第7話「閃治郎、大通リニテ大道芸ヲ演ズ」
そして、それは以前となにも変わらない……民を守るために戦うのだ。それが、
だが、初日から害獣退治で、危険度の高いガルムを討伐したものの……依頼される内容は
「……マコト殿、その……僕がやるのか?」
「もっちろん!」
「ど、どうしてもか」
「そだよ?」
京都守護職として、
つい、武器を持つ人間に対して警戒心を持ってしまう。
だが、隣の
「さ、始めよっ! これもりーっぱな、サムライのお仕事だよっ!」
「……そうだろうか」
冴え冴えと輝く白刃は、日頃の手入れもあって鋭く鞘の中で唸っていた。
「ねね、セン!」
「ん? なんだ」
「センの刀ってさ……なんかこう、普通のと違うよね。あつらえもそうだけど、刀身自体がなんだか、こう、呼吸してるような」
「フッ、なかなかに
閃治郎の刀は、さる高名な
名は、ない。
正確には、わからないのだ。
刃渡り
だが、閃治郎は難なく使いこなす。
そして、霊験あらたかな力が神秘の妙技を発現させるのだ。
「へー、
そう言う真琴の武器は、剣とは呼べぬ
だが、利発的な
そして、今日の仕事……
「よし、やるか……その、マコト殿。すまないが」
「あー、うんっ!
真琴は満面の笑みで、一歩を踏み出す。
周囲には
その中でも、やはり真琴は嫌でも目立つ。
彼女は大きく深呼吸して、最後に吸い込んだ息を声にした。
「さあさあ、そこのみんなっ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ――
ショータイム、つまり
それ自体が目的ではないが、しょうがない。
閃治郎は、真琴と距離を取って身構える。
大勢の人間が、可憐な真琴の笑顔に脚を止める。
「はーい、まずはとくとごろーじろっ! リンゴでっす!」
ぴんと横に腕を伸ばした真琴が、手の平に
ざわざわと周囲が騒がしくなる中、閃治郎は呼吸を整え目を見開いた。
瞬間、閃光が無数に走る。
抜刀、斬撃、そして納刀。
三拍子の連続は、目にも留まらぬ早業だ。それを幾重にも重ねて連ね、音速の居合斬りを放ち続ける。瞬きする間に、百以上の
あっという間に、林檎は真っ赤な皮を脱ぎ捨てた。
周囲からも「おおー!」と声があがる。
勿論、真琴には傷一つない。
「はーい、この切れ味! この
「……真琴殿、もう少し、こう……普通に話してもいいのでは」
「いーの、いーの! 外国にいるようなもんだし、みんなこゆの好きだから」
拍手が広がり、その
閃治郎としては、体得した剣技を無駄に披露するのは不本意だ。
だが、これも任務と自分に言い聞かせる。
サムライという職業は、つい最近できたばかりである。その
「ではではー、次はハイ! カボチャ!」
周囲のざわめきが、ささやきを
林檎と違って、
小柄な彼女の頭上を狙って、再び閃治郎は抜刀する。
まるで
聴衆は大喜びだが、ここからが商売の始まりである。
「そういえば……トシさんも昔は、薬を売り歩いて暮らしたらしいな」
「ん? セン、なんか言った?」
「いや、なんでもない。それより早くあれを売ってしまおう」
「ほいきた!」
二人の背後に、
携帯可能な万能薬、マジックポーションと呼ばれるものだ。
小瓶を真琴が手に取ると、閃治郎も腕を突き出し
「……はあ、気が重い」
「セン、なら代わろうか?」
「僕は女に剣を向けたりはしない。……怖くもないし、痛みには慣れてる」
スッ、と閃治郎は、愛刀で腕を
深々と切ったが、痛みはない。
大勢の視線が殺到する中で、ヒュンと太刀を
次の瞬間、鮮血が宙を舞う。
切れ味が
悲鳴があがるなかで、すぐに真琴が瓶の
「ちょっと、セン! やりすぎ、やりすぎっ! ドン引きされてるよ!」
「なんでもいい、早くやってくれ。……まったく、ガマの油売りか、僕は」
「は、はーい! こんな大変な傷も、このポーション!
最初から話には聞いていたが、本当に体験すると閃治郎は驚きを禁じ得ない。
加減はしたものの、鋭利な刃は確実に肌を切り裂き、骨まで達している。激戦の京都で戦い抜いてきた閃治郎には、特に珍しい刀傷ではなかった。
だが、それが瞬時に治ってしまうのだ。
真琴が塗ってくれた薬が、浸透してくる感覚が冷たい。
ひんやりとした感触の中で、あっという間に血が止まって傷が消えた。
「さあ、このマジックポーションが今日なら一本たったの100
たちまち見物人たちは、全員揃って客になった。
閃治郎は改めて、元通りになってしまった腕をまじまじと見やる。傷跡すらなく、改めて魔法というものに感心してしまった。リシアが瀕死の自分を助けてくれた時も、癒やしの魔法を使ってくれたのだという。
やはりここは異世界、閃治郎が生きていた場所とは
「センッ、バカ売れだよっ! ほらほら、手伝って! そっちの木箱も開けて」
「ああ、わかった。……なんだ、マコト。妙に楽しそうだな」
「そりゃもう! なんか、文化祭みたいじゃない」
「ブンカサイ……まあ、祭というならそうだな。この国は毎日がお祭り騒ぎだ」
気付けば閃治郎も、口元に笑みを浮かべていた。
あっという間にポーションが売れてゆく。
そして、誰もがニコニコと笑顔で雑踏の中へと消えていった。
あらかた売りつくした頃には、閃治郎も
だが、その時……こちらを指差す不遜な視線を感じた。
次いで、
「おいおい、見たかぁ? なんだありゃ!」
「よせ、ビリー。面倒事を率先して生み出すのは、君の
「ヘイヘの
奇妙な二人組が、こちらを見詰めていた。
片方はつばの広い帽子を被った青年で、片手になにかを
やたらと副長が銃にうるさく、どうにか最新式をと
「むっ、ヤな感じ……ちょっとセン、センってば」
「いいさ。確かにいい道化だ。だが、薬は売れたからな。それに……後ろ指をさされるのには慣れてる。異人にあれこれ言われるのは
心の中に旗がある。今も激動の時代という風に、血に濡れたままはためいているのだ。その旗に
だが、次の一言は聞き捨てならないものだった。
「よぉ、サムライボーイ! そこのガキもリンゴやカボチャみたいに、ひんむいちゃくれないかい?」
「……断る」
「そう言うなよ。東洋の猿でも、ちゃんとしてんなら一晩買ってやるってんだ」
ボンッ! と真琴が赤くなった。そして、そのまま
妙なとこで純だなと思ったが、真琴の慎ましい恥じらいも当然だ。
そして、逆に閃治郎は精神が冷たく研ぎ澄まされてゆく中で感じた。決然とした怒りは、仲間への
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