、ほれ、ドワーフとかいう
「え、ええ……でも、居合の技には向いてないかと。
「そういうものなのかや?」
一口に日本刀と言っても、時代によって様々である。
将門の持つ刀は、最初期のもので、まさに日本刀の
そして、すぐ背後の屋根に立つ足利の剣は、その直系の子孫にあたる。
閃治郎の剣は
「僕のこの剣は、ちょっと特殊なんですが……将門様の
「ふむ……そうかのう。まあ、ワシにはこれがしっくりくるんじゃが。っと!」
「次が来ますっ! 僕の
「ハッ! 抜かしおる!」
あっという間に次のグリフォンが襲ってきた。
ちらりと見れば、足利も別の個体と戦闘中である。
瞬時に閃治郎は、
一秒前に自分がいた場所で、鋭い爪の一撃が
「しからば受けよ、
鞘から抜き放たれる
下段からの払い打ち、それも五連撃だ。
あっという間に、翼を切り裂かれたグリフォンが重力に
巨牛もかくやという死骸を、一発で貫いてしまう。
やはり、日ノ本に名を
そして、真剣味を帯びた声が
「まーくんっ! あっちゃん! あと……セ、センッ! 周囲の
振り返れば、真琴とリシアが出窓から顔を出していた。
思わず閃治郎は、声を荒げてしまう。
「マコト殿っ! 下がっていてもらおうか! 危険だ!」
「センッ! そういう言い方って……あーもぉ! とにかくっ、グリフォン本体を
「そんなことはわかっている!」
しまった、と内心で
どうして
時として、人の言葉は刃よりも鋭い。
血も流さずに相手を斬り捨てることができるのだ。
とにかく、今度こそ……これが終わったら、今度こそ話をしよう。あの風呂場での出来事も謝りたいし、自分たちの結末をねだったことを
そのためにも、今は目の前の魔物を倒すことが先決だった。
「足利殿っ! 弓での援護を頼みます! 僕がっ、切り込む!」
真琴の言う通り、群の中に一際巨大な猛禽獣が
恐らく、あれが親のグリフォンだ。
周囲の魔獣は、その子供という訳だ。
縮地の極意を総動員して、閃治郎は屋根を蹴った。高く高く跳躍しつつ、
だが、グリフォンは放たれた抜刀術を難なく避けた。
「クッ、速いっ!? 他の奴等とは別格か!」
瞬時に閃治郎は、再び鞘へと剣を戻す。
同時に、不安定な空中で全身を使って、降りるべき足場を目指した。
だが、視界の隅で
窓から飛び出た真琴が、例のふわふわな剣を手になにかを構えていた。そう、剣を持つ右手とは逆の手に、拾った
「危ない、センッ! このっ、
真琴は、宙へと放った煉瓦を、振り抜く剣で飛ばしてきた。
それは、閃治郎の向かう先へと吸い込まれる。
そして、先回りしていたヒポグリフの脳天へと直撃した。
閃治郎はグリフォンに攻撃を避けられたばかりか、その動きを先読みされていたのだ。真琴の機転で着地した閃治郎は、すぐに目を回したヒポグリフを一閃する。
「かたじけない、真琴殿っ!」
「いーって、結果オーライッ! わたしだって、みんなと一緒に戦ってるんだから!」
「……ああ、そうだな。真琴殿、この戦いが終わっ――!? マコト殿っ!」
その時、閃治郎は見た。
ガッツポーズで笑う真琴を、先程のグリフォンが襲った。
小さく細い身体が宙を舞う。
くちばしの一撃を避けた身体は、宙へと放り出された。
無数の塔が
真っ逆さまに、真琴は落下し始めた。
「真琴殿っ! 駄目だ、駄目だ駄目だ、駄目だっ! 僕は……僕がマコトを守らねば!」
瞬時に、閃治郎は跳躍していた。
空を舞う先に、足場はない。
だが、襲ってくるヒポグリフの一匹を、瞬時に居合で斬り伏せる。
その反動で浮かび上がるや、塔の外壁へと着地……そのまま、坂を駆け下りるように走り出した。
あっという間に、落ちる真琴に追いつく。
飛びついて抱き締め、
この高さ、落ちれば助かるとは思えない。だが、真琴だけでもと思って閃治郎は目を見開く。死ぬその瞬間まで、自分は新選組の一員だ。ならば、女子供を守って死ぬこともまた、武士道……己の最後を、
声が降ってきたのは、覚悟が定まった直後だった。
「あーっ、マコトちゃん! あぶなーいっ! こうなったらエルが、ええーいっ!」
「おっと、お嬢ちゃん……俺を忘れてくれるなよ? ヘヘッ、なら……そのバケモンは、
緊張感のない少女の声と、
それで、閃治郎は気付いた。
落下する自分たちを狙って、グリフォンが急降下していた。上から
「っ……
「神仏になんぞ祈るな、小僧っ! 諦めたら、それで
「なにっ!? 坊主がそれを言うのか!?」
「御仏は皆、足掻いて藻掻くものにこそ力をもたらす……そうら!」
空中で閃治郎は、ヴァルキリーのエルグリーズに真琴ごと抱きとめられた。
そして、地上へとゆっくり降りながら見た。
空中でグリフォンが、絶叫と共に真っ二つになる。
見るも
それが、閃治郎たちと新たな来訪者……
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